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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1283話 些細な調和

「邪魔をするぞ」


 チリン。と。

 来客を報せるドアベルが奏でる涼し気な音と共に、店仕舞いも近い武具屋の中へ一組の客が足を踏み入れてくる。

 その来客は、既に意識の大半を今晩の夕食へと向けていた娘にとってはいたく不本意なもので。

 しかし、客である以上は蔑ろにする訳にもいかず、娘は内心で盛大な溜息をひとつ吐いた後、店の奥で未だ槌を振り続けている父親に代わり、招かざる客を歓迎すべく気の無い笑顔を浮かべて店の入口へと視線を向けた。


「いらっしゃー……ッ!!!?」


 だが、酷く面倒くさそうに紡がれたその言葉は途中で途絶え、驚愕に見開かれた眼が訪れた二人の客へと釘付けになる。

 そこに在ったのは、白銀と黄金。

 艶やかに輝く二人の長い髪は、まるで双璧を成しているかの如く窓の外から差し込む穏やかな夕陽の中でキラキラと光を放っており、娘の目には見慣れたはずのひなびた店内も、さながら名画と化したかのような錯覚すら覚えた。


「あ……あぁっ……ぁぁぁっ……!!」

「クス……相変わらずのようだな? 店番は退屈か?」

「いっ……いえっ!! 決してそのような事はッ……!!」

「良い。気持ちはよく理解できるからな。いつ来るやも知れない客を待ち続けるのが暇であるのは間違いないからな」


 途端に背筋を正して緊張した面持ちを浮かべる武具屋の娘に、テミスはクスリと涼やかな笑みを浮かべて言葉を紡ぐと、何度も小さく頷いて理解を示す。

 この時間ならば、日中に外へ出ていた冒険者連中もあらかた町へと戻り、武具の新調やメンテナンスといった注文も丁度終えた頃合いだろう。

 いうなれば凪の時間。客を待つという大義名分の元、我先にと押し寄せる客たちを捌き切った体を休め、一息を吐く事ができる安らぎの時間なのだ。


「ただの客さ。畏まる必要は無い。すまないが、親父さんを呼んできてもらえるだろうか?」

「あっ……!! は、はいッ!! 只今ッ……!! ぁっ……」


 労いの意味も込めてテミスはそう言葉を続けたが、武具屋の娘の緊張が解ける事は無く、深々とテミス達へ頭を下げてから店の奥へ向けて駆け出して行く。

 だが。娘は短い悲鳴と共に酷く何かを言いたげな表情でテミス達を振り返ると、遂には駆け出した足をピタリと止めてしまう。


「……? どうしたの? 何か――」

「――ククッ。心配するな。親父さんには良く言っておく」

「っ……!!! あ、ありがとうございますッ!!!」


 そんな娘に問いを投げかけようとしたフリーディアを遮って、低く喉を鳴らしたテミスは不敵な笑みを浮かべてそう告げた。

 すると、武具屋の娘は途端に輝くような表情を浮かべた後、弾むような声と共にテミス達へ深々と頭を下げた後、駆け足で店の奥へと引っ込んでいった。


「テミス。貴女……」

「共に客商売を嗜む身。気持ちは理解できる。それに、規律に囚われていちいち諍いの芽を増やす事もあるまい」

「うっ……! それは……そうだけど……」


 武具屋の娘が店先から立ち去った後、短いやり取りの中で交わされた密約を察したのか、フリーディアがじとりとした視線をテミスへと向けて不満気に口を開く。

 しかし、テミスは肩を竦めて皮肉気に微笑んだ後、正論を述べようとするフリーディアの機先を制して黙らせた。


「良いじゃないか。些細な事だ。被害を受けた訳でも無い」


 厳密に言うのならば、店の顔たる店番を任されていた娘が手を抜いていた事は、店の主である親父に伝えるべきなのだろう。

 武具を扱う店の性質上、気性の荒い連中を相手に接客をする事が多いこの店では、ああいった態度に機嫌を損ねる客も少なくは無く、今のうちに矯正をしてやるのが彼女の為でもある。

 だが、彼女とてこの店の仕事を手伝いはじめて短くないのだ。そのような事は重々理解しているだろう。

 だからこそ、客の居ないこの時間帯に気を抜いていた訳でもあるし、この程度の事で僅かな息抜きのひと時を叩き潰し、この後に待ち受けているであろう彼女たちの夕食の時間を、つまらないものにするのは酷く無粋に思える。


「そんな事よりも……だ、フリーディア。お前は今の内から、その剣以外の武器での戦い方を考えておけ」

「えっ……!? それってどういう意味ッ!?」

「お前……冒険者がそんな剣を持つとでも思っているのか? まあいい、私が説明するまでも無くすぐにわかるさ」

「いらっしゃい、テミスさま。随分とご無沙汰だったんで、見限られたかと思っちまいましたよ」


 テミスの忠告に、フリーディアは自らが腰に提げた剣を庇うかのように両手で掴む。

 そんなフリーディアをテミスが酷く呆れた顔で眺めながら、溜息まじりに言葉を返した時だった。

 店の奥から、細身ながらも筋肉で引き締まった身体を持つ店主が、槌を片手にゆっくりと姿を現したのだった。

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