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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第21章

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1243話 不慣れな悪魔

 翌日。

 軍団詰所の中庭には、軽鎧を着こんだ数名の男たちが集められていた。

 彼等は自警団に所属する者達の中でも、特に人優思考が強い者達で、今回の通達に対して自ら名乗りを上げてきたのだ。

 勿論、対戦相手が魔族だという事は事前に伝えてあるが、黒銀騎団の中でも屈指の実力を持つサキュドだとは伝えられていない。

 だからこそなのだろう。集った男たちは滑稽なほどに自信に満ちた表情を浮かべており、剣や槍といった自らが得意としているであろう得物を手に身体を温めている。

 周囲では、黒銀騎団の兵たちと肩を並べ、白翼騎士団の者達も見物に訪れていた。


「……思ったよりも人数が多いな」

「そうね。後で怪我をした人達の分の人員補填を考え直さなきゃ……」

「フッ……」


 そんな挑戦者たちの様子を眺めながらテミスが呟くと、傍らに控えるフリーディアが小さな声でテミスの言葉に応じた。

 尤も、テミスの呟きはただの独り言であったのだが、眼前の参加者に対する慈悲など欠片も感じさせないフリーディアの発言に、テミスは密かに苦笑いを浮かべる。

 今のフリーディアは、その思考を務めて我々の考え方へと合わせようとしているのだろう。つまり、フリーディアの目には、自分達が無条件で優れているなどという増長した思考を持つ彼等に、サキュドをぶつけてその心を折り砕くという、鬼畜極まる所業を選ぶ集団だと映っている訳で。


「ハハ……やり過ぎだろう……どう考えても……」


 テミスは傍らのフリーディアにも聞こえない程に小さな声で胸の内を漏らすと、苦笑いを乾いた笑みに変えて空を仰いだ。

 確かに、私達は『敵』に対して一切の情け容赦をする事は無い。

 だが、彼等は人道に外れた行いをしているとはいえ、一応は同じファントの住人であり、町を護る事を生業とする戦力の一人なのだ。

 この方法ならば、間違い無く歪んでしまった彼等の性根を根本から叩き直す事はできるだろうが、下手をすれば深い心傷(トラウマ)を刻み込んでしまうだろう。

 それでも、この方策は最も迅速であり、最も効果的であるのは間違いない。また、負担をかける事になるサキュドがとても乗り気なのも相まって、ここまで大々的な催しのようになってしまったのだ。


 ――すまない。


 その目に期待と希望を浮かべ、野心に満ちた光をギラギラと滾らせる参加者たちに、テミスは慰みとばかりに心の中で謝意を述べた。

 今のところ、白翼騎士団から離脱者は出ていない。しかし、その理由の一端を垣間見ている気がして、テミスはどうにもいたたまれない気持ちが胸を満たし続けていた。

 だが。


「おっ……!! お早うございますテミス様。我等一同、今日はご期待に添うべく全力を尽くします故、どうかお楽しみください」

「テミス様……!! ありがとうございます。よもや……このような機会を頂けるとは感無量ですッ!!」

「我等にはこの町を護り続けてきた確かな実力がありますからな。そんじょそこいらの魔族などひとひねりにして見せましょう」


 遠巻きに自分達を眺めるテミスに気が付いた参加者たちはテミスの元へと駆け寄ると、口々に滾る自信を言葉にしてみせる。

 しかし、この後彼等が相対するサキュドの存在を知るテミスにとっては、彼等の増長した言動も、不快感を覚える所など通り過ぎて、ただただ哀れに見えてしまう。

 けれど彼等の言葉を聞いているうちに、気付けばテミスの胸の内を満たしていた罪悪感に似たいたたまれなさは消え去っており、次第に愉しささえも沸き上がってきていた。


「クッ……フフ……。そこまで言うのであれば、お前たちの奮闘に期待させて貰うとしよう」


 そして僅か数刻と経たぬうちに、テミスの口角は不敵に吊り上がり、皮肉気な笑みを形作っていて。

 鎌首をもたげた嗜虐心に流されるまま、彼等の言葉に答えて背を押すように戦意を鼓舞させた。


「応ともッ!! お任せくださいッ!!」

「そんなにご期待を寄せられては、やり過ぎてしまうかもしれませんね」


 そんなテミスの口車に乗せられ、参加者たちは迸る戦意と共に高々と笑い声をあげた。

 その傍らで。

 静やかに控えているフリーディアは、僅かな間だけ固く拳を握り締めた後、クスリと黒い笑みを浮かべてみせたのだった。

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