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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1210話 静かな世界

 テミスたちが隠れ家へと姿をくらました後、ファントの町を激震が駆け巡り、同時に混乱が巻き起こった。

 曰く。テミスと共にこの町を導いてきた、白翼の騎士・フリーディアが死んだ。と。

 曰く。その身を両断されたフリーディアの傷は凄惨で、人魔の融和を願ったこの町を壊した彼女へのテミスの怒りだ。と。

 曰く。あの気高く強き騎士であるフリーディアが死ぬはずがない。全てはこの町を侵さんとする者の策謀である。と。

 噂が噂を呼び、数え切れぬ程さまざまな説がそこかしこで囁かれる中。

 ファントの町の衛兵や詰所に身を寄せる騎士達が懸命に町の中を駆け回り、噂に名の挙がったフリーディア・テミス両名を探したが、終ぞその姿を捉える者は居なかった。

 そして動乱の夜は明け、再び昇った陽の光がさんさんとファントの町を照らし始めた頃。


「フゥム……」


 フィーンの用意した隠れ家の一室で、テミスは窓から注ぐ陽の光に目を細めながら深く息を吐いた。

 死なない敵を殺す術。まるでとんちでも与えられたかのような問題は、たとえ一晩考え抜いた所で有効な策など考え付くはずも無かった。


「奇襲も駄目、毒も駄目。加えて傷も治すときた。魔法で焼き殺したとて意味はあるまい」


 ぐったりとその背を壁へと持たれかけさせたまま、テミスはうんざりとした表情で呟きを漏らすと、差し込んだ陽で温められている床へと手を伸ばした。

 そもそも、あの女神を自称する存在から与えられた力に常識など通ずるはずも無いのだ。

 いつぞや斃したカズトのように、聖剣を創り出すというわかりやすい力から、ケンシンのように街一つを覆う空間を自在に知り、操ることのできるなんていう規格外の代物まで存在する。

 ならば、マモルの得た力が不老不死を得る類の力であったのなら、最早どうする事もできないだろう。


「いっその事、全身をバラバラになるまで切り刻んでみるか……?」


 最早万策が尽きた。半ば破れかぶれとなったテミスに捻り出す事の出来る案といえば、物語の中で不死の存在を斃す際によく試され、そして悉く失敗しているような単純極まるものばかりで。

 仮に不死の存在なのだとすれば、その肉体がミンチ肉のようになるまで切り刻んだところで、平然とした顔で復活してくるだろう。

 もしくは、肉体すら仮の器でしかなく、新たな身体で蘇っているのかもしれない。


「……駄目だな。候補が多過ぎる」


 そのまま、テミスはズリズリと壁に背を擦りながら床へと倒れ伏すと、傍らに投げ出していた己の大剣を引き寄せた。

 ただ死なないというだけでは、対策など練れるはずがない。結局の所実戦の中で、私にできる事を一つづつ試していくしかないのだ。

 そんな事は理解していた。だが、マモルの動向を探るために余儀なくされた空白の時間は耐え難く、何もしないでいると、すぐにあの時の絶望が戻ってくる。


「チッ……」


 フリーディアはもういない。

 舌打ちと共に寝返りを打ってその身を陽だまりに置くと、テミスは這い寄ってきた思考に思いを巡らせる。

 決して間違えないと豪語していたくせに。互いに歩む道は違えど、目指す方向は同じだからと。

 私と、私が斃す者を護り、奴が取り零した者を私が救う……そんな世迷言と共に鬱陶しく付きまとってきたフリーディアの居ない世界は、酷く静かだった。


「……テミス様」

「…………」

「テミス様、コーヒーが淹りました」

「マグヌス。入って良いなどと言った覚えはないぞ?」

「申し訳ありません。ですが、戻られてから何も口にされていないではありませんか。せめて、このマグヌスが淹れたコーヒーだけでもお飲みいただければ……と」


 しんと静まり返った部屋に、芳ばしいコーヒーの香りを漂わせながらマグヌスの静かな声が響いた後、カップを置くコトリと軽い音が鳴る。

 しかし、重く沈んだ気配に捕らわれたテミスは体を起こす気力すら沸かず、床の上に寝転がったまま微動だにしなかった。


「ご安心ください。豆も器も、このマグヌスが全て用意いたしました。それに……。ッ……彼等も相当の衝撃を受けては居りましたが、テミス様を憎み害そうと企む気力のある者など居りませんッ!!」

「…………。なぁ、マグヌス」

「ハッ……!!」

「静かな世界というのは、退屈だな……」


 息を詰まらせ、心を痛ませながら言葉を紡ぐマグヌスに、テミスは床の上に体を横たえたまま、気怠そうにそう漏らしたのだった。

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