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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1318話 狩りの極意

 集団を相手取る戦いには、多岐に渡る戦法が存在する。

 尤も、元より白翼騎士団を率いて戦場を駆けていたフリーディアに、このような解説は必要ないだろうし、ともすれば戦場での戦略という意味で言えば、付け焼刃で鎬繋いでいる私などより、基礎の出来ている彼女の方がよっぽど優秀な用兵家と言えるだろう。

 だが、こと盗賊団のような損得を以て群れている連中に関しては話は別で。

 太平の世であると謳われていたあの世界のあの時代においては、外敵という明確な脅威が目に映らなくなったからこそ、この手の小悪党に対する戦術が磨かれたのだ。


「なぁ、フリーディア。軍隊において……いや、お前達の騎士団でも構わん。指揮官たる者が戦闘不能、もしくは討たれた場合はどう動く?」

「え……? 今更何を言って……」

「良いから答えろ」

「っ……! その場合、次席指揮官に指揮権が移るわ。白翼騎士団(ウチ)でいうのならカルヴァスね。その先は、状況によるだろうから何とも言えないけれど、そのまま戦闘を継続するか、撤退するかの判断は彼がする事になるわ」

「……だろうな」


 テミスはフリーディアの言葉を聞くと、クスリと意地の悪い笑みを浮かべて、作戦卓の上に並べられた駒のうち一番内側……即ちテミス達を示す第一分隊の駒を指でつついて横倒しにする。


「軍とはそういうものだ。部隊を率いる長とて、その性能(スペック)に差こそあれど替えが利く。例えるのなら、頭を切り落とした所ですぐに別の首が生えて来る多頭竜(ヒュドラ)といった所か」

「悪趣味な例えね……」

「クク……だが、間違ってはいないだろう? ならば次。食い詰めた者達が群れを成して出来上がった野盗集団の場合は? 仮に集団の頭目を討ち取った場合、どうなるだろうな?」

「一目散に逃げ出すか……変わる事無く襲い掛かってくるでしょうね。相手によっては、敵討ちだと相手の士気が上がってしまう場合もあるわ」

「フム……? まるで見てきたかのように答えるんだな?」

「この目で見てきましたからね。実際に……そうだったもの」

「……そうか」


 質問を続けたテミスに、フリーディアは淀みなく答えを返した。

 その迷いの無い態度に、テミスはクスリと唇を歪めて皮肉を挟むと、フリーディアは悲し気に視線を落として声を落とす。

 噂によれば、フリーディア達白翼騎士団は魔王軍との戦いへ赴くばかりでなく、全員が騎兵になり得るというその機動性を生かして各地へと派兵されていたらしい。

 無論。その任務の中には、村を脅かす盗賊団の撃滅なども含まれていたのだろう。

 だが、どうせこの底抜けのお人好しは、相対した敵にすら心を砕き、時が流れた今も尚、自らの救う事ができなかった連中の死を悼んでいるのだ。


「だがこの手の輩には、一つ例外がある」

「例外……?」

「あぁ。頭目たる者が圧倒的なカリスマ、もしくは強さを以て集団を率いていた場合。集団の長たる者さえ討ち取ってしまえば、組織自体が瓦解する場合があるんだ」


 そう言うと、テミスは作戦卓の端へ綺麗に寄せられていた駒を取り上げると、手の中からばらばらと零して邪悪に微笑んでみせる。

 以前の職場でも良く聞いた話だ。上に立つ人間が裁量権を掌握しているため、何事も上の許可が無ければ動く事ができない。だからこそ、組織を潰す時は入念に準備を重ねたうえで、()を取りに行く。

 彼等とて、寝首をかかれないための対策であったり、気性の荒い部下達をまとめやすくする工夫であったりと事情はあるのだろうが、如何なる理由があったとしてもそこが体制の弱点であることに変わりはない。

 ならば、敵である我々が、さらけ出された弱点を突かない理由は無いだろう。


「つまり……ヤヤを討つ……と?」

「あぁ。敵が何人いようと、この町の防衛力ならば幾ばくか耐える事はできる筈だ。その間に敵陣を一点突破に穿ち抜き、頭を押さえる」

「ハァ……もぅ……相変わらず無茶苦茶な案を出すわね。いい? テミス。確かに貴女は強いわ。幾千の兵が相手だとしても、突破し得る自信はあるのでしょうね。でも、その後はどうするつもりなの?」

「後だと?」

「えぇ。仮に貴女がヤヤの前まで無傷で辿り着けたとして……よ。敵陣を穿つという事は、その時点であなたの後ろには沢山の敵兵が居るわ。流石の貴女でも、取り巻きの兵を相手にしながらヤヤと戦うのは無謀だわ」


 テミスが不敵に言葉を重ねると、フリーディアは呆れたように深い溜息を吐いてから、まるで幼子に言い聞かせるかのような口ぶりで語り掛けた。

 そもそも、単身で敵陣に斬り込むなんて行為自体が自殺行為に等しいのだ。

 その上、それ程の集団を率いるだけの腕っぷしを持つ相手と刃を交えるなど、万に一つの勝ち目もある筈がない。


「確かに……ギルファーの連中はやたら一対一を好んでいたが、出奔した連中が同じ趣味嗜好を持っているとは限らんか。ならば、露払い役に腕利きを数名連れて行くとしよう」

「っ……そうじゃなくて……」

「クク……たとえ相手が盗賊であろうとも、救えるだけ救うつもりか? 相変わらず甘い奴め。人助けは結構だが、私の邪魔はしてくれるなよ?」

「あぁ……もう……貴女って人はっ……!! はぁぁ……良いわよそれで。やれば良いんでしょう? やれば……」

「……? 何をそんなにむくれているんだ……変な奴め」

「知りませんッ!!」


 だが、テミスはフリーディアの心配など欠片たりとも察するそぶりは無く、むしろその忠告を全く別の方向に結論付けて判断を下す。

 そんなテミスに、フリーディアは心の底から呆れ果てて深い溜息を吐くと、投げやりに話を切って自らの席へと踵を返したのだった。

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