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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1290話 荒々しき力

 ビリビリと空気を震わせる雄叫びと共に、飛び出した巨躯が一直線にテミス達の間を駆け抜けていった。

 しかし、その突進の威力はすさまじく、脇へ飛び退くようにして躱しきった二人の身体を巻き起こる烈風が吹き飛ばす。


「っ……!!」

「ぐッ……!!」


 結果、二人は傍らの木の幹に身体を強かに打ち付け、苦悶の息を漏らしながらズルズルと地面に着地した。

 一方で、テミス達を軽々と吹き飛ばしたエビルオルスは、鬱蒼と生い茂る木々を幾本も薙ぎ倒して突き進み、その後ろには荒々しく砕けた木々の破片が散らばる道が形成されている。


「ハッ……!! とんでもない威力だな……」

「受けずに避けろ……今ほど貴女の言葉に納得した時は無いわ」


 その途方もない威力に、テミスとフリーディアは各々に呟きを漏らすと、抜き放った武器を構えてエビルオルスと対峙した。

 だが、それだけ木々へと衝突しているにも関わらず、エビルオルスは欠片ほどもダメージを負った様子は無く、バキバキと響く木々の爆ぜる音と共に、低い唸り声が響いている。


「予定通り、私が前に立つ。フリーディア。お前は隙を見付けて斬り込んで行け」

「……不思議なものね。明らかに貴女の方が危険だと解っている筈なのに、死にに行けと告げられた気分だわ」

「フッ……間違いでは無いさ。生半可な攻撃を仕掛ければ、馬鹿げた威力を誇る反撃が待っている」

「ぞっとしない話ね。せいぜい慎重にやらせて貰うわ」

「私が殺される前に頼むぞ? どうやら奴め、挽肉から気分が変わったらしい」


 ズシン、ズシンと重たい足音を響かせ、ゆっくりと自分達の方へと近付いてくるエビルオルスを睨み付けながら、テミス達は皮肉気に言葉を交わした。

 あの交通事故もかくやというレベルの突進を受ければ、文字通り挽肉になりかねないが、そんな速度を生み出す力を有する腕には、巨きな鉤爪がギラリと怪し気に輝いている。

 普段テミスが振るっているブラックアダマンタイトの大剣であれば、あの鉤爪の一撃であっても貫かれる事は無いだろうが、今テミスの手の内に在る剣の強度は、あの大剣とは比べるべくも無い。

 下手に受け太刀でもしようものなら、剣ごと身体を抉り取られる羽目になるだろう。


「さて……どうしたものか……」


 視界の端でフリーディアがじりじりと後退していくのを眺めながら、テミスはエビルオルクの意識を誘くべく、真正面へと歩み出て呟きを漏らした。

 兎も角、優先すべきは防御。

 エビルオルクの巨躯から放たれる凄まじい威圧感(プレッシャー)にゴクリと生唾を飲み下すと、テミスはともすれば攻めへと逸りそうになる心で冷静を保ち続ける。

 そんなテミスの眼前で、エビルオルクは悠然と後ろ足で立ち上がり、物々しい鉤爪がゆっくりと鎌首をもたげた。


「ッ……!!!」


 刹那。

 鈍く空気を引き裂く音が響き渡り、エビルオルクがその巨体に似つかわしくない素早さでテミスへと鉤爪を振り下ろす。

 相手の出方を慎重に窺っていたテミスは、寸前に一歩飛び退く事で辛うじて難を逃れたが、放たれた鉤爪は確かに、つい数瞬前までテミスが立っていた位置を正確に抉り裂いていた。

 しかし、一撃目を躱した所で、テミスには喜んでいる暇など無かった。

 続けざまに放たれた第二撃は、後ろへ退いたテミスを捉えるべく、エビルオルクは前へと倒れ込むように深く斬り込んできている。

 後ろに躱す事は不可能。

 咄嗟にそう判断したテミスは鋭く地面を蹴ると、エビルオルクの側面へと回り込むようにして二撃目も回避した。


「そら! お返しだッ!!」


 重厚な音と共に前足を地面に着いたエビルオルクに対し、側面を取ったテミスは即座に反撃の一撃を放った。

 狙いは脇腹。

 致命傷を狙うのならば、首なり胸なりを狙うべきなのだろうが、今の位置からではあまりにもリスクが大きい。

 故に、致命傷よりも弱らせる事を目的とした一撃だった。

 だが……。


「ッ……!!?」


 ジャリィッッ!! と。

 確かに捉えた毛皮は、まるで砂地にでも斬り付けたかのような感触をテミスの手に伝えながら火花を散らし、斬り付けたはずの刃はその表面を滑っていく。

 ――固い。

 知ってはいたが、まさかこれ程とは。

 剣を振り切る頃には、テミスは既に刃の通らない毛皮への追撃を諦め、苦々し気な舌打ちと共に更に一歩後ろへと飛び退いた。

 そこは既に川のほとりで、剣を振り回すのには勝手が良かったが、着地した地面にはゴロゴロとした石が転がっている。


「参ったね……こちらは一撃でも貰えば致命傷。だというのに、ロクに攻撃も通らんとは」


 しかし、圧倒的な不利を前にしてもテミスの顔から不敵な微笑みが消える事は無く、再び立ち上がってゆっくりと距離を詰めてくるエビルオルクを見据えながら、ざしりと足元の石を強く踏みしめたのだった。

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