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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1291話 川辺の死闘

 エビルオルクが次々に繰り出す猛攻を躱しながら、テミスは川のほとりに添うようにして退がり続ける。

 森の中に身を潜めたフリーディアは、その後ろを追って木々の間を縫うように駆けていた。

 ひらりひらりと身軽に攻撃を躱し続けるテミスに苛立っているのか、一撃。また一撃と続けざまに振るわれる剛腕はみるみるうちに速さと荒々しさを増し、それと同時に相対するテミスの表情も次第に苦しいものへと変わっていく。

 しかし、背後を取っている筈のフリーディアもまた、テミスを救う為の一手を決めあぐねていた。

 テミスとて、何も無抵抗のまま攻撃を躱し続けている訳では無い。

 時には返す刀で腹を斬り付け、顔面に額を叩き割るかの如く強烈な一撃を浴びせても居る。

 だが、エビルオルクの強靭な毛皮や頭骨に阻まれ、有効打に至っていないのだ。


「ッ……!!」


 この魔物はあのテミスでさえ傷を与えられない相手。私の力ではとても……ッ!!

 幾度となく相対しているが故に、テミスの持つ人間離れした膂力を知るフリーディアは、それでも諦める事無く必死で突破口を考え続ける。

 こんな時……サキュドさんなら、あの紅い槍や強力な魔法で強引に戦局を開く事ができるのだろう。

 マグヌスさんの身体が万全なら、竜人族の持つ強力な力と卓越した剣技を用いて、テミスを救う筈だ。

 なら……私は……?


「どうればッ……!!」


 肚の中から湧き上がってくる無力感を固く食いしばった歯で噛み潰し、フリーディアは苦々し気に呟きを漏らした。

 テミスが注意を惹いてくれているお陰で、私は完全に魔物の背後を取れている。

 けれどこのショートソードでは、全力で斬りかかったとしても、あの小山のような背に刃が通るとは思えない。


「――ッ!? しまっ……!!」

「あッ……!!!」


 しかし、フリーディアが悩み続けている最中、期限(・・)は唐突にやってきた。

 鋭く息を呑む音と共に、焦りを帯びたテミスの声が響き渡る。

 咄嗟に奮戦を続けているテミスの方へと視線を向けてみれば、大きく体勢を崩したテミスが、背中から地面へ向けてゆっくりと倒れ込んでいっていた。

 その足元には、ひと際大きく丸みを帯びた石が、キラキラと陽光に照らし出されていて。

 大振りに振るわれたエビルオルクの一撃を躱した際、あれに足取られて地面を踏み外したのだ。


「馬鹿ッ!!!」


 それに気付くや否や、フリーディアは手にしていたショートソードを振りかぶると、叫びと共に脱兎の如くエビルオルクへと突撃した。

 無論。勝算など無い。テミスの刃が通らない相手に、傷を付ける方法なんて思いついてすらいない。

 けれど……テミスを見据え、まるで勝利を確信したかのように細められたエビルオルクの目が、高々と振り上げられた丸太のような太い腕が、その先で陽光を受けてギラリと不気味に輝く大きな鉤爪が、フリーディアの身体を前へと突き動かした。

 今私が動かなければ、テミスがやられる。

 頭の中に鳴り響く警鐘に従い、フリーディアは一瞬でエビルオルクへと肉薄すると、大きく跳び上がってその背へと纏わりついた。

 そして、全霊の力を込めてショートソードを振りかぶり、しがみ付いた自分の手のさらに上……首元へと目がけて切っ先を叩き込む。

 だが……。


「グルォォォオオオオッッッ!!!!」

「くっ……!!」


 その切先はフリーディアの手に鈍い感触を伝えただけで、エビルオルクの毛皮を貫く事は叶わなかった。

 けれど、エビルオルクの意識が自らの身に纏わり付いたフリーディアへと移った隙に、その足元で尻もちをついていたテミスが素早く身を起こして体勢を立て直す。

 そんなテミスの眼前で、エビルオルクは背中に纏わりついたフリーディアを切り裂くべく、やたらめったらに鉤爪を振るうが、身体の構造上その剛腕がフリーディアに届く事は無く、怒りの咆哮と空気が裂かれる鈍い音だけが空気を震わせた。


「テミスッ! 早く逃げなさいッ!! くぁッ……!!!」


 右へ左へと身体を揺さぶられながらも、フリーディアは背中に纏わりついたまま必死で叫びを上げる。

 この後どうしたらいいかなんてわからない。このまま何もできずに力尽きて、背中から振り落とされて喰われてしまうのかもしれない。それでも戦友を……テミスを救えたのならッ!!

 目の前で暴れ狂うのは絶望の獣。急所を貫きたくとも刃は通らず、フリーディアは今やしがみ付いているだけで精一杯だった。

 しかし、その瞳から凛とした気高い光が消え失せる事は無く、胸の内に燃える誇りを映し、絶望を前にして尚ギラギラと強い輝きを放っていた。


「フッ……」


 一方で。

 暴れ回るエビルオルクの眼前で体勢を立て直したテミスは、フリーディアの叫びを聞いて静かに微笑みを漏らしていた。

 同時に、ゆっくりと構え直した剣を、エビルオルクの強烈な攻撃を躱す為の小さくまとまった構えから、地面とは平行に剣を寝かせ、切っ先を相手へと突き付ける形の攻撃の構えへと切り替える。


「よくやったフリーディアッ!! 離脱する期を見逃すなよッ!!」


 そして、その背で未だ奮戦するフリーディアへ向けて凛と叫ぶと、テミスは力強く地面を蹴って、暴れ狂うエビルオルクに向けて力強く剣を振り下ろしたのだった。

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