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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第21章

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1236話 戦友への見舞い

「――ッ!? テミス!? 何か騒がしいとは思ったけど……。って、貴方たちは何をしているの?」


 病室の戸を開いて部屋の中へと足を踏み入れたテミスを、病衣を身に纏ったフリーディアが、ベッドの上で半身を起こした状態で出迎えた。

 その胸元からは、分厚く巻き付けられた包帯が微かに覗いており、彼女の調子が未だ万全ではない事を物語っている。

 だがそれでも。テミスはまるで何事もないかのように、クスリと皮肉気な笑みを浮かべて口を開く。


「フリーディア。ひとまずコイツ等に離れるように命令してはくれないか? 煩わしくてかなわん」

「え……? えぇと……まだ状況がよく呑み込めないのだけれど……」

「私はただ、お前の見舞いに来たのだと言うのに、コイツ等ときたらこぞってお前に合わせまいと邪魔をしてくるんだよ。それとも何か? 白翼騎士団の騎士共は、いたいけな少女を見れば絡みつく趣味でもあるのか?」

「貴女ねぇ……。あなたほどの人が、完全武装(そんな格好)で出向いて来たら警戒しない訳が無いでしょう……。大丈夫よ。テミスを放してあげて」

「っ……!! ですが……ッ!!」

「大丈夫。心配ないわ」

「は……はぁ……」


 テミスの悪意的な説明に、フリーディアは呆れたようにため息を漏らした後、柔らかな笑顔を浮かべて、テミスを阻むべくその四肢に縋り付いたままの騎士達へと語り掛ける。

 主であるフリーディアの命令に、騎士達は多少の抵抗こそ見せたものの、テミスと相対してなお、穏やかな笑みを浮かべて言葉を重ねたフリーディア頷くと、テミスから身体を離して一歩後ろへと退いた。


「それで……? 加減はどうなんだ?」

「見てのとおりよ。こうして座ったり、歩いたりする事はできるけれど、まだ剣を振ったり鍛練をしたりは出来ないわ。本調子とは言えないわね」

「フム……そんなものか……」


 煩わしい拘束から解き放たれたテミスは、そのままフリーディアの座るベッドの側へと歩み寄って語り掛ける。

 対するフリーディアも特にそれを咎める事は無く、肩を竦めながらすまし顔で普通にテミスとの会話に応じていた。

 だが……。


「でも……イルンジュ先生のお話だと、特に身体が痺れたりだとかの症状が残ることなく回復はするだろうけれど、どうやっても傷痕は残るらしいわ」


 少しだけ言葉を濁した後。恐らくは傷痕の上をなぞっているのだろう。フリーディアは病衣の上から自らの胸の中心辺りを擦りながら、悲し気に顔を伏せて報告を重ねた。

 フリーディアとてうら若き乙女。戦場を駆ける身とはいえ、やはりその身体に痛々しい傷痕が残ってしまうのは気にするらしい。

 しかし、テミスとて元々は斬り殺す気で付けた傷だ。なんだかんだで生き残ってしまったとはいえ、先に道を違えたのはフリーディアの方な訳で、謝る道理は無いだろう。

 けれど、自分のような存在などとは異なり、フリーディアは産まれてからずっと女として生きてきた純正の乙女な訳で。

 彼女自身がそれを望んでいるかなど知った事ではないが、如何なる理由があったとしても、嫁入り前の身体を傷物にしてしまったという事実に、テミスは僅かに顔を顰める。


「フン……。お前には良い薬だ。その傷を見る度、せいぜい自分のしでかした愚行を思い出すんだな」

「っ……!!! 貴様ァッ!! その手で傷付けたくせに、よくもフリーディア様にそのような口を利けたものだなッ!!」

「喧しいぞ。三下騎士風情が。お前達がそう主張するならば、このファントを滅茶苦茶にされた私は、お前達のように怒り狂ってマモルの奴に加担したフリーディアやお前達のお仲間を処刑でもすればいいのか?」

「っ……!! それは関係無いだろうッ!! そもそも! フリーディア様とてこうなる事を望まれていた訳ではないッ!! 町の人々の為になるようにと、日々お心を砕かれていたッ!!」

「良かれと思ってやった。頑張ったけれど失敗した。だから後はどうなろうと責任は無い。この町の人々の生活を預かる(まつりごと)とはそうも軽いものだ……と。そう言いたいんだな?」

「ウッ……グッ……ッ……!! そ、れは……ッ!!」


 マモルから引き渡されたとかいう、理外の再生力を以てしても傷痕が残るのか……? 痕でそれとなくイルンジュに確認してやろう。

 テミスは胸の中でそう呟きながらも、無理やり唇の端を吊り上げると、フリーディアに対して冷たく言い放った。

 すると流石に見かねたのか、テミスの背後に退がった騎士達が、再び怒りをあらわにして口を挟んでくる。

 だが、忠義という名の究極の身内びいきと、理論よりも感情に任せた彼等の主張を叩き潰すのは酷く簡単で。

 テミスは背後の騎士に視線すら向けぬまま、淡々とした口調で横槍を封殺する。


「ッ……!! そもそもッ――」

「――もう良いわッ!! 貴方たちは下がりなさい。……いえ、カルヴァスとミュルクを呼んできて頂戴」


 しかし、理論でやり込められて尚、騎士の悋気は収まらなかったらしく、しばらくの沈黙の後、テミスに反論すべく再び騎士が語気を荒げて口を開く。

 だが、彼が言葉を紡ぎ出す前にフリーディアの叫びがそれを掻き消した。


「っ……!? フリーディア様ッ……!?」

「貴方たちにテミスとその話をする権利は無いわ。期せずしてこの話になってしまったけれど……テミス、貴女の本当の用件はこっちじゃないかしら? その格好を見れば察する事くらいできるわよ」


 そして、フリーディアは苦笑と共にそう言葉を続けると、チラリとテミスの目を見上げて肩を竦めたのだった。

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