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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1205話 彼方の約束

 膝を折り、差し出された頭へとこの剣を振り下ろす時、眼前に在るのはいつも掛け値なしの絶望だった。

 それもその筈。テミスが打ち首が如くその命を刈り取る時には、その者は希望を、尊厳を、誇りを……生きる活力たる柱を降り砕かれ、後は死を待つだけの身なのだから。

 しかし今回は、視界に映る全てが絶望では無かった。


「ッ――!?」


 鋭い大剣の刃を振り下す刹那。

 視界の端に閃いたのはキラリと光る一筋の金色だった。

 直後。大剣を握るテミスの手を襲ったのは、まるで剣を打ち合わせたかの如くビリビリと痺れるような衝撃で。

 不意に襲い掛かってきたその衝撃に、テミスの放ったキールの首へと狙いをつけた斬撃は大きく逸れ、ごぃんと鈍い音を立てて石畳を打ち付ける。


「フッ……」


 だが、己が剣を阻まれたというのに、テミスは不敵な笑みを零して視線をあげる。

 そこには、身体中に巻かれた痛々しい包帯を夜風になびかせながら、病衣を纏ったフリーディアが苦し気な表情を浮かべて剣を構えていた。

 そんなフリーディアへと視線を向けると、テミスは不思議と零れた笑みを浮かべたまま口を開く。


「そんな身体で何をしに来た? 偶然とはいえ一度拾ったその命、無為に棄てるのは感心しないがな」

「ッ……! 無駄じゃ……ないわよッ……!!」


 不敵に、そして皮肉気にそう告げるテミスに対し、フリーディアは鋭い瞳で睨み付けながら、荒い息と共に言葉を返した。

 しかし、フリーディアがテミスの一撃をその身に受けたのはつい先ほどの事で。

 いくらこの町の医術が優れているとはいっても、死に体の人間を僅かな時間で全快させる事などできる筈がない。

 つまり、今にも倒れそうな程にフリーディアが左右へと体を傾がせているのは、決してテミスの隙を作るための演技などではなく、息も絶え絶えの満身創痍である事は確実なのだ。

 だけど……。


「あぁ……そうだろうな。そうでなくてはお前ではない」


 テミスは地面へと打ち付けた大剣を再び肩に担ぐと、真正面からフリーディアへと向き合って答えた。


「……なんだかテミスさん、嬉しそうです」

「やはは……そうでしょうそうでしょう。盟友にして好敵手……喪ったと思っていた相棒と再会できたのですから。まぁ……まさかあんな状態で抜け出してくるとは思いませんでしたが……」


 その様子を遠巻きに眺めながら、先程までの緊迫した状況に固唾を飲んで見守っていたシズクとフィーンの間にも、どこかほっとしたような弛緩した空気が流れ始める。

 それはまるで、一度は殺し合った二人が再び相対しても、決してまた刃を交える事が無いと確信しているかのようで。

 一方で、テミスを深く知らない残りの騎士達は、突如として姿を現したフリーディアに狼狽えながらも、自分達と彼女の間に立つテミスの存在に怯えて立ち竦んでいた。


「それで? 私は何をしに来たのかと訊いたんだ。傷付いたその身で這い出して来て尚、お前は何を求める?」

「決まって……いるじゃない……!! 貴女を止めに来たのよ……ッ!!」

「不可能だな。立つのすらやっとのその身体で、私に一太刀でも入れられると?」

「わかってるわよ。そんな事。でも……こんな私にもまだ、使い道はあるわ」

「ッ……」


 悠然とした態度で応ずるテミスに対し、フリーディアは疲労と消耗の滲んだ顔に不敵な笑みを浮かべると、手にしていた剣を棄ててテミスの前へと歩み出る。

 ゆっくりとしたその歩みは、身体に負った怪我の所為で覚束ないながらも、彼女の意志を示すかのように淀みが無く。フリーディアはそのままテミスから僅か数歩の距離まで歩み寄ると、空手となった両腕を軽く広げて言葉を続けた。


「全ては私の失態よ。罪があるというのなら、貴女の留守を守れなかった私だけにある筈」

「なっ……!!?」

「へッ……? フ……フリーディア様ッ!?」

「…………」

「斬るのなら、私だけにして頂戴。そしてお願い……どうか貴女の力で皆を……この町を救って……ッ!!」


 突如として告げられたフリーディアの宣言に、その場に居た表情を変えないまま沈黙を保ったテミス以外の者が驚愕を露わにする。

 何故ならその抗う事無く受け入れるというフリーディアの宣言は、満身創痍な彼女の身で戦うよりも無謀な事で。

 それを理解しているが故に、誰もが強烈な危機感と共にその事実を誰よりも知っているはずのフリーディアの選択に驚愕していた。


「……どうやら、反吐にも劣る戯れ言を囀らん所を見ると、完全に我を取り戻したらしいな」

「えぇ……貴女の剣で死にかけて、イルンジュ先生の所へ担ぎ込まれたお陰かしら。あなたが悪を斬り、私が悪に脅かされる人々を守る。でしょう?」

「フン……良い覚悟だ。ならば望み通りこの手で殺してやろうッ!!」


 そんな、慌てふためくフィーン達を置いて、向き合ったテミスとフリーディアは互いに不敵な笑みを浮かべて言葉を交わす。

 そして、浮かべた笑みをニヤリと深めたテミスは、間近にまで近付いたフリーディアから数歩後ずさって大剣を振り上げると、フリーディアへ向けてその刀身に強大な力を纏わせた無慈悲な一撃を放ったのだった。

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