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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1295話 清流の調べ

 鬱蒼と木々の生い茂る深い森の中。

 突如として視界が開け、現れる清流では、パシャパシャと穏やかな水音が奏でられていた。

 一方でその傍ら。

 石の転がる川べりでは、ジャギィッ! バリィッ! と。皮を裂き肉を断つ生々しい音が、穏やかな水音に混じって響いている。


「……フゥ。こんなもの……か……?」


 テミスは血に塗れた手で額に浮いた汗を拭うと、小さく息を吐いて呟きを漏らした。

 その眼前には、解体されたエビルオルクの死体が血溜まりに沈んでおり、一種の残虐ささえも醸し出している。

 だが、あくまでもそれは全てが終わった今だからこそ感じ取れるものであり、一つ間違えばテミス達が、こうして屍を晒すことになっていただろう。


「よっ……っと……」


 軽い掛け声と共に、テミスは内臓を取り除いたエビルオルクの死体を川の清流へ晒すと、そのまま自分自身も川の中へと飛び込んで、身体中に纏わりついた血を落した。

 解体作業は冒険者の嗜みとはいえ、これ程の大物ともなればそれなりに時間はかかる。

 途中、何度かフリーディアの手も借りながら何とか解体を終えたが、時刻は既に昼を過ぎた頃合いだろう。

 テミスがそんな事を考えていると、一足先に血を洗い流し終えて泳ぎ回っていたフリーディアが、のんびりとテミスの隣へ泳ぎ寄ってくる。


「解体は終わったの?」

「あぁ。見よう見真似だがな。血抜きと内臓の除去は行った。後は完全に血が流れ出るのを待ってから持ち帰るだけだ」

「そう、お疲れ様。それで……」

「……わからん。だが確かに、あのエビルオルクの毛皮には戦闘痕らしき傷痕もあった。恐らくだが、アレ(・・)の持ち主が付けたものだろう」


 肩を並べて身を清めながらそう言葉を交わすと、テミスは川べりに置かれた一振りの短剣へと視線を向け、少し考え込むように己の顎へと手を当てた。

 その短剣は、エビルオルクを解体している際に、脇腹のあたりに深々と食い込んでいるのをフリーディアが発見したのだ。

 正確には、あれは短剣ではなく脇差と呼ぶべき代物なのだろうが、フリーディアにとってはあくまでもギルファー様式の短剣らしく、受け取り方に差異こそあれど、テミスもあえてそこを深く追及はしなかった。


「なら……うん……ねぇ、テミス。私、何度考えてもこの魔獣は――」

「――そうだな。前ぶれ無くこの辺りに姿を現した事といい、私を無視してお前に襲い掛かった事といい、元の住処を追われて逃げてきた……と考えるのが妥当だろう」


 そう答えを返しながらテミスはざばりと音を立てて水から上がると、水を吸った上着を脱いで固く絞り上げる。

 問題は、仮にファントの近郊にエビルオルクを退けるほどの猛者が居たとして、その者がファントに対して友好的であるか否かという一点に尽きるのだが。


「えぇと……テミス? 一応聞きたいのだけれど……」

「ん……? どうした?」


 だが、上着の脱水を終えたテミスが、次はズボンへと取り掛かるべく腰のベルトへと手をかけた時。

 フリーディアもゆっくりと川の中から上がってくると、苦笑いを浮かべながら口を開く。


「突然脱ぎ出して貴女は一体何をしているのかしら?」

「何を……って、濡れた服を乾かさねばなるまい?」

「えっ……?」

「……?」


 ベルトにかけた手を止め、さも当然の如く言い放つテミスだったが、フリーディアのあげた疑問の声に首を傾げ、二人はまるで時が止まったかのように互いに見つめ合う。

 フリーディアの視線はまるで珍獣でも眺めるかのように驚愕に彩られ、テミスの視線はただ純粋な疑問に溢れていた。


「まさか……私も……? ここで……?」

「別に私たちしか居ないのだ。別に問題はあるまい。尤も、ずぶ濡れのまま帰路に着きたいのなら話は別だがな」

「あっ……! ちょっ……!! あぁ……もうッ!!」


 言葉と共に、テミスが躊躇う素振りすらなくずるりとズボンを下すと、フリーディアは顔を赤らめて声を上げてから、諦めを付けたかのように勢いよく自らの上着に手をかける。

 そして、二人は固く絞った上着を大きな岩の上に干すと、肩を並べて川べりに腰を下ろした。

 無論。肌着も水に濡れてはいるものの、流石にこればかりは自分ごと天日干しにして凌ぐほかないだろう。


「……ねぇ。テミス」

「あぁ……」


 しばらくの間、無言で川の流れを眺めていた二人だったが、やがてどちらからともなく静かに顔を見合わせると、ぶるりと身体を震わせて頷き合った。

 日光に当たっているとはいえ、ここは深い森の中を流れる清流。

 その水の冷たさはテミスの想定を遥かに上回っており、予想外に体が冷えてしまっていたらしい。


「火は私が点ける。ひとまず……薪でも集めるか……」

「賛成」


 皆まで言葉を交わすまでもなく、テミスとフリーディアは阿吽の呼吸で頷くと、揃って薪を集めるべく傍らの森へ向かって駆け出したのだった。

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