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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第21章

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1231話 その仲裁者、戦姫につき

「絶対に許さねぇからなッ!! オラッ!! 逃げようとしてんじゃねぇよッ!!」

「逃げるつもりなんて無いッ! ただ商品を見ていただけじゃ――グッ!!」

「魔族に見せるようなモンウチの店にゃひとっつも置いちゃ居ねえ!! んな事ァ当り前だろうがッ!! だってのに汚ねぇ手でベタベタ触りやがってッ!! もう売り物にならねぇッ!!」

「そんなッ……!! 壊れてもないし汚れてもいないじゃないかッ!!」


 野次馬の群れを抜けると、一気に開けたテミスの眼前では、露店の店主らしき人間の男が、冒険者らしき風貌をした魔族の男を、怒鳴り声をあげながら叩きのめしていた。

 だが、魔族の男は身体を庇う素振りこそ見せるものの、店主らしき男へ反撃する事は無く、罵詈雑言を吐き続ける店主に必死の形相で言葉を返している。


「汚れていないだァ……? ふざけんなッ! テメェ等みてぇな魔族共が触ったってだけで十分に汚ねぇよッ!!」

「言いがかりだッ!! それに先程から金はきちんと支払うと言ってるだろうッ!!」

「弁償するなんざ当り前ェだろうが! 何を偉そうに言ってやがる!!」

「違うッ! 弁償ではない!! 売れないというのなら、責任を持って買い取ると言っているんだ!!」

「馬鹿言うんじゃねぇ!! ウチの大切な商品を魔族になんざ売れるかよッ!!」


 テミスは人混みの中から少し開けた円の中へ、ゆっくりとした足取りで歩を進めるが、激しく言い合いをしている二人がテミスの存在に気付く事は無く、その内容はより苛烈に熱を帯びていく。

 どうやら、この露店では革製品を取り扱っているらしく、鞄やベルトといった一般の人々でも利用する品から、なめし革の防具なども取り扱ってるらしい。

 そして、揉めている原因となっている品はどうやら後者のようで、怒り狂う店主らしき男の手には、一対の簡素な手甲が握られていた。


「おい。いい加減にしないか見苦しい。ひとまず一人づつ、何があったのか話してみろ」

「何ィ……? チッ……!! 関係ねぇガキはすっこんでろ!! こっちは立て込んでるんだ!! 騎士様の真似事なら余所でやりな」

「っ……!! 貴女は……!!」


 そんな二人の間に、テミスは大きく息を吸い込みながら、鋭い視線で双方を睨み付けて割って入った。

 だが、店主らしき男はテミスの姿を一瞥するなり忌々し気に舌打ちをすると、怒鳴りつけながら肩を突き飛ばした。

 露店の店主は、人間の中でも相当に体格の良い男ではあったが、テミスの身を一歩たりとも下がらせる事はできなかった。

 一方で、冒険者らしき魔族の男は少し驚いたように目を見開くと、コクリと頷いて一歩退き、店主らしき男から微かに距離を取る。


「あぁ……? テメェも逃げてんじゃねぇよ!! すぐに衛兵が来る……さっさと捕まって殺されちまえ!」

「っ……!」

「待て。私はいい加減にしろと言ったはずだ」


 しかし、店主の男はテミスの言葉を無視して、魔族の男へ向かって再び咆哮をあげた。

 同時に、退いた魔族の男へと距離を詰めるべく一歩前へと足を踏み出そうとするが、その前にテミスが店主の腕を掴んで引き戻すと、苛立ちの籠った言葉を叩き付ける。


「こんのクソガキッ――」

「――ッ!! 止すんだ。お前、この方が誰か知らないのか?」


 店主の男は再び自分の邪魔をするテミスに堪忍袋の緒が切れたのか、魔族の男からテミスへと標的を変えて、怒りに表情を歪めて拳を振りかぶる。

 だがその瞬間。

 傍らに居た魔族の男が見かねたように振りかぶられた拳を押さえると、店主を睨み付けながら素早く問いかける。


「触るんじゃァねぇッ!! 知った事かよこんなクソガキッ!! 衛兵!! 衛兵はまだなのかオイッ!!」

「ククッ……。変な奴だな? お前にとっては、殴らせた方が楽だったろうに」

「ッ……! とんでもありません。このような些事にお手を煩わせてしまうだけでなく、手を上げさせるなど……」

「大した男だ。君のような男がまだこのファントに残ってくれていて私は嬉しいよ」

「チィッ!! いい加減に……しろってんだッ!!」

「あッ……!! 止めッ――!!!」


 けれど、激高した店主は魔族の男に捕まれた腕を振り回して振り解こうとするが、それを察して魔族の男が掴んだ手を離すと、勢い余ってよろめくように数歩後ずさる。

 その間に、肩を竦めたテミスが静かな微笑みを浮かべて魔族の男へと語り掛けると、魔族の男はかぶりを振って言葉を返した。

 だが、当事者であるはずなのに蚊帳の外へ放り出されたことが気に食わなかったのだろう。

 店主の男はよろめいて崩れた体勢をすぐに立て直すと、怒りの叫びと共に固く握り締めた拳をテミスへと向ける。

 その、テミスの正体を知っている者であれば無謀極まる蛮勇に、鋭く息を呑んだ魔族の男が声をあげかけるが……。


「ククッ……」


 バシィッ!! と。

 テミスは一歩たりともその場から動く事なく、店主の男の拳を掌で受け止めると、ニヤリと歪めた唇から不敵な笑い声を漏らした。

 そして。


「衛兵など要らんよ。なにせ、私は彼等を束ねる身だ。役どころとしては十分だろう」

「なッ……!?」

「はじめまして。私の名はテミス。一応、この町を取り仕切らせて貰っている者だ。よろしく」


 不敵に歪めた表情のまま、テミスは店主の男へと顔を向けると、斬り付けるように名を名乗ったのだった。

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