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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1314話 ギルドからの客人

「失礼致します。お客人をお連れ致しました。……どうぞ、こちらへ」


 マグヌスとサキュドが戻ってから程なく、執務室の戸が軽くノックされると、先程の伝令の兵に連れられた一人の女が、ゆっくりとした足取りで部屋の中へと進んで来る。

 冒険者ギルドの制服に身を包んだその女は、鴉の塗れ羽根が如く黒い髪を短くまとめ、鋭い印象を受ける切れ長な目には、幾ばくかそれを和らげる丸眼鏡がちょこんと乗っていた。


「案内、ありがとうございます」


 その外見から受ける印象の通りに女は生真面目な性格らしく、入り口で伝令の兵を振り返ると、ぺこりとお辞儀を返してからテミスの前まで歩み寄ってくる。

 本来、軍隊たる魔王軍の規律を色濃く残す黒銀騎団においては、指揮官であるテミスに名や所属、目的を告げる事無く歩み寄るのは重大な規律違反ではあるが、当のテミスが黙したまま動かぬが故に、側に控えるマグヌスやサキュドも身体に力を込めたまま動く事は無かった。


「突然の来訪にも関わらず、面会の許可を頂きありがとうございます。私、冒険者ギルドファント支部のミシアと申します」

「黒銀騎団のテミスだ。そこの大きいのと小さいのが副官のマグヌスとサキュド。そっちに居るのが側付きのフリーディアだ」

「なぁッ……!?」

「サキュド」

「っ~~~~!!!」


 テミスの前まで進み出たミシアが、深々とテミスへ頭を下げながら自己紹介をすると、それに応じたテミスがマグヌス達を簡単に紹介する。

 その際、サキュドから不満気な声が漏れるのが聞こえたが、サキュドの隣に居たマグヌスが抑えた声で即座に彼女を律したお陰で事なきを得た。

 同時に、テミスの視界の奥で、ミシアの案内を務めた伝令の兵がほっと胸をなでおろしたかのように肩を落とすと、開かれたままになっていた扉が音も無く閉じられた。


「なんと……あのエビルオルクを討伐されたお二人にお会いできて光栄です」

「挨拶は良い。用件は調査依頼の報告と聞いているが? 本来の冒険者ギルドの形式では、調査依頼は書面での報告だと記憶しているが?」

「はい。今回のご依頼、特別お急ぎとの事でしたので、仔細を詳しくご説明させて頂く為、冒険者から直接報告を受けた私が、ご説明させていただきたく参じた次第でして。あとはですね……その……」

「……?」

「先日。買取を担当する者が大変な失礼とご迷惑をおかけしたとか……。此度の対応は、その件におけるギルドからの謝意とお受け取りいただければ。ギルドマスターより、自分が直接お伺い出来ず誠に申し訳ない……と言付かっております」

「なるほど……」


 テミスの問いに、ミシアは僅かに口ごもった後、一際感情の籠らない事務的な声で説明を口にしてから、再び深々と頭を下げる。

 その姿にテミスは、内心でミシアに少なくない同情を寄せながら小さく頷きを返した。

 要するに彼女は、ギルドから同僚の失敗の尻拭いを押し付けられたのだろう。

 冒険者ギルドとしては、なかなかどうして今回のやらかし(・・・・)をそれなりに重くとらえているらしい。

 そこに舞い込んだ我々からの緊急依頼。だからこその、渡りに船とばかりに特別対応を決めたのだ。

 だが、実際に仕事を投げられる現場の人間としてはただの迷惑でしかない訳で。

 テミスは、運悪くその犠牲となってしまったミシアに微笑みかけると、小さく肩を竦めて言葉を続けた。


「では、報告を頼む。っと……説明は長くなりそうか?」

「畏まりました。そうですね……それなりの時間を頂く事になるかと」

「わかった。ではマグヌス、すまないが全員分の珈琲を頼む」

「ハッ!!」

「え……? あ……ですが……」

「そう構えなくていい。当事者でもない者に責を問い質すような真似はしないさ。珈琲でも飲みながら、気楽に説明をしてくれ」

「は……はいっ……! ……ありがとうございます」


 手早くマグヌスへと指示を出した後。

 それまで、厳かな雰囲気を演出する為に姿勢を正していたテミスが、頬杖をついて気楽さをアピールしながらそう告げる。

 すると、その意図を察したのか緊張した面持ちを浮かべていたミシアは、この部屋に入って初めて柔らかな笑顔を浮かべて礼を述べると、少しだけ固さの取れた声色で礼を口にした。


「ではまず、こちらの報告書を。最初に、ご指定頂いた地点をこの町から近い順に振り分けまして、第一地点からご説明を始めていきます。第一地点の周囲には危険な魔物などの痕跡は見られず……」

「フッ……」


 そして、持参した分厚い報告書をテミスへと手渡した後、ミシアが朗々とよく通る声で説明を始めると、マグヌスは命じられた珈琲の準備を手早くこなしながら、密かに穏やかな笑みを浮かべたのだった。

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