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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1206話 孤高なる背中

 舞い上がる金色の髪に混じる鮮やかな血飛沫。苦し気に身を反らし宙を舞う華奢な身体。

 その場にいた全員が、世界の時がゆっくりと動いているかのように錯覚する。

 それ程までに、眼前で起こった出来事は衝撃的で。

 大剣を振り抜いたままのテミスを含め、誰もが身動き一つする事無く、必殺の一撃をその身に受けたフリーディアの姿を凝視していた。

 そして……。


「…………」


 ドサリ。と。

 放たれた斬撃の有する強大なエネルギーに巻き上げられたフリーディアの肉体が地面に墜ちる音が鳴り響くと同時に、一同を縛り付けていた呪縛が打ち砕かれる。

 遅く緩やかな時間は終わりを告げ、石畳の上を急速に広がっていく血だまりが、何よりも雄弁にそれを物語っていた。


「フリーディア様ァァッッッッ!!!!」


 直後。

 張り裂けるようなフィーンの絶叫が響き渡り、それを皮切りに固唾を飲んで事態を見守っていた者達が動き始める。

 真っ先に金切り声をあげたフィーンは、己が身を溢れ出た血が汚す事を厭わず、力無く四肢を投げ出して横たわるフリーディアの傍らに膝を付き、その小さな両手では覆い切れぬ傷を押さえている。


「あ……ぁぁ……なんで……ッ!!! 嫌……嘘……フリーディア様ッ!! フリーディア様ぁッ!!」


 無論。フィーンが幾らその両手を血に染めた所で、深々と傷付けられたフリーディアの身体から流れ出る血が留まる事は無い。

 それでも、フィーンは泣き叫びながらも懸命にその命を繋ぐため、溢れる血を必死でフリーディアの身体の中へ戻そうと藻掻く。


「ぇ……ぁ……」

「な……ん……」


 一方で、フリーディアの旗下であるはずの白翼騎士団の騎士達は、まるで何が起こったのか理解できないと言った様子で放心し、ただその場でうわ言のような呟きを漏らしている。

 その傍らで、シズクは眼前の悲痛な光景を苦し気な表情で暫くの間見守った後、固く歯を食いしばってその視線をテミスへと向けた。


「ッ~~……!!!」


 そこでは、フリーディアを斬った大剣で一度宙を薙いだテミスが、ちょうどその背に大剣を納めている所で。

 テミスを信じて力を貸したフィーンの想いを裏切り、仕えるべき主の元を離れてまでテミスの元へと参じたカルヴァスたち白翼騎士団の者達の忠義を踏み躙り、あまりにも悲惨な結末を選んだ元凶(テミス)へ文句の一つでも言ってやろう。

 失望しました。テミスさんがそんな人だったなんてッ!! 許せませんッ!!

 つい今の今まで、シズクは眼前の光景に義心を燃やし、不敵な笑みを浮かべているであろうテミスに怒りをぶつけてやるつもりだった。

 なのに。


「えっ……?」


 愉悦に満ちていると思っていたその紅い瞳は、何かを堪えるかのように細められており、皮肉気に吊り上げられていると思っていた唇は、耐え難い苦しみに苛まれているかのように固く食いしばられていた。

 それに何よりも。

 フワリと白銀の髪を宙に舞わせて身を翻し、斃れたフリーディアに縋るフィーンへと背を向けたテミスの口が確かに。

 ――大馬鹿がッ!!!

 と慟哭を紡いでいて。

 微塵たりともその想いを他者に見せる事無く、声にすら出さないその絶叫を目にしたシズクは、先刻まで己が胸に抱いていた義心など跡形も無く消し飛んでいた。

 代わりにシズクの心を満たしたのは、テミスが僅かに零した自分には想像すらつかない程の悲壮な覚悟への敬意と、どうしようもないほどに溢れてくる深い悲しみだった。

 そしてすぐに、一度は信じて自らの命よりも大切なものを託した相手(テミス)を責めた恥と後悔が押し寄せてくる。


「ッ……!!! テミス……さんッッッ……!!!」

「……っ!」


 だが、そんな些末な感情に追い付かれる前に。

 シズクは弾けるように飛び出すと、静かに歩きだしたテミスの背に縋り付いて掠れた声でその名を呼んだ。

 何故、そんな事をしたのかは分からない。

 けれど、刹那の苦しみを垣間見たシズクには、そうしなければテミスが消え失せてしまうような気がして。

 だからこそ。その暖かく柔らかな背に顔を埋めたまま、シズクは小さな声で言葉を続ける。


「私はッ……ずっと……付いて行きますからッ!!!」

「…………」


 しかし、心の底から紡いだシズクの思いにテミスが言葉を返す事は無かった。ただ、前へと踏み出されたテミスの足は確かに止まっていて。

 その背中からわずかに伝わってくるドクドクと脈打つテミスの脈動を感じながら、シズクは微かに震えるテミスの身体を繋ぎ止めるかのように強く抱きしめたのだった。

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