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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第21章

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1276話 瞬撃の狭間

 テミスが飛び出したと同時に、ルギウスの背後に彼の身の丈すら超える程に(おお)きな魔法陣が現出する。

 それは、赤から紫へ、紫から淡い緑へと、まるで流動しているかのようにゆったりと色が移り変わっており、その緻密に描かれた紋様も相まって、一目見ただけではどのような効果をもたらすものであるかなど見当もつかない。

 しかし、一つだけ確実なのは、その魔法陣が途方もない力を秘めているという事。

 ルギウスの放つ全力の魔法という事実だけではなく、魔法陣自体から伝わってくる膨大で濃密な魔力がそれを物語っていた。


「ッ――!!!」


 だがそれでも。

 ルギウスへ向けて猛進せんと踏み出したテミスの勢いが衰える事は無かった。

 地面を蹴って飛び出した勢いを殺す事無く、二歩目は地面を抉り抜くかのように蹴り飛ばし、さらに前へと加速する。

 そしてテミスの足が、三歩目を蹴り抜くべく大地を踏みしめた時だった。

 ルギウスの背後に現出する魔法陣から、煌々と赤く輝く球体が出現すると、一瞬だけふよふよとその場で滞空した後、駆けるテミスへ向けて一直線に射出された。


「カァッ……!!!」


 それに対して、テミスの取った行動は酷く単純なものだった。

 気合の籠った息を吐き出すと共に一閃。構えた大剣を猛然と振るい、飛来する赤い光球を真っ二つに叩き切ったのだ。

 漆黒の大剣によって二つに裂かれた光球は左右に分かれ、テミスの背後で地面に落着すると、その場で轟ッッ!! と燃え上がり、天をも焦がすほどの高さを誇る二柱の炎柱へと姿を変えた。

 炎柱からは、触れるどころか間近に寄る事も許されぬ程の熱量が放たれていたが、既にその場にテミスの姿は無く、何処か悔し気に煌々と光を放っていた。


「まだだッ!!」


 しかし、第一撃を斬り伏せたのも束の間。

 ルギウスが鋭く息を吐くと共にそう叫ぶと、今度はヂヂヂヂッ!! と、甲高い音を発する紫色の光球が、背後の魔法陣から現出した。


「……!」


 光球を見た刹那、テミスは直感する。

 アレには触れるべきではない。と。

 幾ら魔法といえど、魔力を用いて現象を引き起こしているに過ぎない。

 故に、テミスは刃に込めた力とその凄まじい剣速を以て、現出した後の現象や物体にどれ程の魔力が籠められ、どれ程の威力を秘めていようとも両断せしめてきた。

 だが、あれは斬ること自体が不可能だ。

 原理はわからない。しかし、背筋を駆け抜ける悪寒が、テミスの身体を全力での回避へと突き動かしたのだ。


「ッ……!!!」


 その直感は正しかった。

 強引に身体を捩り、体勢を崩しながらも身を躱したテミスの傍らを通り過ぎた紫色の光球は、徐々に高度を下げてテミス達の足元に茂る草の先へと僅かに触れた。

 刹那。

 光球は、ギュッヂッ!! と耳障りな音を立てて、周囲の空間に存在する物を消滅させた。

 残ったのは、サッカーボール大程度の大きさの、異様なほど綺麗に抉り抜かれた地面だけで。

 もしもテミスが剣で受けていれば、剣を失っていたのは確実。下手をすれば、身体の一部すら消し飛ばされていたかもしれない。


「クハッ……!!!」


 全身をビリビリと駆け抜ける緊迫感に、テミスは堪らず笑みを漏らすと、崩れた姿勢のまま前へと突き進みながら、空中でクルリと身を翻して瞬く間に姿勢を立て直した。

 幾らテミスといえど、普段ならばこんなヒトの枠を遥かに超えた動きなど出来るはずも無い。

 しかし今は、超人的な身体能力を持つテミスの肉体に施された強化魔法が、限界を打ち破って不可能さえも可能としている。

 そして気付けば、テミスの大剣の射程にルギウスを捉えるまで、あと数歩歩めば届く距離にまで近付いていた。


「次は……こちらの番だッ!!!」


 テミスは叫びと共に自らの全力を込めた大剣を振りかぶると、ルギウスを仕留めるべく最後の一歩を力強く踏み切った。

 勝利の宣言に等しいテミスの咆哮。だが、ルギウスの背後にはいまだ展開されたままの魔法陣が煌々と色とりどりの光を放っている。

 それでも、テミスには勝利までの確かな道筋が見えていたのだ。

 これ程近くにまで寄ってしまえば、あの魔法陣の放つ凄まじい威力の魔法では、ルギウス自身も巻き込んで自滅する可能性は高い。

 少なくとも、先程の紫色の光球のように、防ぐ事すら叶わない魔法を撃って来るとは考え難い。

 ならば、魔法を突破されたルギウスに残された手段は剣のみで。

 私とて、限界を越えてこの肉体を強化した上に、全霊の力を剣に込めているのだ。生半可な防御など無意味。

 こと守りに回らざるを得ないであろう次の一撃に限っては、確実に通るッ!!

 鋭い視線で射貫くようにルギウスを睨み付けたテミスが、そう確信を以て剣を振り下ろした時――。


「フッ……流石だねテミス。でも……あと一歩だ」


 緩やかな笑みを浮かべた唇がそう言葉を紡ぐと、ルギウスは静かに剣を持たぬ空の手をテミスへ向けて翳した。

 そして、詠唱も無く一瞬で魔力を掌へと集約させたルギウスは、真正面から突っ込んでくるテミスの顔面に向けて、魔法で創り出した風の刃を放ったのだった。

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