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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1297話 冒険者の裏側

 無事、ファントへの帰還を果たしたテミスとフリーディアだったが、休息を取りたいという二人の願いが叶う事は無かった。

 冒険者ギルドをはじめとする関係各所からは素材の買取希望が殺到し、ギルドへの報告すらままならない大騒ぎとなってしまったのだ。

 結局。エビルオルクの死体はその希少性から、黒銀騎団の手によって冒険者ギルドへと運ばれ、各種素材への解体作業が行われている。

 無論。その間も黒銀騎団による監視付きという異例の事態ではあったが、冒険者ギルド側も特に抗う素振りも無くこれを受け入れていた。

 しかし、当のテミス達がこの事を知るのは全てが終わった後の事で。

 今は町へ到着するなり二人揃って通された冒険者ギルドの一室で、一連の報告を終えたテミスとフリーディアは、続いて深刻な面持ちを浮かべて入室してきた買取担当を名乗る女と向かい合っていた。


「この度は、私が買取の手続きを担当させていただきます。まずは、無事のご帰還を心からお喜び申し上げます。なにせ、あのエビルオルクと戦われたのですから」

「ありが――」

「――フン。ギルドの調査不足じゃないのか? 今回は遭遇したのが、たまたま私たちだったからこそ大した被害が出なかったものの、多少腕が立つ程度の冒険者であれば一瞬で奴の餌だぞ」


 自己紹介も無いままに、艶やかな薄茶色の髪を束ねた妙齢の女性が、微笑を浮かべて深々と頭を下げると、その言葉を素直に受け取ったフリーディアが笑顔を浮かべて応えかける。

 だが、テミスは横合いから腕を突き出してフリーディアを止めると、ジロリと女を睨み付けて冷ややかに言い放った。


「ちょっと! テミス!! 私達は無事だったんだし、そんな言い方しなくても良いじゃないッ!!」

「黙っていろフリーディア。今回の一件はそんなに生易しいものではない。万が一ファントの冒険者ギルドが杜撰な情報の管理をしていたとなれば一大事だ。それに、これは労いでも状況報告でもない。交渉なんだよ」

「だからってそんな喧嘩腰で突っかかる必要は無いわ! 第一失礼でしょう!」

「ハァ……お前もニヤニヤと笑って見ているだけか? 私の心証を悪くすればどうなるかわからん訳ではあるまい? ギルドマスターの代理と聞いているが、正直不快だぞ」

「いえ。パーティ内での意向は定められてからの方がよろしいかと。それに私共としても、存分にご相談いただいた方が有益ですので」


 テミスは自らの無礼を咎めるフリーディアにうんざりとしながら、その様子を黙って見守るギルドマスターへ矛先を向ける。

 しかし、テミスの皮肉をギルドマスターは涼やかな笑みを浮かべたまま受け流すと、胴に入った様子で肩を竦めてみせた。


「見ろ。アレがコイツ等の本性だ。気を抜いていると旨味を丸ごと持っていかれるぞ」

「まさか。とんでもございません。それと一点。私共といたしましても、あの辺りの定期調査は怠っておりません故、テミス様とフリーディア様におかれましては、事実として不運であったとしか申し伝えられません」

「クク……ま、当然だろうな。いい加減、前置き代わりの腹の探り合いも飽きたし、何よりフリーディアの奴が煩い。そろそろ本題だ……そちらの希望を聞こうか」


 ギシリ。と。

 テミスは顎でフリーディアへ指し示した女が淡々と答えを返すのを聞きながら、疲労の溜まった身体を深く椅子へと預ける。

 冒険者ギルドの仕事には、冒険者が集めてきた素材を、適切な(・・・)価格で買い上げる事も含まれる。

 これは、知恵の回る商人たちから冒険者たちの利益を保護する目的でもあるのだが、それは同時に、たとえどれほど青天井で高額な値の付く素材を入手した所で、冒険者ギルドへ卸せば高額ながらも適切な値段しか付かないという訳で。

 彼女たちもギルドの運営を仕事にして生活をしている以上、素材の所有権は冒険者に帰属するものの、こと素材の買取に関する交渉では難敵に値すると言える。


「今回は物が物ですから、個人の裁量で捌かれるのは非常に危険かと。全て私共、ギルドへ卸して頂ければと思います」

「っ……!!?」

「却下だ。我々……いや、素材欲しさにこの私へ喧嘩を吹っかける奴が居るのならば会ってみたいものだ」

「いえ。これ程の希少素材となれば、相手が個人とは限りません。例えば――ッ!!」

「…………」


 丁寧な口調で紡がれた女の提案を、テミスは取りつく島もなく即断で却下する。

 その内容に、フリーディアもようやく先程テミスが告げた交渉(・・)の意味を理解したのか、鋭く息を呑んだ。

 だが直後。

 不敵な笑みを浮かべた担当の女が、朗々とした口調で口を開きかけた瞬間。

 皆まで言葉が紡がれる前に、テミスは殺気すら感じさせるほどの鋭い視線で女を睨み付けると、飛び出しかけた台詞を圧殺した。


「交渉事に肚芸は付き物だ。実に結構。だが、その先を口にするのならば言葉に気を付けろよ? 例えば……何処のどいつが喧嘩を売ってくると?」

「ッ……!!! た、質の悪い豪商などが、稀少素材を手に居れた冒険者へ私兵を差し向けて来る例もありますのでッ……!!」

「フン……。この私が、そんじょそこいらの私兵程度に後れを取る訳が無いだろうが」

「勿論ッ!! あくまでも過去、実際に襲撃を受けた者が存在しますので、例の一つとして挙げただけですが!!」


 言葉に凄味を利かせ、改めてテミスが問いかけると、担当の女は先程まで滲ませていた余裕は何処へ消え失せたのか、言葉を詰まらせながら辛うじて言葉を返す。

 しかし、その内容は当然ながら筋の通った代物ではなく、交渉に長けている筈の彼女たちが用意していた筋書きと異なっているのは明白だった。


「ですので!! 私共にお任せいただければ、品物は適正な価格でお引き受けしますし、諸々の面倒事に巻き込まれる心配もございません!!」

「ハァ……。やれやれ……。見ない顔だとは思ったが……」


 それでも尚、引き下がろうとしない女に、テミスは溜息を吐きながら低い声で言葉を漏らすと、呆れと憐れみが半々で混じった眼差しを女へと向けたのだった。

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