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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1341話 暴走する悲しみ

 一方その頃。

 テミスの背を守るべく戦いを続けていたフリーディアの前に残っている兵は、たったの三人にまでその数を減らしていた。

 加えて残った三人とて万全の状態ではなく、壮年の大柄な兵はフリーディアの一太刀を浴びた左腕をだらりとぶら下げたまま、大振りな太刀を片手で構えている。

 その隣では、顔に大きな傷跡の残る荒々しい兵が、荒い息を繰り返しながら刃の荒れた二振りの刀を地面に突き立て、息も絶え絶えにフリーディアを睨み付けていた。


「……もう投降しなさい。悪いようにはしないわ」

「ハッ……!! 冗談じゃねぇッ!! テメェ等みてぇなニンゲン如きに負ける位なら、死んだほうがマシってもんだッ!!」

「我等を騙し、虐げ続けてきた人間の言葉など信ずるに値しない。なれば、我が命を賭して血路を拓くまでッ!!」


 そんな二人を見据えたフリーディアが、静かに目を細めて投降を促すが、見るからに今にも倒れてしまいそうな状態であるにも関わらず、二人の闘志は欠片も衰えてはいなかった。

 だが。彼等の背に守られるように蹲る一つの影。

 そこに居るのは、先ほど声高らかに仲間達を鼓舞し、自身も勇猛果敢にフリーディアと刃を交えていたあの青年だった。

 最初こそ仲間達と共に奮戦していたものの、戦況が進み、一人、また一人と獣人兵達が倒れていくにつれて彼の気勢は勢いを失い、今や身体を丸めてガタガタと震えている始末だ。


「ハア……あまりこういう()は使いたくないのだけれど。まぁいいわ。そうまで言うのなら、投降しろとは言わないわ。そこで震えている彼の為にも、ここは剣を収めてくれないかしら?」

「ッ……!!」

「クッ……!?」


 フリーディアが、彼等の後ろで縮こまる青年へと視線を向けて口を開いた瞬間。前に立つ二人の兵の間に緊張が走った。

 こんなまるで人質を取るようなやり方は、フリーディアにとって本意ではない。

 何を憚ることなく本心を吐露するのならば、命を賭して戦いへ赴く二人の兵の忠義に敬意を示し、こちらも全力で勝負を受けたい。

 けれど、仲間を失う度に戦意を失っていく彼の姿を見てしまったが故に、フリーディアにはこの二人を倒してしまえば、彼の心が取り返しの付かない所まで折れ砕けてしまうだろう事が予測できた。

 だからこそ。投降するのではなく、戦いを止めるという提案なのだ。

 彼等は私を突破して自分達の主であるヤヤに加勢する事はできない代わりに、戦場の渦中ですら、その背で守りながら戦ってきた仲間を救う事ができる。

 その意図が正しく伝わっているからだろう。

 二人は苦悩に顔を歪めて言葉を失い、ギリギリと悔し気に歯を食いしばりながら、まるで憎き悪魔でも見据えるかの如く、フリーディアの顔を睨み付けている。


「もう勝敗はついたわ。これ以上は無駄よ。命を無駄にしないで」


 命を尊ぶからこそ、互いに命を奪い合う戦いという地獄の中で見付けた、一縷の希望に賭けざるを得なかった。

 しかし、あくまでもそれは強き人間であるフリーディア個人の想いであり、命をも賭して誇りと復讐を貫かんとする獣人たちのそれとは異なるものだった。


「無駄……だと……?」


 まるで、フリーディアの言葉が引き金となったかのように、二人の獣人の背で守られていた青年がゆらりと立ち上がる。

 その表情こそフリーディアからは見えないものの、煮え滾る怒りの込められた低く唸るような声は、彼の燃え上がる意志を何よりも物語っていて。

 背筋を走る悪寒に、フリーディアは半ば反射的に剣を構えると、小さく息を呑んだ。


「ミケ……タロ……あいつらも皆死んだ……。なんで……なんでお前らはいつもいつも俺達から奪っていくんだッ!!」


 泣き声。否。

 最早その絶叫は哭き声と呼ぶべき怨嗟に塗れていた。

 そのあまりの気迫は、味方であるはずの獣人二人さえも気圧されてしまうほどで。


「ミケは口は悪いけど仲間想いで……いつも楽しそうに笑ってる奴だった!! タロはすげぇ優しくて、こんな情けねぇ俺の事も見守ってくれてるすげぇ奴だったんだッ!! そんなあいつ等が張った命を……無駄だなんて言うヤツは絶対に許さねぇッ!!!」

「お前ぇ……ッ!!」

「ハルキ……」


 ぎらりと見開いた怒りと憎しみに染まった双眸から涙を流しながら、ハルキは胸の内で爆発した悲しみをまき散らした。

 そんな途方もない怒りの矛先は、彼等の前に立つフリーディアへと向けられていた。

 だが。


「……いいえ。無駄よ。あなた達は命を懸ける場所を間違えた。怒りを向ける相手を間違えたのよ」


 ハルキから向けられる怨嗟の感情を一身に受け止めながら、フリーディアは静かに、そして厳かに言葉を返す。

 そして、刃を交えることを決意したフリーディアの心を表すかの如く、身体の中ほどで構えていた剣を高々と持ち上げたのだった。

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