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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1280話 確かな絆

 雲一つない快晴の空の下を、調子はずれな鼻歌と共に長い銀髪が翻る。

 今日も今日とてファントの町は平和そのもの。近頃はやっと上がってくる書類仕事も落ち着いてきたし、この気持ちの良い青空の如く気分も晴れ渡るというものだ。

 これだけ平和ならば、明日はアリーシャに頼んで弁当でも作って貰って、町の外へ出かけてみるのもいいかも知れない。


「ん~……ふふん~……んん~っ……!」


 そんな事を考えれば考えるほど、ファントの街路を突き進むテミスの足取りは軽くなり、高揚する気分を現したかのように肩へと担ぎ上げられた花束が、わしわしと音を立てて揺れ動いた。


「ちょっと!! テミス……! 花束をそんなに乱暴に扱わないでって言ってるじゃない! ああもうまた少し花弁が落ちちゃって……! これじゃあルギウスさんの所に着く頃には茎だけになっちゃうわっ!?」

「だったら花束(こんなもの)など私の持たせるな。だいたいお前、私の見舞いに来た時には、花束どころか手土産の一つすら持ってこなかったじゃないか」

「ああっ!! こら振りまわさないでッ!! それに、貴女へのお見舞いとは訳が違うのよッ! これはこの町の代表者である貴女が、ラズールの代表者であるルギウスさんをお見舞いする為に足を運んだっていう意味が――」

「――別に変わりなど無いさ」

「っ……!!」


 フリーディアは手に持った花束を、まるで片手剣かの如く自らの眼前へと突き付けて文句を言うテミスを諫めると、その勢いのまま腰に手を当てて早口でまくしたて始める。

 しかし、フリーディアの言葉を皆まで聞くよりも早く、テミスはフリーディアへと切っ先を向けていた花束を肩へと担ぎ直すと、悠然とした笑みを浮かべて言葉を続けた。


「そう。何も変わりなどない。私はただ、床に伏している友を見舞いに行くだけさ。そうだろう?」

「それは……そうだけどッ……!!」

「クク……まぁ、お前の言わんとしている事は理解できるさ。確かに、こうして私が仰々しく花束を担いで見舞いに赴けば、ラズールとファントの関係修復を示す政治的な意味は大いにあるのだろうな」

「はぁ……そこまでわかっているのならしっかり務めなさいよ。これも仕事の内よ?」

「フフッ……こんなにも良い陽気な上に私の回復の速さに驚くルギウス達の顔が見れて気分も良い、そこまで言うのなら付き合ってやるけどな……。生真面目なお前らしいというかなんと言うか……」

「なによ……? 勿体付けた言い方をして。はっきりと言いなさいよ」

「んん? いやな。なんとなく理解はしていても、改めて口に出そうとすると少しこっ恥ずかしいものだと思っただけさ」


 病院への道を並んで歩きながら、フリーディアが不機嫌さを露にして問いかけると、テミスはルギウスへ贈る花束を肩に担いだまま、クスリと笑みを浮かべて空を仰いだ。

 いってみればこれは、何のことはない当り前の事実でしかない。

 きっと、ルギウスやマグヌス達、フリーディアだって何処かわかってはいる筈なのだ。


「良いか? フリーディア。ファントとラズールはいわば兄弟、姉妹のようなものだ。このファントがまだ魔王領の一部であった頃から、ラズールが窮地にあれば救いに駆け付け、ファントで有事があれば手を貸り、これまで助け合ってきた」

「ん……」


 楽し気な笑みと共に語り始めたテミスの論に、一度は自分たち自身がラズールの脅威として立ちはだかった事実を思い出したフリーディアは、鼻白みながらも小さく頷いて先を促した。

 あの時はまだ、ファントもラズールもロンヴァルディアとは敵対していて。

 突然戦場に現れたテミス達には酷く手を焼かされたものだ。


「そんな間柄だ。たまには喧嘩の一つくらいするさ。けれど事が収まれば、そこには遺恨も何も無い。元通り……いや、これまで以上に深く友好が結ばれたと言えるだろうさ。そうでなければ、何の為にわざわざ私とルギウスが一騎打ちなどして見せたというんだ」

「っ……!!」


 頬を僅かに染め、青空を見上げたまま言葉を続けるテミスに、フリーディアは返す言葉が思い付かずに黙り込んだ。

 確かに、今回のラズールとファントの諍いでは、一人の死傷者も出てはいない。

 強いて被害らしい被害を挙げるのならば、直接刃を交えたテミスとルギウスが互いに重傷を負った事くらいだ。

 けれど……。


「そ……それを言うなら……」

「……おっと、なんだかんだと話していたら、あっという間に到着したな。さぁ、ではラズールの代表者殿の御加減でも伺いに行くとしようか」

「っ……!!!」


 時に刃を交え、時に助け合ってきた者達の間で、これまで以上に深く友誼が結ばれるというのなら。

 幾度となく戦場で相まみえ、幾度となく背中を預け合ってきた私たちはどうなるのだろう? と。

 病院の前へと辿り着いた途端、何かをはぐらかすかのように肩を竦めて足を速めたテミスの背を追いながら、フリーディアは胸の内に生まれたもやもやとした思いを、口に出しかけた疑問と共に飲み下したのだった。

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