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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第21章

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1249話 無知なる蛮勇

 翌朝。

 テミス達は装いを整え、執務室の閉ざされた扉の前に集結していた。

 この部屋はテミスにとって、マーサの宿屋に次いで二番目に、ファントの町で時間を過ごした馴染みの深い場所だ。

 だが、厳重に閉じられた扉の向こう側からは、今や禍々しさすら感じるほどで。

 仲の惨状を知るテミス達には、不定形の化け物の形をした瘴気が、今にも扉の隙間から這い出て来るような錯覚さえ覚えてしまう。


「マグヌス……震えているわよ?」

「フッ……これは武者震いだ。お前こそ、顔が引き攣っているように見えるが?」

「冗談。それはアンタの気の所為よ」

「っ……!!!」


 サキュドとマグヌスが軽口を叩き合う後ろで、テミスは密かにごくりと生唾を飲み下す。

 堪らずこの部屋から逃げ出してから、幾ばくかの時間は流れた。

 だが、今回の相手ばかりは時間が解決してくれる類のものではない事を、テミスはよく知っている。

 だからこそ、わざわざ専用の道具まで買い集め、知り得る知識を総動員して対策を用意したのだ。


「こんなに準備までしちゃって……。気持ちはわかるけれどあなた達……少し大袈裟よ」


 しかし、決死の面持ちを浮かべるテミス達一行の中で唯一、フリーディアだけは呆れたような表情を浮かべていた。

 そんなフリーディアに、テミスは内心で深くため息を吐くと同時に、自らの脳裏を一縷の閃きが駆け抜けていくのを感じた。

 そうだ。内側の惨状を知る我々では、どうしても中に足を踏み入れるのに躊躇いが生じてしまう。

 それでは駄目なのだ。

 中の爛れた空気を極力こちら側に漏らさぬよう、一気呵成に攻め込まなくてはならない。

 ならばいっそ、恐れを知らないフリーディアに先陣を切らせてしまえば良いじゃないか。

 ここは適材適所。今もこうして呆れた表情を浮かべている事だし、資格は十分にある筈だ。

 あとは、自分自身の心が己の非常を受け入れるだけ。


「ク……クク……ッ!! そうか。そこまで言うのならばフリーディア。ここは一番槍の栄誉をお前に譲ってやろう」

「っ……!! そ……そうねッ!! アンタにとってコレは大袈裟なのでしょう? なら、切り込んで自分の言葉を証明してみなさいな」

「……凄ぉっ……く嫌な予感しかしないのだけれど。ねぇ、何か企んでない?」

「ハッ……! 馬鹿な。何を企む事があろうか。私はただ、お前に先頭を任せようと言っているだけだ」


 吊り上げた唇の端をヒクヒクと痙攣させながら、テミスはフリーディアにそう告げると、その背を押して半ば強引にフリーディアを扉の前へと立たせた。

 すると、一瞬でテミスの意図を察したサキュドが扉の前から退き、フリーディアの隣から煽り立てるように言葉を重ねる。

 無論。フリーディアがそんなテミス達の怪し気な言動を見逃すはずも無く、クルリとテミス達の方へと振り返ると、訝しむように眉根を潜めて問いかけた。

 だが……。


「はぁ……わかったわよ。言いたい事は沢山あるけれど時間の無駄だわ? ああでも、これだけは言っておくけど、ヘンな事はしないでよね?」

「勿論だとも。我々の目的は同じ。ふざけた真似などする訳があるまい」

「何を当たり前の事を言ってるのよ。さ、早くしなさい」

「っ……。…………」


 早々に問答を諦めたフリーディアがため息と共に扉へと向き直ると、釘を刺すように返した言葉にテミスとサキュドがコクコクと頷く。

 その傍らでは、マグヌスが何か言いたそうな表情を浮かべていたが、中途半端に口を開きかけた後、諦めたように息を吐いて口を紡ぐ。


「はいはい。じゃ、開けるわよ」

「――っ!! ま、待てッ!! まずは段取りだ。内部へと突入したら、一番最初に窓を開ける。これが肝心だ。いいな?」

「え……えぇ……。流石にそのくらい解るわよ……」

「う、うむっ!! そうか、そうだよな。なら、良いんだ」


 緊張した面持ちを浮かべるテミス達に、フリーディアは理解できないとばかりに肩を竦めた後、気負い無くその手を扉へと伸ばす。

 しかしその途端、テミスの鋭い声がそれを制止したが、ぎこちの無い会話を数度交わした後、フリーディアは再び扉へと向き直った。

 そして。


「まったく……すぐそうやって私の事を馬鹿にするんだから――きゃぁッ!!?」


 フリーディアが執務室の扉を開け、中へと足を踏み入れるべく半歩進んだ時だった。

 刹那の間に目配せを躱したテミスとサキュドが雷光の如き速度でその身を動かすと、フリーディアの身体を部屋の中へと押し込んで、再びすぐに扉を閉ざした。

 しかも、フリーディアのみを中へと押し込んで閉ざされた扉は、テミスとサキュドが二人がかりで押さえていて。

 つんのめるようにして部屋の中へと転がり込んでいったフリーディアが、廊下へと戻る事は最早叶わなくなっていた。


「痛ったぁ……!! ちょっと!! 変な事はしないってさっ……き……」


 だが、扉を隔てた執務室の中からは、残酷な事実など知る由もないフリーディアの抗議する声が聞こえてくるが、その言葉が不自然に途切れる。

 直後。


「くっッッ……さッッ!!!! ちょっ……何よコレッ!!! って開かないッ!? ねぇ!! 開けてッ!! ウッ……待って……!! 本当に何の臭い……ッ!!」


 ドンドンと激しく扉を叩く音と共に、フリーディアのくぐもった悲鳴が響き渡る。

 しかし、テミスとサキュドの金剛力によって閉ざされた扉を開ける事が叶うはずも無く、フリーディアがいくら力を込めようとも、ガチャガチャドンドンという音が鳴るだけだった。


「フリーディアッ!! 窓だッ!! 早く窓を開けろッ!! 急げッ!!」


 そんな執務室の中で身悶えしているであろうフリーディアに、テミスは全力で扉を抑え付けながら叫びを上げたのだった。

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