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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1219話 解せない幕引き

「クゥッ……!? こ……これはッ……!!」


 大剣を振り上げた格好のまま、突如として現れた黒い鎖に身体を絡めとられたまま驚愕に息を呑んだ。

 何故なら、この魔法は転生した者のみが使う事ができる能力に由来するものではなく、この世界において魔族・人間の両陣営に使われている一般的な魔法だったのだ。


「神罰の鎖。この魔法の事は勿論、君も知っているだろう?」

「貴様ッ……! この期に及んで舐めた真似をッ!!」

「別に舐めてなどいない。この世界の魔法は素晴らしい。用途に応じて体系化され、極めて効率的な魔力の運用を以て放たれる」

「当り……前だろうがッ!!」


 テミスは自らの身をギリギリと締め上げる鎖を一本、右腕を振り抜いて力任せに引き千切ると、次の一本を破壊すべく手をかけながら叫び返す。

 魔法とはもともと、主に魔力を潤沢に持つ魔族が扱う技術だった。

 だが長い戦いの歴史の中で人々はその技術を模倣し、魔力に乏しい自分達でも扱えるように改良を施したのだ。

 その技術を、膨大な魔力を持たされている我々転生者が扱えば、容易に力を振るう事ができるのは通理で。

 しかし、汎用性を求めた魔法では、転生者に与えられた能力を以て繰り出される魔法や技には一歩及ばず、テミスとて存在を知っては居たものの滅多に使う事は無かった代物だ。

 それをこの土壇場で出してくるとは……何か策でもあるのか……?

 全身に巻き付いた鎖を次々と破壊しながら、テミスは冷静にそう考え至ると、マモルの追撃に備えて慎重に身構えていた。

 だが……。


「フッ……!!」

「っ……?」


 一体どんな攻め手を繰り出してくるかと思えば、マモルが打った次の手はただ拘束されて隙の生まれたテミスへと斬りかかるばかりで。

 テミスは自らを拘束する鎖をも駆使してその攻撃を捌いた後、自由となった右脚で腹を蹴り抜いてマモルを吹き飛ばした。


「どういうつもりだ? 何故傷も治さない」

「ガハッ……ゴホッ!! やれやれ……流石に片腕では厳しいか……」

「…………」


 しかし、マモルはテミスの問いを無視して激しく咳き込みながらも立ち上がると、不敵な笑みを浮かべてゆっくりと立ち上がって剣を構える。

 そんなマモルの様子に、テミスは静かに眉を顰めると、残った鎖を全て大剣で斬り払った。


「――ッ!?」


 その瞬間。

 マモルはテミスの顔面に目掛けて小さな火球を放つが、やすやすと反応したテミスは、剣で弾く事こそできなかったものの顔を反らして不意打ちを躱す。

 その攻防は、どう考えても異常だった。

 これまで、どのような手段でその身を害されても、まるで不死であるかのように平然と復活してきたこの男が、今や満身創痍で脆弱な魔法を放っている。

 先程のサキュドの一撃で、全霊を使い果たしていたといえば理屈は通る。

 けれど、マモルとて転生者の端くれだ。まだ何かしらの能力(チカラ)を隠し持っていても不思議ではない。


「どうも……釈然とせんな……」


 自らの力で敵の思惑を打ち砕き、下した訳では無いからなのだろう。

 テミスはもやもやと蟠る内心を呟きながら、大剣を構え直してマモルへと向き直った。

 それでも、この男を許してやる理由など一片たりとも存在しないし、この場から逃がすつもりも毛頭ない。

 だが、一つ心残りがあるとするのならば。

 何故マモルが、ことここに及んで驚異的な回復力を失い、転生者たる力を振るってこないのかが分からない事だが……。


「私の下らん我儘で、部下の功績を蔑ろにするほど愚かではないさ」


 そう呟いてテミスはクスリと笑みを零した後、構えた剣の切っ先を油断なくマモルへと向けて攻撃の姿勢を取った。

 たとえ何があろうと関係あるまい。

 私は全力を尽くしてこの男を殺す。それが、この手で討ったフリーディアへの餞でもあり、悪逆を払うと決めた私のやるべき事だ。


「終ぞ卑劣な男だったな。留守を狙って忍び込み、背後から斬りかかってみたり、果てには何の関係も無い町の者達にまで狙いを付ける。見下げ果てた外道め」

「フッ……否定はしないさ。俺としてもこれは最後の手段だったのだけれどね……。それ程の力を持ちながら何故解らない? 君の道は間違っていると」

「知った事か。少なくとも私にとって、この町を穢し、フリーディアを殺させたお前を殺す事が間違いとは思えんよ」


 眉間に皺を寄せて吐き捨てるようにそう告げるテミスに、マモルはそれでも不敵な笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。

 だが、テミスは最後の問いにすら聞く耳を持たず、鋭く地面を蹴って構えた大剣で深々とマモルの胸を刺し貫いた。

 ボロボロに傷付いたマモルが、その閃光の如き迅さを誇るテミスの一撃に反応できるはずも無く。

 マモルの手から零れ落ちた剣が石畳を打って、カランと甲高い音を奏でる。


「ご……ふッ……!! フ……フ……青い、ねぇ……」


 しかし、マモルはごぼりと口から血を吐き出しながらも静かに微笑んだまま、苦し気にそう言葉を残して崩れ落ちたのだった。

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