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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第21章

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1234話 味方が故の敵意

 病院。

 テミスが魔王軍の軍団長として正式にファントを治めた際、真っ先に作らせたこの施設は、病に罹った者達だけではなく、戦いで傷付いた兵や事故に遭った町の人々が身体を休める開かれた療養の場となっていた。

 だが、テミスはそんな建物の前に、漆黒の甲冑を着こみ大剣まで携えた、この場にそぐわぬ完全武装の姿で現れると、同じく物々しい装備で身を固めたサキュドとシズクを側に連れ、迷う事無く病院の中へと歩を進める。


「あの……テミスさん……」

「気にするな。言いたい事は理解できる。だが、必要な事だ」

「えぇ。そんな事よりも、すぐに抜ける(・・・)ようにしておきなさいな」


 無論。テミス達には底知れない恐怖を孕んだ困惑や好奇の目線が突き刺さるが、それに身を捩ったシズクの言葉をテミスはにべもなく一蹴すると、緊張を帯びた目で自らの行く先を見据えた。

 終わりの見えない書類仕事に忙殺され、テミスが限界を迎えてからはや数日。

 未だに鬼の如く押し寄せる仕事の勢いが陰りを見せる事は無い。

 だが、忙しさを理由にもう一つの難題から逃げ続けるのももはや限界で。

 テミスは今日、マモルに与してファントの融和を乱したフリーディアに処分を伝えるべく、こうして彼女の元まで出向いてきているのだ。


「えぇ……? いえ……用件を考えれば理解できますけれど……どう考えても私達の格好は場違いですよ?」

「追い詰められれば何をするかわからないのは人も獣も同じだ。そして奴等には、どうにかできるだけの力がある。備える理由としては十分さ」

「戦いになった場合、予定通り追跡や撃破はアタシ達がやるわ。貴女は他の人たちを守りながら避難させなさい」


 三者三様に物々しい足音を響かせて廊下を突き進みながら、不安気に眉を顰めるシズクにテミスとサキュドが声を掛ける。

 相手は未だに無双と噂を轟かせる白翼騎士団なのだ。

 本来ならば、黒銀騎団総員を以てこの病院を包囲し、無力化してから取り押さえるべきなのだろうが。


「やれやれ……流石に味方を相手にそこまではできん。尤も、こちらが味方だと思っていても、敵に回るか否かが連中の気分次第なのが厄介だな」


 テミスがそう嘯きながら角を曲がると、途端にその様相ががらりと変化する。

 これまでの、病んだり傷付いた身体を休める為といった雰囲気は飛び、背筋を正した騎士達が廊下の左右に並び立つ姿は、さながら貴人の居わす王室かのようで。

 そんなフリーディアの護衛に付いていた白翼騎士団の騎士達は、完全武装のテミス達が姿を現したのを見ると、驚きの色を露にすると同時に身構えてテミス達の前へと立ち塞がった。


「ま、待てッ!! そんな恰好で何の用だッ!!」

「ここを何処だと思っているッ!?」

「フン……。何って見舞いだよ見舞い。決まっているだろう?」

「甲冑を着こんで見舞いに来る奴が居るかッ!! 馬鹿も休み休み言ってくれッ!!」

「現にここに居るだろうが。ったく騒々しいな。良いから早く道を開けろ」


 左右から次々に躍り出てくる騎士達を前に、テミスはさも当然であるかのように深くため息をつくと、皮肉気に微笑みを浮かべながら声を荒げる騎士達に応ずる。

 しかし、当然の事ながら騎士達が退く訳も無く。逆に己が身を盾とするかの如く立ちはだかった。


「真の目的を言えッ!!」

「絶対にフリーディア様の元には通すなッ!!」

「よくもフリーディア様にあんな重症を負わせておいて顔を出せたものだッ!!」

「チッ……コイツ等……ッ!!」

「ククッ……まぁ待て」


 騎士達は傲岸不遜に言い放ったテミスに対して口々に罵詈雑言を浴びせると、言葉を返す隙すら作らず喚き続けている。

 その様子が酷く癇に障ったらしく、テミスの傍らで控えていたサキュドが唸るように舌打ちをすると、その身から魔力を漏れさせて一歩前へと踏み出そうとした。

 だが。

 テミスは騎士達の言葉を一身に受け止めながら低く喉を鳴らすと、静かな笑みを浮かべながら憤るサキュドを引き留めて口を開いた。


「……お前達。好きに勝手に振舞うのは構わんが、よもやここが何処かを忘れた訳ではあるまいな?」

「何ィッ……!?」

「職務を放棄してまで王族ごっこがしたいのならば、置物にも劣る役立たずだ。さっさとロンヴァルディアへ帰れ」

「貴様ァッ……!! 言うに事欠いて侮辱するかッ……!! 今こそ我等がフリーディア様の御身を守らずしてどうするというのだッ!!」


 いきり立つ騎士達を相手に、テミスはまるで挑発するかのように言葉を並べると、騎士達は怒りに顔を歪めてテミスへと再び怒号を上げる。

 しかし、それに対してテミスは怒る様子など微塵たりとも見せず、ただその顔に皮肉気な笑みを浮かべ、騎士達の言葉を悠然と受け止めていた。

 そして……。


「さて……それだけ叫べば鬱憤を晴らすには十分だろう。白翼騎士団の騎士共。一度しか言わんから良く聞けッ!! このファントの町を治める者として命令する。即刻道を開けろッ!! 以降我々の邪魔をする場合は反逆行為とみなして処断するッ!!」


 不敵に呟きを漏らした後。大きく息を吸い込んだテミスは、騎士達の怒声を上回るほどの大きな声で凛と命令を発したのだった。

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