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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1309話 張り子の虎

 十日。

 この日数は、テミスとフリーディアが斥候部隊たちの現在位置から逆算し、全部隊の集結にかかると判断した日数だ。

 無論。部隊によっては十日より早くファントの町へ帰着することのできる部隊もあるだろうが、即時帰還命令を携えた伝令が彼等の元へ辿り着くまでに要する時間を鑑みても、少なくとも五日ほどは現在の戦力だけで町を守る必要がある。


「だからこその第一作戦。冒険者たちを用いた索敵行為だ」


 コツリ。と。

 テミスは作戦卓の上に音を立てて駒を並べると、サキュドとマグヌスを前に厳かな口調で口を開いた。

 都市防衛という観点において、情報という存在はこれ以上ない程の武器になる。

 それは、獣が行う威嚇行為然り。たとえ、敵を発見する事ができなくても、姿を伏せている敵に対して、索敵を行っているという事実はその動きを鈍らせ時間を稼ぐ一助となるだろう。

 故に。テミスは万に一つヤヤ達と会敵してしまえば全滅必定である冒険者たちを、調査の名目で危険度の低い場所へと向かわせ、大規模な索敵が行われているという事実を作り出したのだ。


「次に第二作戦。町の最外周を守る衛兵の増員と、町を出入りする者達に対する警備強化。たとえハリボテだろうと、こちらが警戒しているという意図が伝われば問題無い」


 続けられた言葉と共に新たな駒がファントを囲むように配され、防壁に囲まれた地図上のファントの町は、さながら城塞の如く堅牢な町と化していた。

 加えて、こちらの情報を相手に渡さない為の情報統制。

 もしもヤヤ達がファントを攻めるつもりなら、当然連中もこちらの動きを探るべく斥候を放っているだろう。

 しかし、ファントへの出入りを遮断してしまえば町としての機能を失い、ファントの町は三日と経たず瓦解してしまう。

 ならば、内側に入り込まれない為の守りを徹底する。それと同時に、仮に内部への侵入を許してしまった際の保険として、町の住人の普段と変わらない平穏な生活を維持する事で、外敵に対する守りの自信を誇示する。


「現状で打てる手はこれで精一杯。敵戦力が未知数である以上、張れるだけの虚勢と欺瞞をつぎ込んだが……」


 この時点で、兵士たちの駒に囲まれた町の中に残る戦力……つまりは万一の際の即応戦力はテミス達を示す第一分隊の駒一つのみとなっており、苦々し気に漏らされたテミスの言葉が現在の窮状を物語っていた。

 全てを賭けた大虚勢。これこそが、ファントに迫っているであろう危機に対してテミス達が選んだ遅滞作戦の全容だった。

 町を護るに際して、防衛戦力はなるべく均等になるように配すべきだ。何故なら、戦力が偏れば脆弱な一点が『穴』となり、そこを突かれれば全てが瓦解してしまう。

 だが、それは同時に戦力の分散を意味しており、仮に敵が南方から攻めてきた場合、北方に配した戦力は部隊を集結させるまでの間は丸々そのまま遊兵と化す。

 だからこその全賭け。

 通常であれば、迎撃部隊として待機させておく分の戦力をも虚勢に使い、万に一つ侵略が行われた場合でも、テミス率いる第一分隊が部隊集結までの時間を稼ぐ算段だ。


「ここまでで何か質問はあるか? 特にマグヌス、万が一我々が出撃する事態となった時には、お前がここで全体の指揮を執る事になる。細かな点でも気になる事があれば質問してくれ」

「ハッ……!! では一つ。敵襲があったとして、その際の敵の分散進撃は想定しますか?」

「フム……」


 真剣な表情で作戦卓を見据えるマグヌスを見てテミスがそう告げると、マグヌスは作戦卓の上に敵軍を示す駒を一つ配し、その逆側に位置する町の入り口を示しながら問いを口にした。

 その問いにテミスは小さく息を吐くと、自らの隣に黙したまま立つフリーディアへチラリと視線を向けてから施行を巡らせる。

 拠点を攻撃する際、分散進撃は有効な戦術の一つだ。

 正面から攻める囮の部隊が敵戦力を引き付ければ引き付けるほど、後背を突く本隊の進軍が容易になる。

 だが、今回に限ってはそれを考える必要はないだろう。

 何故なら、敵が分散させるほどの戦力を有していれば、それは真正面からあたったとしても余裕で轢き潰す事の出来る戦力と化す筈だ。

 そうなってしまえば敗北は確実。我々は町に住む人々が一人でも多く逃げ出せるように、死力を尽くした遅滞防御に移行する他は無い。


「……必要ない。ただし、少数の伏兵は警戒し、如何なる場所も通常時の戦力は下回らせるな」

「承知しました」

「あとは……斥候に出ている部隊がどれ程早く帰って来てくれるかだな……」

「……厳しいわね。あの手配書に書かれている事が全部本当なら、敵の規模が一個大隊程度でも、突貫されればかなりの被害が出るわ」

「くふふっ……毎度の事ながら、テミス様の作戦はゾクゾクしちゃいます。いっその事、敵が予想よりも少数で、捨て鉢になって突撃してきてくれたらいいのですけれど……」


 判断を下したテミスの命令に、マグヌスは重々しく頷くと、再び作戦卓の上に並べられた駒を見据えて黙り込んだ。

 漂い始めた深刻な空気に絆されるかのように、テミスとフリーディアは机上の端へと寄せられている、今ファントを留守にしている部隊の駒を見つめて呟きを漏らす。

 しかし、唯一人。サキュドは肩を竦めたままニンマリと好戦的な笑みを浮かべると、舌なめずりをするかのように恍惚とした口調で嘯いた。


「っ……! フッ……同感だ。その時はサキュド、お前にも働いて貰う」

「勿論ですともッ!」


 そんなサキュドの姿に、テミスはクスリと笑みを漏らすと、不敵な微笑みを浮かべて頷いてみせる。

 その命令に応じて、サキュドは即座にビシリと姿勢を正すと、満面の笑みで返答を返したのだった。

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