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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1220話 屍の意図

 ――あり得ない。

 物言わぬ骸と成り果て、自らの剣を伝って石畳の上へゆっくりと落ちていくマモルを見据えながら、テミスは胸の内でそう呟いた。

 言動やこれまで観測された異常性から鑑みても、マモルが転生者であることは間違いないはずだ。

 ならば、いくら先にサキュドと戦っていたとはいえ、たかがこの程度で斃れるとは考え難い。


「何だ……? 何が狙いだ……?」


 砂を噛みしめているかのような不快感に身を浸しながら、テミスは動かないマモルの骸に警戒を解かぬまま素早く思考を巡らせた。

 この男は昔から、のらりくらりと流れに任せて生きているようで、その裏で油断した相手を鋭く観察し、自らの糧とする事で強かに生き抜いてきた。

 そんな男が、このような所で己が命を容易く散らせるような真似をする筈が無い。


「狙いは別……? いや……本命(・・)は自分ではないッ!?」


 思えば、先程から傍らで戦っているはずのシズクとヴァイセの声も、二人が戦っている音すら聞こえては来ない。

 それが意味するところはつまり、既に戦闘が終わりを迎えているという事で。

 そして、仮にこのマモルが囮だとするのなら、敗北を喫しているのは……。


「しまッ……!!! シズクッ!! ヴァイセッ!!!」


 テミスは自らの頭の中で思考が繋がった途端、二人の名を叫びながら背後を振り返った。

 無事でいてくれだなんて贅沢な事は言わない。

 せめて、命さえ残っていれば……!!

 突如として身を灼いた焦燥の中でそう願うと、テミスは大剣にマモルを串刺しにしたままシズク達の元へと駆けるべく脚へと力を籠める。

 だが。


「ひゃいッ!? 急に大声で呼ばないで下さいよ……。びっくりしました」

「お疲れさまッス。拘束術式に捕らわれた時は少し焦りましたけど流石ですね。あとこの子、メチャクチャ腕利きじゃないですか!!! 俺があれだけ苦戦したヤツをこうスパスパ―ッ!! とッ!!」

「え……? いやぁ……それ程でも……。私なんてまだまだですから」

「…………」


 視線を向けた先では、テミスの声にビクリと身を縮ませたシズクと、その傍らでのんびりと頭の後ろで腕を組んだヴァイセが、丁度こちらへと歩み寄ってきている所で。

 その背後には、何やらこの世界の魔獣とも異なる化け物のような遺体が散乱していた。

 そして当の本人達は、テミスが危惧したように危険な状態などではなく、ヴァイセは所々に負傷が見えているものの、シズクに至っては傷一つ無い状態で、ヴァイセの手放しの勝算に緩んだ笑みすら浮かべている。


「えぇ……?」


 流石のテミスも、そんな様子を見せ付けられては自らの危惧が外れていたのだと認めざるを得ず、目を丸く見開いて丸々数秒硬直した後、困惑の声を漏らしながら再び自らの足元に屍を晒すマモルへと視線を向けた。

 マモル本人を倒し、ヴァイセが応戦していた連中も始末した。

 テミスは再びマモルの策を読み解くべく思考を巡らせるが、何より眼前に広がる事実を前に導き出されるのは、マモルの狙いを阻止し、その身を討ったという結論だけだった。


「……尤も、全てが元通りという訳にもいかないが」


 騒動は終わった。そう認識した途端に、突如として襲ってきた巨大な喪失感と虚無感に抗いながら、テミスはポツリと言葉を漏らす。

 元凶を討ち滅ぼしたとはいえ、マモルがこの町に与えた被害は凄まじい。

 自らが優位であると毒された住民たちの意識は、即刻正さなければならないし、そのせいで生じてしまった種族間の溝や亀裂の修復も急務だろう。

 むしろこれからやるべき仕事は山積み。

 だというのに、雑務を押し付ける事の出来る者は既に傍らには居らず、彼女の配下であった者達の処遇も頭を悩ますべき雑務の内に含まれているのだ。


「……ひとまず、コイツの死体は切り刻んで何処かで監視しなければな」


 ただ一人、ボロボロで壁に背を預けるサキュドに気付いたサキュドとヴァイセが、大慌てで手当をすべく駆け寄っていく様子を眺めながら、テミスは自らの大剣に引っ掛かったままのマモルの死体に意識を向ける。

 今でこそこうしてキッチリと死んでいるようだが、サキュド達からの報告を加味すると、ここから再び蘇ってくる可能性も否定できない。

 むしろ他の策が予測できない今、テミスには一度死んだと思わせて油断させた後に、再び暗躍を始める事こそが、マモルの狙いにも思えてきた。


「……妙だな。あれ程殺したいと憎んだ相手の筈なのに、今では生き返って欲しいとすら思ているよ」


 こんなはずではなかった。

 もっと苦しみと絶望を与え、己のしでかした罪の重さを魂の底まで刷り込んでから、後悔の底で殺してやろうと思っていたのに。

 その言葉とは裏腹に、テミスは酷く冷酷な声色で物言わぬマモルの屍へと語り掛けると、胸に突き立てた刃をぞぶりと抜いて、四肢を削ぎ落とすべくゆらりと切っ先を空へと向けた。


「駄目ッ……!! 待って!! テミスッ!!」

「……ッ!!!」


 蒼空を衝いた血の滴る漆黒の刃が振り下ろされる直前。

 もう響くはずの無い叫び声が空気を震わせると、テミスはビクリとその身体を震わせたのだった。

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