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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1308話 騒がしき団欒

「……ス。……ミスッ!」


 暗闇の閉ざされた意識の向こう側から、微かに声が響いてくる。

 その声は、まるで誰かに呼びかけているかのように幾度となく繰り返され、その度にほんの少しだけ、テミスは心地の良い眠りの中を漂っている意識が浮上するのを感じた。

 だが、暖かな水底を揺蕩うかのような感覚は酷く魅惑的で。テミスは、煩わしい呼び声を拒絶するかのように首を振ると、覚醒せんとする意識を皆底へと引き戻した。

 しかし。


「もぉ……テミスッ!!! いい加減に起きなさいッ!!!」

「んむ……うぅぅ……むにゃるんむぅぇぁ……」


 ひと際大きな叫び声が暗闇を切り裂くと、再び眠りへと沈み込もうとしていたテミスの意識を強制的に覚醒させる。

 けれど、無理矢理に覚醒させられた脳味噌が即座に正常な働きをする筈もなく、テミスは全身を溢れんばかりの眠気に支配されたまま、半開きの口から言葉未満の意味不明な音を垂れ流す。


「シャッキリしなさいッ!! テミスってば!! あっ……!! コラ寝ちゃ駄目ッ!!」

「っ……むぉぉぉぉぅぁぁぁぁっ!?」


 テミスを揺り起こしていたフリーディアは、そんな曖昧な声ですら一応意識が覚醒したと判断し、活を入れながら一歩テミスの側から離れた。

 だがその直後。

 辛うじて執務机の天板から引き離されたテミスの上半身が、ぐらりと大きく傾いだのを見ると、閃光の如き速さで踵を返し、崩れ落ちていくテミスの上体を受け止めて背もたれへと押し返す。

 そして、今度こそは完全にテミスを目覚めさせるべく、フリーディアはテミスの両肩を掴んだ状態で、ガクガクと前後に体を揺さぶり始めた。


「起~き~な~さ~い~ッ!!! もう昼過ぎよッ!! 十分寝たでしょうッ!?」

「あぉうがッ……!? やめっ……ゆさっ……揺するなぁぁぁぁ……!!」

「うわぁ……容赦ないわね……。マグヌス、アンタ、テミス様にアレやる勇気ある?」

「ム……ムゥ……」


 フリーディアの手によって、眠気で緩んだ脳味噌をシェイクされるテミスが力無い悲鳴をあげる様子を遠巻きに眺めながら、サキュドが同じように自分の傍らで状況を見守るマグヌスへと問いかける。

 その問いに、マグヌスは喉の奥で唸るような声を発すると、ゆっくりと、しかし確かに首を横に振った。


「同感。アタシはまだ死にたくないもの。ホント……命知らずと言うか怖いもの知らずというか……」

「だが、助かるのも事実。火急の折ならばいざ知らず、我等には出来ぬこと故」

「まぁね……一応、作戦書通りに指示を出してはきたけど、作戦書を読んだだけじゃテミス様たちの意図までは分からないから……これ以上はアタシ達だけでは動きようが無いものね」


 サキュドとマグヌスは、稀に寝起きのテミスが見せる驚異的なまでの不機嫌さを思い出しながら言葉を交わすと、安眠妨害の恨みを一身に引き受けてくれたフリーディアに、胸の内で密かに感謝と感心の念を送る。

 テミスは破天荒な所はあれど、理不尽な主ではない。

 故に、心地よく眠っている所を叩き起こしても、相応の理由があれば悋気を呑んでくれる。

 だが、怒りを飲み込んだ所で上機嫌に動き始めるという訳にもいかず、まるで飲み込んだ不満が固く閉じた蓋の隙間から漏れ出て来るかのように、その身から不機嫌を醸し出されては、副官として生きた心地がしないのも事実なのだ。


「ハァ~……今日ばかりはアイツが居る事に素直に感謝できそうだわ……」

「フッ……お主は寝こけるお二人に、わざわざ部屋から自前の毛布をかけてやったというのに……今更、照れる必要も無いとは思うがな」

「っ~~~~!!! マグヌスッ!? アンタッ――!!!」

「――おっと、そろそろ出番のようだ」


 肩を竦めて皮肉を口にするサキュドに、マグヌスはニヤリと笑みを浮かべて揶揄うようにそう告げる。

 瞬間。サキュドは顔が燃え上がったかのように一気に紅潮させて抗議の叫びを上げるが、マグヌスはヒラリとそれを躱して、テミスへ目覚めの珈琲を給仕すべく準備へと取り掛かった。


「うぐ……ぅぉぉぉ……頭がガンガンする……シズクにもここまで乱暴な起こし方はされなかったぞ……フリーディアお前……恨むからなッ……!?」

「何よ。さっさと起きないアンタが悪いんじゃない」

「だからといって、私が振り払うまで揺さぶり続ける馬鹿があるかッ!! 危うく色々と溢れ出る所だったわッ!!」

「フフン……悔しかったらやり返してみせなさいよ。まぁ? 朝弱いテミスが私よりも早起きできるとは思えないけど?」

「ッ……!!! 言ったな……? フリーディアッ……!!! 泣き叫ぶまで揺さぶり起こしてやるから覚悟しておけッ!!」

「……ご歓談の所失礼致します。お二人とも、珈琲は如何ですかな? 濃い目に淹れてあります」


 頭を抱えて蹲るテミスの傍らでフリーディアが勝ち誇ると、恨みをむき出しにしたテミスがフリーディアを血走った眼で睨み付けて叫びを上げる。

 それを皮切りに、テミスとフリーディアがお決まりの口喧嘩へと発展しかけた所に、傍らから絶妙なタイミングで差し出されたマグヌスの珈琲が事態を収めた。


「何よ……。フン……やっぱり、アイツは嫌いだわ……」


 そんな様子を遠巻きに眺めながらサキュドは小さく鼻を鳴らすと、何処か寂し気に呟きを漏らしたのだった。

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