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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1284話 新たな門出

 店主が姿を現した途端、フリーディアは己が内に抱いていた疑問が氷解していくのを感じていた。

 この武具屋はお世辞にも、テミス程の人物が贔屓にするほど繁盛している店では無い。

 主要な街路からは外れているし、さりとて特別大きな工房を持っていたり、特殊な素材で作られた武具が並んでいる訳でも無い。

 けれど、武を嗜む者であれば肌で感じることの出来る独特の気配。

 この人……強いッ……!!


「っ……!!」

「フッ……」


 テミスは傍らでフリーディアが僅かに身構えたのを横目で捉えると、クスリと小さく笑みを浮かべて店主へと視線を戻す。

 どうやらフリーディアも、この町で彼のみが有する稀有な技量を読み取ったらしい。


「それで……今日のご用向きは何です? 一応言っておきますが、あの大剣はウチなんかでは扱えませんぜ?」

「安心しろ。アレの手入れは自分でできるさ。別件だよ。コイツの装備と、それに合わせた私の新しい装備を見繕ってくれ」

「フム……?」

「ッ……!」


 粗野な言い回しながらも、経緯を感じさせる言葉で応じた店主に、テミスは不敵な笑みと共に、傍らのフリーディアを一歩前へと引きずり出した。

 すると、店主は腕を組んで息を吐き、頭のてっぺんから足の先まで、フリーディアの身体をまじまじと眺めはじめる。

 その、あまりに熱の入った視線に、フリーディアは居心地が悪そうに身をくねらせるが、引きずり出された際に捕まれたテミスの手が、身を隠す事を許さなかった。


「なるほど……? よく鍛えているな。力よりも速度……弱点を補うより長所を伸ばす良い鍛え方だと思うぜ? んで、得物はソレか」

「えっ……!?」


 直後。

 フリーディアは自らの心がけている鍛え方を見抜かれ、居心地の悪さを忘れて驚きに息を呑んだ。

 別段、自分の力量を隠している訳では無いし、不本意ながらも戦場での自分の戦いが噂になっている事も知っている。

 だからこそ、この店主がそう言った知識を持ち合わせていたと考えれば不思議な話ではないだろう。けれど、隣で楽し気に笑うテミスの表情が、真っ先に思い付いたその可能性を否定していた。


「悪かぁないが、嬢ちゃんが扱うと考えるとちと力不足だな。あくまでも対人向けだ。そもそも、前衛を張るべき鍛え方じゃぁねぇ」

「っ……!!」

「だから……そうさな。役どころは身のこなしを生かしての斥候(スカウト)って所か、得物は短剣かダガーか……今と似た取り回しをしたいってんなら、ショートソードまでだな」

「ならば、それで頼む。本業にまで支障をきたしては意味が無いのでな」

「ハハッ……了解しやした。するとテミス様は前衛って事になるがぁ……。盾持ちってのも芸がねぇなぁ……」


 唖然とするフリーディアを置き去りに、店主とテミスは次々と話を進めていってしまう。

 しかし、突如として店主は唸り声をあげ始めると、苦悩しながら店の中のあちらこちらへと視線を向けた。


「おぉ! そういえば、面白い剣を仕入れたんだった。コイツなんてどうだい? ちと重たいが、威力は十分だ」

「ほぅ……?」


 しばらく悩んだ後、店主はカウンターの裏から一振りの肉厚な片刃剣を取り出すと、豪快に笑いながらテミスへと手渡した。

 その剣は、一見すると太刀のようにも思えたが、抜いてみると刃が所々湾曲しており、どことなく禍々しさすら感じられる。

 だが、当のテミスは剣の意匠など気にする様子も無く、抜き放った剣を二度三度と軽く振り回した後、パチンと軽い音を立てて鞘へと納めた。


「悪くないな。強度もなかなかありそうだ」

「あ~……一応言っておくが、アンタの大剣みたく盾代わりになんて使うなよ? 一発で刀身が歪んでダメになっちまう」

「解っているさ。それじゃあ、フリーディアの分は武器に合わせた装備も頼みたいんだが……明日の朝に間に合うか?」

「朝だぁ……!? かぁ~……っ!! アンタがそう言うなら間に合わせるけどよ……そういう注文はなるべく早く言ってくれ」

「すまないな。いつも助かる。その分代金は弾でおくよ」


 鞘に納めた剣を店主へと返したテミスが注文を続けると、店主は眉を顰めて嘆きの声を上げる。

 けれど、テミスは静かに微笑んで言葉を返しながら、バタバタと足音高く店の奥へと引っ込んでいく店主の背を見守っていた。


「えぇっ……と……?」

「あとは全て任せておけばいい。心配するな。あの店主は元冒険者でな。見立てに間違いは無いさ」

「い、いや。そうじゃなくて。私、ショートソードなんて使った事無いわよ?」

「それを言うのなら、少数で魔物やら獣やらを狩った事もないだろう? 心配せずとも、私が手ずから指導してやる」

「えぇっ……」


 フリーディアは楽し気に告げながら店を出て行くテミスに言葉を返すと、酷く嫌な予感を胸の内に抱きつつ、夕焼けの陽の光の中へと歩んでいくその背を追いかけたのだった。

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