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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1282話 憧れは目の前に

 それから、テミス達がルギウスの病室から出てきたのは、既に日が暮れ始める頃だった。

 他愛のない雑談から真面目な情報交換まで、すっかりと話し込んでいたテミス達は、夕食の前にルギウスの加減を見に着たイルンジュによって時の流れを知らされ、後ろ髪を引かれながらも、今日の所は辞する事にしたのだ。

 しかし、時刻は既に夕暮れ。ルギウスとの交流で得た情報を共有する為に詰め所に向かうには遅く、何処かの店で食事をするにも、アリーシャ達の手伝いの為に宿へと戻るにも少しばかり早いという、微妙極まる頃合いだった。


「ふぅむ……」

「テミス? どうしたの? 帰らないの?」

「帰っても良い……のだが……」

「珍しいわね。用事が済んだというのに、出不精の貴女がさっさと宿に帰りたがらないなんて」

「人を勝手に出不精と決めつけるな。お前こそ、さっさと戻って報告書でもまとめた方が良いんじゃないか?」


 先を行くフリーディアが、ぼんやりと虚空に視線を泳がせるテミスを振り返って問いかける。

 するとテミスは、脳裏で胸の内に記しておいた予定表を検めながら曖昧な言葉を返した。

 そんなテミスに、フリーディアは少しだけ目を丸く見開いて驚いたような表情を浮かべた後、クスリと小さな笑みを浮かべて感想を漏らす。

 それは、この町に住み、テミスを知る者であればおおよそ口にしないであろう皮肉ではあった。

 何故なら、任務や戦いに繰り出す事が多く、あまり宿に居付く事のできないテミスが、『家族』との時間を大切にしているのは、その事実を語らずとも誰しもが知っている事で。

 けれど、それが故にテミスには緊急時や通常の仕事以外で声がかかる事は無く、一人でフラフラと町を出歩く事も多い。

 テミスについて回る日々の中で、その事実を知っていたからこそ零れ出た、フリーディアらしい(・・・)皮肉ではあるのだが……。


「私は別に? 時間ならいくらでもあるし? 貴女が……その朝寝坊なお陰で……」

「ン……。あぁ……プッ……ククッ……!!」


 慣れない皮肉に、流石のフリーディアも言い過ぎたと感じたのか、直後には反論を口にするも、何処か焦ったように声を上ずらせた後、その言葉はゴニョゴニョと尻切れに消え去っていく。

 テミスもまた、フリーディアの煮え切らない態度からその真意に思い至ると、込み上げてきた笑いを堪える事ができずクスクスと笑い始めた。


「な……なによ……?」

「フフフッ……何でもないさ。それよりも、私の快眠を期待しているお前には悪いが、明日は少しばかり早いぞ? どうせ着いて来るつもりなのだろう? ならば、やるべき仕事は早めに終わらせておくことをお勧めするが?」

「へっ……?」


 自らの放った言葉が、相手を傷付けてしまってなど居ないだろうか。

 そんな怯えを滲ませながら、こちらの様子を窺うフリーディアを可愛らしく思ってしまった。

 不覚。そう認識しながらも、テミスは静かな笑みを浮かべると、肩を竦めて気にも留めていない事をアピールしながら、少しばかりの助言を口にする。

 だが、テミスが自らの個人的な予定をフリーディアに伝えるなど、彼女が側付きへと押しかけてきてから初めての事で。

 あまりの衝撃に、フリーディアは思わずポカンと呆けたような表情を浮かべて、裏返った声を返した。


「久しぶりに狩りにでも出ようと思ってな。冒険者ギルドで依頼を確認してからの出発になるから、どうしても朝が早くなる」

「冒険者ッ……!?」

「んん? どうした? っと、そう言えばお前、今更だが冒険者の登録はしているのか? いや……その顔を見るに聞くまでも無い……か」


 ピクリ。と。

 テミスは自らの言葉に眉を跳ねさせたフリーディアが、食い入るような視線でこちらを眺めているのに気付き、苦笑いを浮かべて肩を竦める。

 今はこうして共に肩を並べているが、フリーディアはロンヴァルディアの王女なのだ。

 加えて、ロンヴァルディア最強と名高い騎士団の団長ともなれば、冒険者の徴兵まで行っているあの国で、冒険者など出来るはずも無いし、やる必要も無いだろう。


「フム……丁度良い。ちょうど私も、新しい剣でも買おうかと思っていた所だ、帰る前に少し買い物をして行くぞフリーディア」

「えっ……? はっ……!? ちょっ……テミス!?」


 好奇心と期待で瞳を輝かせるフリーディアに、テミスはクスリと涼やかな笑みを浮かべると、胸の内でこれからの予定を定めた。

 そしてすぐに、テミスは素早い動きでフリーディアの手を掴むと、半ば引き摺るようにして混乱するフリーディアを連れて武器屋へと足を向ける。

 この際だ。ある程度はフリーディアも乗り気のようだし、徹底的に冒険者用の装備を揃えてやろう。

 背後から聞こえる悲鳴を聞き流しながら、テミスは購入すべき品物を思い浮かべつつ、楽しさが腹の底から湧き上がってくるかのような衝動に身を任せたのだった。

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