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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第21章

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1277話 激戦の終幕

 ルギウスの放った魔法は、完全にテミスの虚を突いていた。

 派手に展開した巨大な魔法陣から次々と撃ち出される強力無比な魔法は、ルギウス自身の放つ魔法からテミスの意識を逸らしたのだ。


「っ……! …………」


 流石だ。と。

 両者の攻撃が激突する刹那。テミスは静かに胸の中でルギウスを賞賛した。

 放たれた数々の強力な魔法は、私の全力を以てしても近付く事すら容易では無く、いざ肉薄した先で仕留めたと剣を振りかぶってみれば、それを待ち構えていたかのように隠していた次の魔法が襲って来る。

 そしておそらく、この魔法を切り抜けた先にはあの精緻な剣術が待っているのだろう。


「フゥゥゥゥ……」


 だた、万感の思いを胸に小さく息を吐く。

 眼前に迫る風の刃を前にした一瞬にすら満たない僅かな時間に、テミスが出来た事はただそれだけだった。

 決着だ。

 見るもの全てに……否。この戦いの噂を聞く事になるであろう者達であっても……何より、自分たち自身でさえも、異を挟む隙など一分もない完璧な決着だ。


「――ハァァァッッッ!!!!」

「……っ!!!」


 そして訪れた着弾の時。

 轟いたのは猛々しく響くテミスの雄叫びだった。

 ルギウスの放った風の刃はテミスの肌に近付いた瞬間、まるで熱した鉄板の上に垂らした水滴が如く消え失せ、最後の障害を突破したテミスが万全の状態でルギウスへと肉薄する。

 対するルギウスは、眼前で起こった不可解な現象に目を見開いて驚きを露にするも、その身体に刷り込まれた経験が、意識の底に在る本能が、今まさに振り下ろされんとする大剣を己が剣で受け止めるべく身体を突き動かし、防御の構えを取った。

 だが。


「…………」


 キィン……と。

 激戦の最中。聞こえる筈の無いか細い音色が二人の耳に木霊する。

 その音は、テミスの攻撃を阻むべく、咄嗟に繰り出したルギウスの剣が真っ二つに両断される音だった。

 ちょうど刀身の真ん中辺りで両断され、支えを失ったルギウスの剣の切っ先がゆっくりと回転しながら宙を舞う。


「フッ……」


 完膚なきまでの敗北だった。

 万全を期した。切り札も切った。自らの取り得る手段は全て使い果たし、まさに全力を尽くしたと言えるだろう。

 高く抜けた青空のような清々しさすら覚えながら、そこに僅かに混じる苦々しい悔しさを噛み締め、ルギウスはクスリと小さく笑みを漏らす。

 ああ、やはり君は面白い。

 引き延ばされた時間感覚に身を浸しながら、ルギウスは胸の内で静かにテミスへと問いかけた。

 僕は君の、そのか弱く脆い人間の身であるなどとは思えぬほどの強さに、どれくらい迫る事ができただろうか。

 楽しかった。ビリビリと肌を焦がす緊張感も、ドクドクと全身を暴れ回る胸の鼓動も、久しく感じる事の無かった感覚だった。

 出来る事ならもう少し長く、この激しくて甘美な享楽のひと時を君と過ごしていたかったのだけれど……。


「…………」

「……!」


 無論。ルギウスが胸の中で呟いた言葉に答えがあるはずも無く、刹那の時間は過ぎ去っていった。

 それと同時に、剣を交えていた二人の時間感覚も正常なものへと戻り、交叉を終えて背中合わせで佇んでいる事を自覚した。


「フ……フフ……」


 ルギウスは自らの視線を手元へと落とすと、そこには中程から刀身の消えた剣が握られていて。

 せめてもの矜持として、ルギウスは静かに笑みを浮かべて一歩、また一歩とよろめくように歩を進めた。

 痛みはまだない。けれど確実に、テミスの剣は僕の身体を斬っているはずだ。

 まだ、僅かにでも時間があるのならば……斃れる前に一つだけ。聞いておきたい事がある。


「テミス。最後の瞬間……君は何をしたんだい? 僕の目には、魔法が突然消え失せたように見えたのだけれど」

「……。あぁ……その通りだルギウス。お前の放った魔法は完璧だった。アレは完全に私の虚を突いていたし、放たれたタイミングも躱す事など到底不可能だったとも。あの時の私にできる事など何も無かった」

「ならば……何故……?」


 じわじわと口の中に広がってくる苦みを堪えながら、ルギウスはテミスと背合わせに佇んだまま問いを重ねた。

 完全な敗北だったからこそ、あの不可解な現象だけは知りたい。その欲だけが、今にも力尽きてしまいそうなルギウスの身体を支えていた。


「お前のお陰さルギウス。お前が私から限界以上の力を引き摺り出してくれたからこそ、私はあの魔法を防ぐ事ができたんだ。原理はわからん。だが、この身から迸る魔力が障壁の役割を果たし、お前の魔法を退けたのだろう」

「あぁ……なるほど……」


 テミスは静かな声でルギウスの問いに答えると、残心を解いてゆっくりと背後を振り返る。

 そこでは、相も変わらずこちらに背を向けたままルギウスが佇んで居て。

 テミスは迷う事無く、その背に向かって静かに歩み始める。

 同時に、テミスの答えに対して柔らかに紡がれたルギウスの声には、途方もない満足感に満ち溢れていた。


「……ったく、無理をするな。他でもない、私に無茶をするなと散々言っていたのはお前だろう?」

「フフ……そう……だったね……」


 その言葉を皮切りに、ルギウスはまるで立っている力さえも使い果たしたかのようにグラリと体勢を傾がせると、背中から崩れ落ちるようにして地面へと倒れていく。

 だが途中で、地面へと吸い込まれていくその身体を、テミスは柔らかく受け止めると、皮肉気な笑みを浮かべながら腕の中のルギウスへと告げる。


「……また、何度でも挑んで来い。そして私にも挑ませろ」

「っ……!! あぁ……」

「だから……今は休め。後の事は引き受ける」

「ありがとう……。君の優しさに、甘えるよ」


 テミスは受け止めたルギウスを抱き留めたまま、ゆっくりとその場に腰を下ろすと、自信に満ちた微笑みをルギウスへと向けてルギウスと短く言葉を交わす。

 そして、じわじわと広がりはじめた痛みを堪えてテミスを下から眺めながら、ルギウスは途方もない満ち足りた温もりと幸福感に包まれながら、薄らいでいく意識をゆっくりと手放した。


「全く……。満足そうな顔をしやがって……」


 そんなルギウスを眺めながら、テミスはクスリと口角を緩めて穏やかに笑うと、優しい声でそう零したのだった。

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