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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1288話 昏き森の中で待ち受けるモノ


「フム……新しい傷痕……近いな」


 ざり……。と。

 テミスは大きな爪痕の付けられた木の表面を擦りながら、声を潜めて呟きを漏らした。

 まるで見せ付けるかのように深々と刻まれた大きな四本の傷跡の周囲には、短く擦り切れた黒い毛がところどころ露出した木の繊維に絡まっている。


「これが目印? えぇと……ジャイアントホッグだったかしら? の? 随分と分かりやすいのね。親切じゃない」

「……いや。この痕を付けたのはジャイアントホッグではないだろうな。それにこれは親切ではないさ。言わばここは自らの領土だと主張する目印(マーキング)……縄張りを持つ凶暴な熊系統の魔物だろう」

「っ……。そう真面目に答えないでよ。私だって、流石に獲物が自分の位置を報せる為に目印を付けているなんて思ってないわ」

「クク……それは良かった。だが……」


 テミスはフリーディアの軽口に付き合いながら眉を顰めると、意識を静かに周囲へと向けた。

 ここは既に魔物の縄張りの中。相手がどういった気性を持つ個体かは分からないが、侵入が知れれば襲ってくるのは間違いないだろう。

 だが問題は、この辺りは本来ならば、ジャイアントホッグが生息していた場所であるという事で。

 それはつまり、この爪痕の主がジャイアントホッグから生存圏を簒奪した事を物語っている。


「まずいな。いったい何が住み着いたのかは知らんが情報不足だ。一度引き返す事も視野に入れた方が良いかも知れん」

「えぇっ!? どうしてッ……!!」

「獲物の正体がわからん。黒い体毛に最低でも四本の鋭い爪を持つ生物であることから、恐らくは熊系の魔物であることは推察できる」

「なら狩ってしまえば問題ないじゃない。獲物の種類が変わるだけでしょう?」

「我々に狩れるのなら(・・・・・・)……な。獲物が、レッドベアーやブルーグリズリー程度の小物なら問題無く狩れるだろう。だが仮に、タイラントバァルのような凶悪な種であったら? 連中が群れる事は少ないが、大きな群れだったら? 冒険者の責務としては、功を焦って狩りに挑むよりも、この情報を持ち帰る方が何倍も重要だ」

「っ……!!」


 道なき道をここまでやってきた苦労を思い返したのだろう。フリーディアは不満を露わに狩りの続行を唱えていたが、緊張感を帯びたテミスの言葉に小さく息を呑んで黙り込んだ。

 初めての狩りに冒険者として初めての行軍。テミスとて、ここまで苦しい道のりを歩み抜いてきたからこそ、目的を達成したい気持ちは理解できるし、記念すべきフリーディアの冒険者としての初めての活動を、煌びやかな成功で飾ってやりたい気持ちもある。

 だが、いかんせん相手が悪い。

 この傷痕を付けた容疑者の一体と目されるタイラントバァルといえば、一度姿を表せば高ランクの冒険者に向けた討伐依頼が発行されるほどの危険な種だ。

 万が一そんな魔物が群れていたら……。


「……大剣を持っていても危ないかもな」


 テミスはタイラントバァルの群れと相対する自分を脳裏に思い描くと、自らの頬を冷たい汗が流れていくのがわかった。

 奴等は固いし速いし力も強いと聞く、会敵と同時に全力の月光斬をぶち込んでやったとしても、一体を倒すのがやっとだろう。

 後はこの剣を振り回すに向かない森の中で、何度狙い通りに月光斬を撃たせて貰えるかだが……。


「ねぇテミス。この傷を付けた魔物は、そんなに危険な魔物なの……?」

「わからん。だが、我々を以てしても危ないやもしれん。通常の装備で、剣を遮る邪魔なものが無い平地ならば容易いのだろうが……」

「だったら猶更行くべきよッ!! 森の深くとは言っても、町の近くにそんな魔物が居るなんて危険だわッ!!」


 フリーディアは頭を悩ませ続けるテミスに質問をぶつけると、力強く語気を荒げた。

 そんなフリーディアに生暖かい視線を送ると、テミスは秘かにため息を漏らす。

 元来、他人を守る事となると人一倍面倒な奴ではあったが、こんな森の奥深くまで守備範囲だとは思わなかった。

 そもそも、街道に迷い出てきてくれればいつもの装備で倒す事ができるし、森の奥地に分け入る連中なんざ、狩りを目的にした冒険者くらいしか居ないのだから、逆に狩られた所でそいつらの責任と言うものだろう。


「だが……まぁ……。爪痕に怯えて逃げ出したなどと思われては心外だからな。お家へ帰るのは、この大層な傷痕を付けた奴がどんな奴なのかくらい調べてからにするか」

「ふふっ。流石テミス、話が分かるじゃない」

「フッ……だが、油断するなよ。これまで以上に慎重に行くぞ」


 テミスはやる気を漲らせるフリーディアの傍らで不敵に微笑むと、身を低く落とし、腰に提げた剣の柄に手を添えながら、更に森の奥へと足を踏み入れたのだった。

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