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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1330話 剣閃の楯

「すぅ……っ……ふぅぅ……」


 静かに、しかし深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 肺へと取り込んだ空気が全身へと行き渡るようなイメージと共に、テミスは努めて全身の筋肉を緩めていく。

 傍らから見れば、ただぼんやりと佇んでいるだけにしか見えないだろう。

 確かに、これから戦いに臨もうとしている者の姿勢としてはあまりにも無防備だ。これならばまだ、足元で身を屈めて戦いに備えているフリーディアの方が、余程まともであると言えるだろう。

 だがこれは、次の瞬間の為に必要な準備で。

 それを理解しているからこそ、フリーディアも口を噤んだまま、その時を待っているのだろう。


「…………」


 テミスがゆらり、ゆらりと上体を僅かに揺らめかせながら佇んでいたのは、時間にして僅か数秒の事だった。

 故に、密かに周囲を取り囲んでいる襲撃者達もその意図に気付く事は無く、じわりじわりと包囲の輪を縮めていた。

 しかし、次の瞬間。


「行くぞッ!!!」

「ッ……!!!」


 突如として怒声が響き渡ると、テミスとフリーディアの両名が、弾かれたように動き出した。

 まず、叫びと共にテミスの手が雷光の如き速度で閃くと、傍らに突き立てられていた大剣を引き抜いて肩へと担ぎ上げる。

 同時に、身を屈めていたフリーディアが焚き火の横を一気に駆け抜け、簡易的なテントの中で眠るサキュドとシズクを起こしに向かった。

 そこで漸く、周囲を取り囲んでいた襲撃者達もテミス達の異変に気が付き、ひそひそと潜めた声で言葉を交わし始める。


「おいおい……あいつら、なんで戦いの準備なんか……」

「まさか気付かれた……? アンタが足音立てるからじゃないの?」

「馬鹿言うな。見張りに立っていたのはただの人間だったはず。随伴していたサキュドや獣人族の娘ならばまだしも、人間があの程度の音を聞き分けられるかよ」

「だったらなんで……」

「それより……どうすんだ? 指示は……」

「…………。フッ……」


 朝霧の中から漏れ聞こえる不用心な会話に小さく笑みを漏らすと、剣を担ぎ上げたテミスは先にテントへと向かったフリーディアに追い付くべく、一足飛びに高く飛び上がった。

 獲物に動きがあったというのに、悠長に言葉なぞ交わしている所を見るに、大した輩では無いのだろう。

 これならば、慎重を期して防御を優先するよりも、伸してしまったほうが容易いか。

 空中で身軽に宙返りをしながら、テミスがそう胸の内で呟きを漏らした時だった。


「弓持ちッ!! 討てェッ!!」

「フン……」


 最早、自分達の存在を隠す事は諦めたのだろう。女の凛とした鋭い叫び声が放たれると、それに呼応して弓の弦を引き絞る微かな音と共に、射かけられた矢が空気を切る風切り音が一斉に響き渡る。

 だが、それも全て想定の内。空中で体制を整えたテミスは静かに笑みを漏らすと、肩に担いだ漆黒の大剣を無軌道に振り回した。

 豪快な風切り音を響かせながら、目にも留まらぬほどの速さで振るわれた斬撃の軌跡は半球を描き、テミス達へ向けて射かけられた矢を悉く叩き落す。


「なッ……!?」

「はぁ……っ? 何だよ……それッ……!!」

「嘘だろ……?」


 その光景は、周囲を取り囲む襲撃者達にとって予想だにしていなかったもので。

 驚愕に息を呑む音や、驚きに打ちひしがれる声が、ざわめきとなってテミス達の元へ響いてくる。


「……相変わらず、滅茶苦茶ね。一斉に放たれた矢の雨を全部叩き落とすなんて」

「そうでもないさ。射られた矢は剣とは違って当てさえすれば弾き飛ばせるからな、ある程度の速さで剣を振るう事さえできれば、誰にでもできる芸当だ」

「貴女の剣が普通の剣で、かつ自分だけならね。自分の身の丈すら越える大剣をあんな風に振り回すなんて、やっぱり滅茶苦茶にも程があるわ」


 矢の雨を全て叩き落としたテミスがテントの傍らに着地すると、剣を抜く事すら無くその様子を眺めていたフリーディアは、呆れたように肩を竦めてテミスへと語りかけた。

 そんなフリーディアに、テミスは気負う素振りすら見せずに言葉を返すと、携えていた大剣を再び肩に担いで朝霧を見通すかのように前方を睨み付ける。


「二人は起こしたわ。一応、戦闘態勢を整えて中で待機と伝えてあるけれど」

「上出来だ。ここからはあちらの出方次第。退くならば良し、向かって来るならば叩き潰すまでだ。二人共……聞こえたな?」

「えぇ確かに。事もあろうか、テミス様に襲撃を仕掛けた身の程知らずには、悔やみきれぬ程の後悔をさせてやりますとも」

「了解です。というか……その……ごめんなさい……。私、敵襲に気付かず眠っているなんて……」


 そのまま、テミスは背後に一瞥すらくれぬままに問いを発すると、小さなテントの中からそれぞれに返事が返ってきた。


「構わんさ。謝罪は必要ない。サキュドもやり過ぎるなよ? さて……どう出て来るか……」


 そんな、二人の個性をそのまま映したかのような返答に、テミスは静かに微笑みを漏らすと、未だ姿を現さない敵の次なる攻撃に備えて身構えたのだった。

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