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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第21章

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1248話 悲願の決戦

「さ……て……。私もこのまま雑談に花を咲かせたいのはやまやまなのだが、我々には一つ、解決しなくてはならない重大な問題がある」


 サキュドとフリーディアの繰り広げる賑やかな口喧嘩を存分に堪能した後、テミスは緩み切った空気を入れ替える意味も込めて一つ咳払いをすると、真剣な口調で口を開いた。

 すると、元より静やかに姦しい雰囲気を楽しんでいたマグヌスはもちろんの事、じゃれ合いに興じていたサキュドとフリーディアも、即座にその顔を引き締まった表情へと切り替えてテミスへと注目する。


「……結構。これまでは、市井の安定を最優先する為に後回しにせざるを得なかったが今回、あの一件のお陰で我々にも幾ばくかの余裕ができた。よってそろそろ、我々が奪われた者を取り戻す頃合いだと私は思う」

「っ……!! 漸く……ですな。このマグヌス、テミス様よりの号令がかかるのを、今か今かと待ち侘びておりました」

「あぁ、待たせたなマグヌス。私も今、万感の思いを以てお前達にこの話をしている所だ」


 粛々とそう語ったテミスは、一度言葉を止めると自らへと注がれる三対の瞳へ順番に視線を返す。

 はじめに目が合ったのは、一番隅で控えていたマグヌスだった。

 マグヌスはテミスと視線が交叉した途端に小さく息を呑むと、思慮深い光を宿した目に涙すら溜め、何度も大きく頷きながらテミスへと語り掛ける。

 その言葉に、テミスも柔らかな笑みを浮かべ、一度だけ深く頷きを返す。


「あぁっ……!! 遂に……ッ!! 本当……本当なんですね? テミス様ッ!!」

「本当だとも。サキュド……すまない。お前には一番苦労を掛ける事になってしまった」

「良いんですッ!! この件で一番お心を悩ませていたのはテミス様なのですからッ!」


 続いて、テミスがゆっくりとサキュドへ視線を向けると、サキュドは喜色に頬を赤らめながら喜びの涙を零していた。

 その、珍しく己の感情を素直に吐露しているサキュドの姿に、テミスは胸を締め付けられるような思いすら抱きながら、深々と頭を下げる。

 しかし、サキュドは涙に濡れた顔を激しく左右に振ると、苦し気に胸に手を当てながら、絞り出すような声で言葉を続けた。

 そして……。


「……。フリーディア……」

「っ……!!!」


 ゆっくりと紡がれたテミスの言葉が静かな部屋の中に木霊し、名を呼ばれたフリーディアがピクリとその肩を跳ねさせた。

 けれど、先の二人のように紡がれる言葉は無く、フリーディアはまるでこれから告げられるであろう言葉を待っているかの如く、じっとテミスの瞳を見つめていた。


「…………」

「っ……! …………。……?」


 だが、テミスもまたフリーディアの名を呼んだきり、一切の言葉を発する事無く静やかな視線をフリーディアへと注ぎ続けており、長い沈黙が部屋の中を支配する。

 そんな意味深な沈黙に、はじめは真剣な面持ちで臨んでいたフリーディアであったが、時が経つに従って、次第にその表情を怪訝なものへと変え、しまいにはぎこちなく首を傾げ始めた。


「えぇっ……と……。申し訳無いのだけれど、私には何のことだかさっぱり見当が付かないわ? 良ければ、説明をしてもらえると有難い……の……ですが……」


 そして遂に、気まずさすら漂い始めた空気に根負けしたフリーディアが、困惑を露わにしながらおずおずと問いを口にする。

 テミス達の間に漂う雰囲気は、まさに積年の願いが叶うといった風体だ。

 けれどフリーディアには、全くもって身に覚えがないし、記憶を遡った所で思い当たる節も無い。

 だからこそ、緊張と一抹の好奇心を胸に、勇気をもって問いかけたのだ。


「…………明日より。執務室及び指揮官私室の浄化作戦を開始する」

「へぇっ……!?」

「ハッ……!!」

「ハイッ!!」

「っ……!? ……!? えぇ……!?」


 だが、その問いに返されたのは、テミスの発した凄まじい気迫と執念の籠った命令だった。

 告げられたその内容に、フリーディアは思わず素っ頓狂な声を上げた後、ともすれば何かを聞き違えたのかと思い、慌てて自らの記憶を遡る。

 しかしその傍らでは、テミスと同じく並々ならぬ気合と闘志を漲らせたマグスヌとサキュドが、力強い返答と共にピシリと姿勢を正していた。

 だというのに、フリーディアの記憶は、耳は、確かに聞き違えなど無かったと主張していて。

 そのあまりの温度差に、フリーディアはどうしようもなく混乱しながらも、辛うじて働いた理性が身体を突き動かし、側付きとしての使命を全うさせる。


「フリーディア。お前……なぜ我々が臨時執務室(こちらの部屋)を使っているのか疑問に思わなかったのか?」

「えっ……? いや……不思議だなぁとは思っていたのだけれど……」

「知らぬ方が幸せ……いえ、思い出さぬ方が幸せであったと言うべきでしょうな」

「マ……マグヌスさんまで……!? 待って……? お願いだから説明を――」

「――行けばわかるわよ。こればかりはアタシも、責任を持ってアンタ一人で何とかしろなんて言わないわ。協力はする……ただ、覚悟しておきなさい」

「ッ……!!!」


 そんなフリーディアに、テミスは呆れたような深い溜息と共に、マグヌスは酷く憐れむかのように、そしてサキュドはまるで共に死地へと赴く兵士のような表情で言葉をかけたのだった。

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