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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1212話 歪な守護者たち

「ォオッ……!!!」


 ズガン! と。

 高々と振りかぶられた刃が空を裂き、くすんだ石畳が粉々に砕け散る。

 いつもは穏やかな朝の静寂と平穏に包まれたマーサの宿屋の前は、一転して血煙と火花の舞い散る戦場と化していた。


「アハッ……ハハハッ!! すごい……すごいや!! 君たち、冒険者将校でもないただの人間だろう? なのにこんなに強いなんて……ッ!!」

「ちょっと!! 遊んでいないでサッサと片付けなさいッ!! クッ――!? 鬱陶しいわね……!! このッ!!」

「フフフ……! ごめんごめん。こんなの久しぶりに見たから、つい昂っちゃってさ。本当は駄目だって解っているんだけれど……」


 近くでマモルとサキュドが切り結んでいるにも関わらず、ヴァイセは恍惚の笑みを浮かべて腕を振るうと、自らに襲い掛かってきた兵の腕を二つに割いた。

 だというのに。己が身に耐え難い痛みが襲っているはずの兵は悲鳴一つ上げる事は無く、即座に無事な逆の手に魔法陣を輝かせてヴァイセへと狙いを付ける。

 だが、そんな自らの身すらも顧みぬ反撃でさえも、ヴァイセは苛立ちの籠った叫びと共に紅槍を振るうサキュドに無邪気な笑みを浮かべて言葉を返しながら、放たれた炎の弾を切り裂いて無へと還す。


「……すごいよねぇ。ここまで来るとボクも流石に引いちゃうよ。一応人の形をしてはいるけれど、とても人間には見えないなぁ」

「だったらッ!! 遊んでないでッ!! 役目を果たせッ!! なんで救援に来た私が本命(マモル)なのよッ!!」

「えぇ……? だって、サキュドさんの方がボクより強いじゃないですか。それに、強者との戦いにも餓えていたでしょう?」


 悉く自らの放つ攻撃を防がれた兵は、ヴァイセに裂かれた腕から大量の血を流しながら退くと、懐から何かを取り出して傷付いた腕の肩口へと突き立てた。

 その瞬間。なますに裂かれた腕はボコボコと異形に膨れ上がり、醜く脈動しながら二本の腕らしきものへと形を変える。

 一方で、サキュドはマモルの操る二振りの剣を器用に一本の槍で捌きながら、息を切らせてヴァイセを怒鳴りつけた。


「ハッ……ハッ……クッ……!!」


 流れるように繰り出される連撃をマモルの身体ごと弾き飛ばした後、サキュドは再び槍を構えながら慎重にその出方を窺った。

 流石に、テミス様と互角に斬り合っていただけの腕前だけあって、かなり巧い戦い方をしてくるし、一撃の重さや迅さもただのそこいらの魔族とは段違いだ。

 唯一の救いといえば、冒険者将校の連中が操る予測不能で多彩な技を未だ繰り出してこない事。

 そのお陰で、背後に軒を構えるマーサの宿を庇いながらでも、守り阻むだけならば戦況を拮抗させられている。


「フム……」

「ッ……!!!」


 この調子なら、まだ幾分かの時間を稼ぐ事はできるだろう。

 飄々と答えるヴァイセに苛立ちを覚えながらも、一息をついたサキュドが眼前のマモルへと意識を集中させていた時の事だった。

 それまで、感情が欠落したかのように不気味な無表情で相対していたマモルの視線が一瞬だけサキュドから外れ、背後の店へと動いたのだ。

 同時に、微かに空気を震わせた吐息の音。

 すんでの所でマモルの狙いが自らから外れ、己が背に守る店へと移動したことを察知したサキュドは、咄嗟に守りの構えを解いて紅槍を振るう。


「このッ……!!」

「フ……」

「しまッ――!?」


 その直後、雷光の如き迅さで閃いたマモルの手から放たれた剣が鋭く宙を舞い、サキュドの頭上を飛び越えて店の窓を狙うが、咄嗟に振るわれた紅槍によって弾き飛ばされ、甲高い音と共に石畳へと落ちる。

 だがその代償は非常に大きく、高々と槍を振り上げる形で薙いだ後のサキュドは、致命的な隙をマモルへと晒す事になってしまった。

 無論、それを狙って剣を投擲したマモルが、大き過ぎるサキュドの隙を逃す筈もなく。

 口角を歪めただけの不気味な笑みを浮かべ、サキュドへと肉薄して残った剣を鋭く振り下ろす。

 しかし。


「――ッ!?」

「おっとっと……危ない危ない。っていうか、普通そこまでします? やってる事、完全に悪党のそれなんだけど?」


 マモルの振るった剣がサキュドに突き立てられるよりも早く、緊張感に欠けたヴァイセの声と共に傍らから放たれた風の刃がマモルを襲った。

 不意打ちに不意打ちを重ねる形で放たれた一撃だったが、マモルは身体を捻ってサキュドへと向けていた剣で宙を薙ぐと、風の刃を斬り払って再び後ろへと跳躍する。


「…………」


 しかし、マモルは終始軽い調子で重ねられているヴァイセの言葉を黙殺すると、新たな剣を一振り背中から取り出して、異形と化した兵達と共に再び二刀を構えたのだった。

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