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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1285話 冒険者のしきたり

 翌朝。

 まだ朝露を含んだしっとりとした空気が漂う頃。

 テミスとフリーディアは連れ立って冒険者ギルドの建物を訪ねていた。

 そこでは、既に支度を済ませた他の冒険者たちが集っており、日の出と共に掲示されたばかりの依頼を我先にと取り合っている。


「悪いが、コイツを新しく冒険者に登録してやってくれるか?」


 そんな冒険者たちを尻目に、テミス達はカウンター状に設えられている受付へと歩み寄ると、のんびりとした調子で声を掛けた。

 すると、冒険者たちはまだしばらくの間、依頼の奪い合いに興じていると気を抜いていたのか、受付に並んでいた職員たちは揃って驚いた表情を浮かべてテミス達へ視線を注ぐ。

 そして、一瞬遅れて自分達に声を掛けた人物の正体に気が付くと、テミスに声を掛けられた職員は愕然とした驚愕の色を露わにして、微かに震えながら言葉を返す。


「テ……テミス様ッ……!? はい只今ッ!! って……えぇッ!?」


 しかし、テミスが示した先には勿論、期待と不安に満ちた表情を浮かべるフリーディアが居て。

 職員は堪らず目を剥いて驚きの声を上げるが、即座に隣に居た同僚らしき職員の女が駆け寄ると、脇腹を小突いて黙らせる。


「し……失礼しましたッ!! では、こちらの用紙に記入をッ!!」

「解ったわ」

「あと、私宛で荷物が預けられている筈だが?」

「少々お待ちください。えぇと……」

「失礼致します。お荷物でしたら、先程承っております。只今お持ちしますので少々お待ちください」


 同僚に脇腹を小突かれた事で辛うじて冷静さを取り戻した職員は、わたわたと慌ただしい動きでフリーディアの前に書類を差し出した。

 それを眺めながら、カウンターへと寄り掛かったテミスが問いを投げかけると、先程眼前の職員の脇腹を突いていた職員が、横合いから静かに進み出てテミスの問いに代わりに答え、毅然とした足取りでカウンターの奥へと立ち去っていく。

 その連携の取れた動きは、日々大量の冒険者たちを捌き切っているギルド職員の実力の一端を垣間見ているかのようで。

 テミスは胸の内で感嘆の息を漏らしながら、すぐに職員が広いスペースの取られたカウンターの奥から、二つの大きな麻袋を抱えて戻ってくるのを眺めていた。


「お待たせいたしました。承っているのはこちらのお荷物になります。ご確認ください」

「ああ。ありがとう」


 テミスは職員に礼を返しながら、早速鈍重な音と共にカウンターの上におかれた荷物を検めると、長細い包みを解いて自らの武器である片刃剣を腰へと納める。

 そして、残りの大きな袋を傍らのフリーディアの方へと押しやった時、丁度書類への記入が終わったのか、コトリとペンを置いたフリーディアが書き上がった書類を待機していた職員へと渡す。


「これで良いかしら?」

「…………はい。受け付けました。それでは、ギルド証のお渡しはお戻りになられた時でよろしいですか? お二人は、このまま依頼を受けられますか?」

「そうしてくれ。あ~……すまない。今日は依頼を受ける予定は無い。それよりも、今の獲物の買取額一覧と手配書が欲しい。一つづつでいい」

「畏まりました。……ぁっ!!」

「ありがとう」


 職員の質問にテミスが涼し気な笑みを浮かべて答えを返した時だった。

 カウンターの下から二枚の紙を取り出した職員が鋭く息を呑むと同時に、テミスは自らの背後に人が並び立つ気配を感じる。

 しかし、テミスはその気配を黙殺すると、礼を口にしながら、カウンターの上の中途半端な位置で手を止めた職員の手から書類を掬い取ると、その内容に素早く視線を走らせて呟きを漏らす。


「フム……手配されるような魔物は流石に近くには出んか……。ならば、ジャイントホッグかアクセルディアーでも狙うとするか……。よし、行くぞ。荷物を忘れるなよ」

「っ……!! わかったわ!!」


 そして、テミスは手の中の書類に視線を落としたまま、傍らのフリーディアにそう告げると用を終えたギルドを後にすべく出入口へ向けて踵を返した。

 そんなテミスの行く手を阻むかのように、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた三人の男が並んで立ち塞がって野次を飛ばす。


「止せよ新入り(ビギナー)。お友達に良い所見せたいのはわかるが、嬢ちゃんたちに獲物狩りはまだ早えぇぜ?」

「忠告どうも。だが、余計なお世話だ」


 だが、テミスは男たちを一瞥すらすることなく冷淡にあしらうと、その傍らをすり抜けるようにして出口へと歩を進めた。

 確かに、普段この冒険者ギルドに顔を出さない私が、連れて来たフリーディアに冒険者登録をさせているのを見れば、そのように映るのも無理は無いだろう。

 それだけであればこの冒険者たちも、口は悪いが無謀な小娘たちを止める善き先輩冒険者であったのかもしれない。

 けれど、テミスとフリーディアをまじまじと眺める下卑た視線が、悲しいほどに彼等の目的を物語っていた。


「待てってッ!! これでも俺達はチィッとばかり名の知れたパーティなんだ。悪い事は言わねぇから、今日は俺達のパーティに入っておけ――ッ!?」


 取りつく島も無くテミスにあしらわれた男たちは、軽薄な言葉と共に、足早に立ち去ろうとするテミスの背後からその肩へと手を伸ばす。

 しかし、伸ばした男の手がテミスの肩へ触れる直前。

 鋭くその身を閃かせたテミスの手が男の腕を捉えると、瞬く間に捻り上げて男を床の上へと捩じ伏せた。

 そして、テミスは掴んだ腕にミシミシと力を加えながら、氷のように冷たい目で男たちを睨み付けて口を開く。


「余計なお世話だと言ったはずだ。何処の馬の骨かは知らんが、あまりこういった悪さをするなよ? その汚らしい首を叩き落とすぞ?」

「なっ……ぁ……!? お前……何者――ッ……あだだだだだっっ!!!」

「フン……このまま使い物にならなくしては依頼人に申し訳が無いからな。未遂という事で今回は見逃してやる」


 だが、テミスは男たちの内の一人が手に握り締めていた依頼書へ視線を留めると、捻り上げていた男の腕をするりと解放して、冷ややかな言葉と共に冒険者ギルドを後にしたのだった。

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