表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1259/2314

1217話 白銀色の誇り

「っ……!!!」


 灼けた鉄を押し当てられたかのような鋭い痛みが駆け巡り、サキュドは己が斬られたことを知覚する。

 背後へと跳んだはずの身体は空中で仰け反るように体勢を崩し、吹き出る血潮と共に宙を舞った。

 それでも尚。ごぷり……と。口の中を満たす血の味にサキュドは固く歯を食いしばると、空中で身を翻して体勢を立て直した。

 だが、自らの身体から噴き出た血飛沫を浴びた身体は、その手に握り締める紅槍の如く真っ赤に染まっており、呼吸と共に深く上下する肩が、彼女に余力など残されていない事を声高に触れ回っていた。


「無駄な抵抗だ」

「ク……フフッ……!! どう……かしらね……ッ!?」

「時間稼ぎに付き合う気は無い」

「そう……なら、せいぜい足掻いてやるわッ!!」


 淡々と紡がれるマモルの声と共に襲い来る斬撃を、サキュドはその顔に狂笑を張り付けながら紅槍で捌く。

 しかし、傷を負った身体でマモルの斬撃を完璧にいなす事は叶わず、急所を逸れた斬撃が一太刀、また一太刀とサキュドの身を切り刻んだ。


「ッ……!! ゼェッ……ハァッ……!!」

「…………」


 それは、防戦と呼ぶ事すら憚られる程に一方的な攻防で。

 致命傷を辛うじて逸らし続けるサキュドに、マモルはひたすら無感情な刃を浴びせ続けた。

 結果。サキュドの身体は数分と経たず傷に包まれ、その身に纏う服すら、自らから溢れ出た血で紅に染まっている。

 最早勝敗は決している。だというのに、サキュドの瞳は死に体の身体とは裏腹にギラギラと獰猛に輝き続けており、決め(・・)の一撃を逸らされ続けるマモルが遂に攻め手を止めた。


「どう……したのかしら? アタシはまだ……生きてるわよ……?」

「随分としぶとい。そう思っただけさ」

「それはどうも。生憎……アタシ達……はこの程度で諦める程……ヤワじゃないわ……」

「そうか」


 ギャリィッ!! バヂィッ!! と。

 不敵な微笑みを浮かべながらも、サキュドの紡ぐ言葉は徐々にうわ言のような弱々しい呟きへと変化していき、その身に受ける傷も一撃、また一撃と次第に深くなっていく。

 遂には、縋るように携えている紅槍すら形が歪み、辛うじて堪えていた身体がグラリと大きく傾いだ時。


「サキュドッ!!! クソッ……!! くそォォォォッ!!! 離せェッ!!!」


 サキュドとマモルの戦いへと強引に切り込もうとしたヴァイセが、酷く傷付いた異形の兵たちに身体を絡め捕られながら慟哭をあげた。


「このアタシの名を呼び捨てにするなんて……生意気……なのよ……!! 人間ッ……!!」


 しかし、幾ら気合を入れて叫びを上げようとも、ヴァイセの異形の兵士が捕えたヴァイセの身体を離す事は無く、その間にも鋭く閃くマモルの刃が、サキュドの心臓へと寸分違わず振り下ろされる。

 もう逃れる事も、防ぐ事も叶わない。

 そう理解して尚、サキュドの顔は不敵な笑みに彩られており、手にした紅槍も消えかけてはいるものの、彼女の潰える事の無い闘志を示すかの如くその手の中に留まり続けていた。

 そして、振り下ろされたマモルの刃の先がサキュドの胸を貫く刹那。


「ォ……ォオオオオッッッ!!!」


 力強い雄叫びと共に、紅に満ちた戦場を切り裂くように駆け抜けた一陣の暴風が、剣を振り下ろしたマモルをその身体ごと薙いでいく。

 直後。真っ赤に染まったサキュドの視界には、フワリと宙を舞う白銀の髪がキラキラと瞬いており。

 それを視界に収めた途端、不敵に歪められていたサキュドの唇が、静かに歓喜の笑みへと塗り替えられた。


「テ……ミス……さま……」

「サキュド! ヴァイセ! 良く持ち堪えてくれたッ!! シズクッ! あちらは任せるッ!!」

「了解ですッ!!」


 宙を舞う白銀の髪とその背を見守るサキュドの前で、テミスは随伴するシズクへと凛とした声で指示を送る。

 そんな、頼もしさに溢れる背に守られながら、サキュドは薄らいでいく意識を必死で繋ぎ止めると、安堵を覚える自分に口惜しさと不甲斐なさを覚えながら口を開く。


「申し訳……ありま……せん……」


 出来る事なら、この手で斃したかった。

 見るも悍ましき異形の兵の存在を、知られる事無く屠りたかった。

 けれど、サキュドの胸を満たす悔しさや不甲斐なさの内側には確かに、守るべきものを守り通したという誇らしさが在ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ