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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第21章

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1268話 見守る者

 遮る物の無いなだらかな平原に、二人の戦士が向かい合って並び立つ。

 その周囲には、彼等によって呼び寄せられた両陣営の兵士たちが、二人の様子を遠巻きに見守っている。

 戦を望まなかった二人による一騎打ち。この場に集った兵達に仔細は告げられず、そうとだけ知らされていた。

 故に。二人の実力を知る者は、これから繰り広げられるであろう激戦に緊張感をみなぎらせて生唾を呑み込み、血気に逸る者は戦いを見守る者たちの最前列で、熱のこもった声で叫びを上げている。


「……意外だな。まさか、お前がここまでの事をするとは」

「そうかい? でも……そうだね。実は僕も少しだけ驚いているんだ。さっきはあまりの怒りで勢いのままに一騎打ちを申し込んだけれど、こうして冷静になった今も、昂っている自分がいる」

「ホゥ……?」

「思えば、僕は君と剣を交える機会が無かったからね。気にはなっていたんだ……僕は今、君の強さにどれ程迫る事ができているのだろう……とね」

「ハ……抜かせ。端っから負ける気など毛頭ない癖に。見え透いた謙遜は嫌味だぞルギウス」


 だが、周囲から向けられる声援など歯牙にもかけず、テミスとルギウスは互いに微笑を浮かべて言葉を交わしていた。

 そこに怒りや恨み、憎しみなどといった感情はその様子は含まれておらず、まるで気心の知れた友人同士が語らいで居るかのようで。

 この二人が、これからこの場に集った兵達を代表しての一騎打ちを行うとは到底思えなかった。


「そ、それでは、僭越ながら私が開始の合図を」

「待ちなさいよ。アンタはさっきテミス様に食って掛かっていたでしょう? そんな奴に、この一騎打ちの開始の合図をする資格は無いわ」


 静かな笑みを浮かべて言葉を交わすテミス達の傍らから、緊張した面持ちのシャーロットが歩み出て声を上げるが、それに対抗するように進み出たサキュドによってその言葉が遮られる。


「っ……!! 私が要らぬ小細工をするとでも!? この期に及んで言い掛かりをつける気かッ!?」

「別に? そんなこと言ったつもりは無いのだけれど? アタシはただ資格が無いと言っただけよ。でも、これでよぉく解ったわ。退きなさい。妙な真似なんかさせないわ」

「貴女こそッ!! わざわざしゃしゃり出てきてルギウス様に何かを仕掛ける気でしょう!! 恥を知りなさいッ!!」


 皮肉気に肩を竦めて言葉を重ねるサキュドに、怒りを燃やしたシャーロットは拳を固く握り締めて叫びを上げた。

 一騎打ち。公正にして平等だと思えるこの戦いにも、唯一ひとつだけ不平等なものがある。

 それこそが、戦いの始まりを宣言する合図だ。

 戦いの火ぶたを切って落とす第一撃は、言うまでも無くその戦いを左右するに足る重要な一撃。だからこそ、呼吸を整え、最高のタイミングで放ちたいはず。

 達人同士の戦いでは、その僅かな差こそが勝負を左右する可能性だってある。

 それを知るからこそ、シャーロットはルギウスの副官として、主の為に出来得る全ての手を尽くそうとしたのだ。

 だが……。


「クス……テミス様にそんな必要無いわ。けれど……護衛として、余計な露払いはしなくちゃいけないもの」


 サキュドはシャーロットのそんな思惑を見抜いたからこそ、クスクスと挑発するように笑いながら、自らの手に紅槍を顕現させる。

 二人が真っ向から戦うのならば、そこに水を差す程サキュドは無粋ではない。

 けれど、テミスが純粋に一騎打ちへと臨んでいるというのに、余分な手出しをする輩を許しはしない。

 シャーロットはその忠誠心故に、サキュドは戦いに身を置くが故に譲る事はできず、二人もまた傍らで向かい合う二人の主をよそに、緊迫した面持ちで睨み合いを始めた。


「……やれやれ。だな。下がれサキュド。ここでお前達がやり合っては、我々が戦う意味が無い」

「すまないね。シャルも少し冷静になるんだ。けれど……どうしようか。僕としては、我々だけで始めてしまってもいいけれど、兵達の前という事もある」


 ともすれば、テミス達より先に戦いを始めてしまいかねない二人を、テミスとルギウスは苦笑いを浮かべて下がらせると、小さくため息をついてそれとなく周囲に視線を巡らせる。

 けれど、一個小隊分随伴してきていた護衛の兵は、お互いに伝令として本体へ返してしまっている。

 故に、二人の視線が彼女で留まったのは、ある意味で自明の理であった。


「お前がやれ。フリーディア。騎士の誇りとやらに懸けて平等に、公正にな」

「そうだね。お願いできるかな? 君ならば適任だと僕も思うよ」


 それまで、フリーディアはただテミスに付いてきただけで、言葉を発する事無く、ただその身に課された役に徹して場を見守っていた。

 だからこそ、この場で最も二人の心情を理解できているのだろう。

 ルギウスさんが怒ったのは、大切な友人であるテミスを傷付けた者をその手で斃すため。

 テミスがルギウスさん達を拒むのは、決して殺す事のできないマモルを確実に滅ぼす為。

 そんな二人の間に割って入るには、今の私はあまりにも役不足だと思えて。

 だけど、当の二人に名指しをされてしまっては、拒む訳にもいかない。


「っ……!! 二人がそう仰るのなら……わかりました」


 テミスとルギウスに求められたフリーディアは、僅かに唇を噛み締めながら小さく頷いてみせると、背筋を伸ばして静かに二人の間へと進み出たのだった。

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