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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1340話 覚悟の証

「ッ……!!! なによ……何でよ……ッ!! なんで人間なんかにッ……!!」


 そこに在ったのは、途方もない憎しみだけだった。

 許せない。許さない。

 うわ言の様に何事かを呟きながらシズクを睨み付ける血走った瞳が、何よりも声高にそう叫んでいて。


「その目……お爺様と同じ目です。お爺様がそうであったように、きっと貴女も……もう私の言葉など届かないのでしょうね」

「ッ……!!!」


 そんなミケを静かに見据えながらシズクが口を開くと、聞こえる筈の無い歯の軋みが聞こえてきそうな程、ミケの口が固く食いしばられる。

 同時に、ミケと肩を並べている兵達も酷く悲し気な表情を浮かべた後、意を決したかの如く顔を上げてシズクへと視線を向けた。


「ならば、その憎しみを私が終わらせます。憎しみとはいえ、それ程の覚悟を前に手加減など無粋。これより先は全力にて……この猫宮滴がお相手致します」


 宣言と共に、シズクは抜き放った白刃で宙を薙ぎ、意識を切り替える。

 倒すのではなく、斃す。

 相対した敵の命を奪う為の覚悟。真なる意味で敵を斬るべく、シズクは静かに長く息を吐いた。


「嘘……だろ……? 猫宮って……あの……? 何でこんな所に……」

「ど、どうせハッタリだ!! 俺は紫様や刀夜様をお見掛けした事はあるが、こんな小娘見た事も聞いた事もねぇッ!!」

「で……でも……只者じゃねぇよ……ありゃあ……」


 シズクが精神を集中させているその間に、名乗りを聞いた兵達は動揺を露わに言葉を交わす。

 彼等の中で『猫宮』とは、故国ギルファーで最強の一族に連なる者である事を意味する。

 しかし、猫宮を名乗ったシズクには、猫宮家に指南を仰いだヤヤ程の風格は無く、そんなヤヤと互角以上に切り結ぶテミスのような迫力も無い。

 けれどその身に纏った気迫は、シズクの確かな実力を、相対する兵士達に物語っていた。


「逃げるのならば追いません。ですが……向かって来るのであればお覚悟を」


 周囲の兵士達をへチラリと視線を向けると、シズクは淡々とした口調で宣言をする。

 本来、猫宮の剣は必殺を是とする剣だ。相対する敵を斬り倒し、故国の道を切り開くがお役目。

 だからこそ、これまでシズクが振るってきたものは、猫宮での教えを歪めた太刀筋で。

 だが、本気で技を振るう以上、これまで通り命だけは残すなどという器用な真似はできない。


「ハッ……」


 しかし、ミケはシズクの忠告を吐き捨てるように歪んだ笑みを浮かべると、ゆらりと顔を上げて刀を構える。

 そこにはもう、先程までシズクに呼びかけてきていた優し気な彼女の面影は無く、その身を焦がす怒りと憎しみに塗れていた。


「アンタ等ァ!! 竦んでんじゃないよ! 忘れたか!? どうせアタシ等にゃ後なんて無いのさッ!! ヤヤ様と共に人間共を狩り尽くすッ!! 命なんてとうの昔に棄ててんだ! そうだろうがッ!?」


 ミケは動揺を見せた兵士達にいら立ちをぶつけるかのように咆哮すると、刀を振りかぶって一直線にシズクへと距離を詰めた。

 それに一歩遅れて、周囲の兵達も雄叫びをあげると、一斉にミケに続いて突撃をはじめる。


「……残念です。せめて一人でも退いてくれればと思ったのですが」


 だが、シズクはそれを見てもただ静かに呟いただけで、構えをゆっくりと身体を巻き込むような形へと変えていく。

 まだ未熟な私では、長いタメ(・・)を必要とするこの技を戦いの最中で放つ事は難しい。

 けれど……刀に力を注ぎ込む時間は十分にあったッ!!

 胸の中でそう雄叫びをあげながら、シズクが刀の柄を握り締めてさらに力を籠めると、刀身が白い輝きに包まれた。

 そして。


「私たちギルファーがようやく手に入れた平穏の……明日への希望を紡いでくれたテミスさんの……!! 邪魔はさせませんッ!!!」


 気合の籠った咆哮と共にシズクの刀が中を薙ぎ、弧を描いた刀の軌跡から光の刃が放たれる。

 その技は確かに、背後で嵐の如くテミスが放ち続けている斬撃……月光斬で。

 シズクを目がけて猛進するミケ達を迎え撃つように放たれた月光斬は、逃れる間も無くミケ達の姿を呑み込んで駆け抜けていく。

 後に残るのは、シズクの月光斬に切り裂かれた兵士たちの亡骸ばかりだった。

 だが。


「ッ……!!!! ぅ……がぁああああああああああああッッ!!」


 地面の上に転がる屍の一つがピクリと動くと、裂帛の叫びを上げたミケがシズクへと一直線に駆け出した。

 振りかざされたその手には、固く握られていたはずの刀は無く、代わりに猫人族特有の鋭い爪が鈍い輝きを放っている。


「武器を失ってなお立ち上がる執念。天晴れです」

「あ……」


 しかし、禍々しく光る爪がシズクに届く事は無く、静かな言葉と共に振るわれた白刃がミケの身体を斬り裂いた。

 そして。

 力を失ったミケの身体がドサリと地面へ倒れ伏す音と共に、シズクはキンッ……と澄んだ音を奏でて、悲し気に刀を納めたのだった。

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