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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1329話 朝靄の来訪者

 一夜が明けて翌朝。

 それは未だ、夜の明けきらぬ薄暗い時間の事だった。

 数少ない貴重な睡眠時間を有効に活用する為、テミスたちは一人を周辺警戒と火の番に据え、交代で身体を休めていた。

 今はその役割も四人目。

 最も疲労の色が濃かったフリーディアが休息を終え、一足先に朝食の準備を始めている。

 傍らに設えられた一枚の布を棒切れで支えただけの簡素なテントの中では、一番最初の夜警を担当したシズクと、シズクからその役を引き継いだサキュドが微かな寝息を響かせていた。

 だが、休息を取る二人の側にテミスは居らず、テミスは一人、焚き火から少し離れた位置で地面に突き立てた大剣に背を預け、外套に包まって目を瞑っている。


「……ふふ。本当に意地っ張りなんだから」


 フリーディアはそんなテミスを一瞥してクスリと小さな笑みを漏らすと、潤沢な湿気が立ち込める朝霧を胸いっぱいに吸い込みながら言葉を零した。

 ああしてテントをサキュドとシズクに譲ったのも、きっと彼女なりの優しさの表れなのだろう。

 貴女はいつだってそう。と、昨夜の残りのスープを火にかけつつ、フリーディアは零した言葉の続きを胸の内でひとりごちる。

 皮肉気な普段の言動で覆い隠されてはいるけれど、その実私達には見えない所で一人泥をかぶっているんだ。

 今回だって、自分はまとまった睡眠を取ることの出来ない中継ぎの夜警を担っていたというのにも関わらず、ああして一人で体を休めている。


「貴女はきっと……お礼を言った所で、適した役割を配しただけだ……なんて言うのでしょうけれど」


 そんなテミスだからこそ、一度は敵対していた私がこうして肩を並べているのだろうし、人間を嫌っている筈のサキュドが主と認め慕い、故郷を救われたシズクが信頼を寄せているのだろう。

 けれど、その『強さ』は共に在らんとするフリーディア(自分)にとっては、酷く寂しくて。

 じくりと身勝手な痛みを発する己が心に小さく息を吐くと、フリーディアは焚き火の傍らに横たえられた丸太に静かに腰を下ろす。


「まだまだ、貴女の背中は遠いわね……」


 パチパチと弾ける焚き火の音に耳を傾けたフリーディアが、苦笑いを浮かべて独り言を呟いた時だった。

 サクリ……と。

 焚き火の音に混じって下草を踏みしめる微かな音を、フリーディアの耳が捉えた。


「っ……!」


 瞬間。

 フリーディアは素早く仲間達の方へと視線を走らせるが、誰も起き出してきている様子は無い。

 それはつまり、自分達以外の何者かがこの場へ近付きつつあることを意味している。

 無論。ここは町と町の間を結ぶ街道から少し外れただけの場所。今は朝霧に包まれて見通しが悪くはあるが、通りかかった誰かがこの焚き火を見付けて近付いてきても不思議ではない。

 だが、その足音は明らかに自らの気配を隠匿しており、その事実がそのまま招かれざる客の来訪を物語っていた。


「…………。そろそろスープが温まるわね……。テミス。起きて」


 故に、フリーディアは慎重に腰を上げると、咄嗟に独り言を呟きながらテミスの側へと歩み寄る。

 そして、眠っているテミスを起こすべく伸ばされたフリーディアの手が、その肩へと触れる直前。

 テミスはまるで、はじめから眠ってなどいなかったかのようにパチリと目を開くと、身体を背中の大剣へと預けたまま、視線だけを左右へと動かした。


「きゃっ……!? び……びっくりした……まさか……起きていたの?」

「いや。お前がこちらに近付いてくる気配で目が覚めた。が……」

「さっき、微かにだけど足音がしたの。だから……!」

「あぁ……囲まれているな。何処のどいつかは知らんが無駄な事を」

「ッ……!!!」


 突如として目を開いたテミスに驚き、フリーディアは小さく悲鳴をあげるが、すぐに声を潜めて現状をテミスへと伝える。

 その言葉に、テミスはゆっくりと頷いてみせると、鋭く息を呑むフリーディアの傍らでゆらりと立ち上がった。


「…………」


 敵の数はおよそ五十人ほどだろうか。

 この野営地点を中心に周囲を輪のように囲み、ゆっくりとこちらへ近付いてきている。

 しかし、しっかりと訓練を施された兵士では無いのだろう。個々人の練度にばらつきが酷く、上手い者はテミスの感覚を以てしても気配が捕らえ切れないが、下手な者は意識せずとも場所が分かるほどに音を立てていた。

 尤も、その基準は襲撃における隠密行動をする上でのものであり、これ程までに視界の利かない朝霧の中で、下手な者とはいえフリーディアが接近に気が付く事ができたのは大殊勲なのだが。


「矢でも射かけられては堪らん。私が守りに付くからフリーディア、合図をしたらお前はサキュド達を叩き起こせ」

「……了解!」


 頭の中から眠気を追い出しながら、現状を把握したテミスはクスリと口元に笑みを浮かべると、静かな声でフリーディアへ指示を下す。

 その力強い言葉に、フリーディアはコクリと頷きを返して、テミスの合図に合わせるべく身体を屈めたのだった。

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