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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1209話 不穏な味方

 そこには、深い憎しみがあった。

 天真爛漫に笑うその顔を醜く歪め、鋭く吊り上がった眼には禍々しく昏い光が宿っている。

 叶うのならば。彼女は今すぐにでも剣を振るって私を切り裂き、槍を突き放って刺し貫きたい……そんな欲望にも似た恨みが、こうして向かい合っただけでもひしひしと伝わってくる。


「だから何だ? とてもじゃないが、お前のそれは協力者の目ではない」

「……で、しょうね。フリーディア様を斬った貴女を許せません。未来永劫怨み、呪い続けさえします。ですが、それはあくまでも私個人の感情。フリーディア様の最期の願いを果たす為には関係の無い事です」

「フン……大したものだ」


 言葉の端々から憎しみを迸らせながらも、フィーンはしっかりとテミスを見据えて言葉を交わした。

 その胆力と、激情に呑まれる事の無い意志の強さに、テミスは素直な関心を言葉にして零す。


「ですから、お聞きしたいのです。このままフリーディア様を置いて行かれるのですか? 最期まで貴女を想っていたあの方を、こんな冷たく固い路傍の上へと打ち棄ててッ!!」

「…………」


 滾る憎しみの隙間から悲しみを覗かせてフィーンが叫ぶと、テミスは僅かにピクリと肩を揺らし、視線を遠くに横たわるフリーディアの亡骸へと向ける。

 たとえその身に罪があれど、あれ(・・)が親しい友のような存在であったことに変わりはない。

 彼女の亡骸を持ち帰れば、この先マモルから離反したカルヴァス達白翼の騎士達を焚きつける為の材料にもなり得るだろう。

 そしてテミス個人としても、ただの街中に……友の遺体を放置していくのは本意ではない。

 仲間達の元へと連れ帰り、手厚く葬ってやるのが人情だろう。

 だが……それでは意味が無い。

 あえてこの場に亡骸を晒し、多くの兵の目、人の目にフリーディアの骸を触れさせることで、彼女が死んだことを周知する。

 我々がそれを隠してしまっては、マモルが担いだフリーディアという神輿を叩き潰す事はできないだろう。

 故に。


「あぁ、置いていく。姿を晒し、騒ぎを起こしたのだ。そのうえ死体を担いで姿をくらます余裕は、今の私達には無い」

「――ッ!!! 軽蔑します。見下げ果てました」

「好きにしろ」


 不敵に歪めた頬をテミスは微かに引き攣らせながら、辛うじてフィーンへと言葉を返す。

 本当に後々の事を考えるのならば、フィーンに対しては彼女にとってわかりやすい悪として振舞ってやるのが得策なのだろう。

 しかし、テミスといえど自らの手で斬った友の死を穢す気にも、嗤う気にもなれなかった。


「えぇ。ではヴァイセさんを待ってから――」

「――いや、奴は放っておいていい。上手くやるだろう」

「…………わかりました」


 怒りと憎しみを深く飲み込んだフィーンは、刺すようなまなざしでテミスを睨みながら言葉を続ける。

 だが、テミスはその提案すらも却下すると、再びその身を翻してゆっくりと歩きはじめた。

 店を出てから結構な時間が経っている。

 それでも尚、あの店から出て来ないという事は、奴は奴なりの考えがあって動いているのだろう。

 ヴァイセは命の危機を乗り越えてまで、遠く離れたギルファーまでこの町の異変を伝えに来た男だ。ある程度の意志を汲み取ってやる程度には信を置ける。


「…………」

「次の路地を左、三本目を右に向かいましょう。この時間なら、繁華街を通り抜けるよりも早く郊外へと出る事ができます」

「……あぁ」


 歩き始めたテミスを追い抜いて、駆け出したフィーンが冷たい声でそう告げると、テミスは強烈に後ろ髪を引かれる思いを押し殺して、数秒遅れてその背へと続く。

 そんな二人の数歩後ろを駆けながら、違和感を覚えたシズクは数度周囲を見渡した後、その正体に気が付いて声を上げた。


「あ、あのッ!!」

「どうした?」

「なんです?」

「い、いえっ……!! その……サキュドさんは……」


 同時に返ってきた二人の緊迫した声に、シズクは果てしない緊張感を覚えたものの、気付いてしまった違和感をおずおずと言葉にした。

 気が付けばいつからか、共に居たはずのサキュドは姿を消しており、テミスもフィーンもまるでそれが当たり前であるかのように受け入れている。

 シズクはそれが不思議でたまらなかったのだが……。


「奴なら上だ。我々の中で唯一飛べるからな。あまり大所帯で町を駆け回る訳にも行くまい」

「別に……私個人としてはこのまま居なくなってくれても良いんですがね」

「な……なるほど……」


 腹心の部下に信頼を置くテミスの答えと、胸の内に飲み込んだ憎しみを隠そうともしないフィーンの答えに、シズクはキリキリと胃が痛み始めるのを感じながら、力無く笑みを浮かべたのだった。

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