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110話 水油の共闘

「さてと……ではまず、状況を確認しようか」


 しばらく無言の時間が続いた後、副隊長の男がポンと手を叩いて話を纏めた。テミスにとってはこの上なく助かる話だが、何はともあれ一つだけ聞いておかねばならないことがある。


「オイ……」

「副隊長! 本気ですか!? コイツと手を組むなんて……」

「お前でも解っているだろう、リック。我等は今や手詰まりに近い……フリーディア様を救う為なら私は、たとえ悪魔とだって手を組むぞ」

「カルヴァス副隊長……」

「オイッ!」


 何やら身内の空気を醸し出している二人を眺めながら、テミスは半眼でその空気に斬り込んだ。悲劇や喜劇に浸るのは勝手だが、私に関係の無い所でやって欲しいものだ。


「っ……失礼。何か?」

「お前の名だよ。奇しくもたった今、そこのミュルク卿が教えてくれたが……騎士たる者、共闘するのであれば名くらい名乗るのが筋かと思うがな」

「っ! これは……大変な失礼を……我が名はカルヴァス・フォン・キルギス。キルギス家の長子にして白翼騎士団にて副隊長を務めております」


 弾かれたように姿勢を正すと、カルヴァスは綺麗な敬礼と共に名乗りを上げた。しかし、『フォン』と言う事はどうやらこいつも名家の出らしい。


「……魔王軍第十三独立遊撃軍団軍団長、テミスだ。……こちらではリヴィアと名乗っているがな」

「この度の助力は感謝する……全ての確執を捨てて、という訳にはいかないが、共闘する仲間として現状を共有いただきたい」

「私は先ほどからそのつもりなのだがな……」


 テミスがそう呟くと、カルヴァスは慌てたように頷いて彼等のおかれた状況を語り始めた。なるほど、堅物だと思ってはいたが……コイツもマグヌスと同じタイプか。


「……という経緯を経まして、今に至ります。我等には知らされてはおりませんが、監視の目が付いているのは間違いないでしょう」

「なるほどな……それにしても、帰還の直後を狙って捕縛とは……お前達の上は馬鹿しか居ないのか?」

「っ……それに関しては、返す言葉もありません……」


 普通に考えれば、例え法を犯した者であったとしても、戦場で傷付いて帰ってきたのならば治療が最優先のはずだ。身柄を確保するために衛兵が付くのは解るが、即座に捕縛・連行では傷が元で罰の執行にすら支障をきたす可能性がある。


「それで? フリーディアが囚われている場所はわかっているのか?」

「ええ。我々騎士団の詰め所の外れ、第三監獄棟に収監されている筈です」

「チッ……貴族区画か。入り込むのも一苦労だな……」

「っ! 何処でそれを……?」


 テミスが忌々し気に舌打ちをすると、カルヴァスはピクリと肩を震わせた。よもやこいつは、私がロンヴァルディアに来てから何もせずに遊んでいたとでも言いたいのだろうか?


「……私も、この町に来てから色々と駆けずり回ったのでな」

「いやっ……それは知っている。だがまさか、貴族区画にまで手を出しているとは思わなかったのだ」

「ククッ……手を出すも何も、わかったのは私では目立ちすぎて入り込むのは危険と言う事くらいだがな」


 テミスはそう言って喉を鳴らすと、不敵な笑みを浮かべてカルヴァスを見つめた。実際、あの区画に一般市民はほとんど居らず、ほとんどが軍服や甲冑に身を包んだ連中か、見るからに高級そうな服や装身具を身に着けた王族貴族しか見当たらなかった。そんな中に外套姿で紛れ込めば、即座に衛兵に囚われるだろう。


「……まぁいい。囚われている場所がわかったのならばやりようは幾らでもあるさ」

「馬鹿なッ! まさか……突入するつもりか? 無茶だ! それにそんな事をしてはフリーディア様が追われるだけではないか!」


 テミスが壁に背を預けて目を瞑ると、ミュルクが声を上げた。確かに言い分に筋は通っているが、やはり青いと言うかなんと言うか……。一度に複数の事を達成しようとして手詰まりになる典型だ。


「まずはフリーディアの身の安全が最優先だ。いつ処刑されるかもわからん、いつ奴の心が折れるかわからん状態で、のんびりと無実を証明している暇はない」

「っ……だがっ!」

「いや……ウム。確かに正しい。我々は監視の目がある故動けないが、彼女ならばまずフリーディア様を救い出すのも手だ」


 カルヴァスは反発するミュルクを宥めると、テミスの言葉を吟味するようにゆっくりと頷いた。彼等としても、一刻も早くフリーディアを救い出したいのだろう。


「しかし……先ほども言ったが我等は動けない。そして、第三監獄は我等を警戒してか警備が厚くなっている。いくら貴女と言えど、一人で向かうのは危険だと思うが……」

「問題ない」

「っ……!」


 不安気に告げたカルヴァスの言葉を、テミスは無造作に切り捨てた。そもそも、真正面から攻め込むわけでもあるまいし、フリーディア一人を連れ出すだけならば、見張りの兵士を昏倒させるだけで十分だ。


「むしろ、フリーディアの奴がゴネない様に一筆したためて欲しいぐらいだ」

「っ……それは、承知した」

「カルヴァス副隊長ッ!?」

「ククッ……奴の石頭は嫌というほど知っているという訳か」


 苦笑いを浮かべて頷いたカルヴァスに、ミュルクの叫びが木霊する。そのどこか温かい光景を見つめたテミスは、思わずその光景に笑いを漏らした。


「さて……では、今夜にでも動くつもりだが……カルヴァス。お前は何処を根城にしている? フリーディアを救い出したにしても、街中に放置するわけにはいくまい?」

「っ…………ウム……」


 テミスが問いかけると、カルヴァスは突然テミスから目線を逸らして口籠った。敵である私にセーフハウスを教えるのに抵抗があるのは解るが、連中との連絡手段も知らない状態で逃亡者と散歩をするのは御免だ。


「……東の町外れに緊急用の避難小屋がある。戸に打ち付けた剣の看板が目印だ。フリーディア様はそこに。私は貴族区画の屋敷に居るが……そうだな。これからはこの時間にリックの見舞いに来る事にしよう」

「えぇっ!? 勘弁してくださいよ!」

「フッ……了解した。ならばミュルク卿。窓は開けておいてくれ。場所は分かったのでな」

「ハァッ……!? 普通に正面から入って来れば良いだろ!?」


 含み笑いを浮かべるテミス達が頷き合うと、ミュルクの鋭い叫びが病室に木霊したのだった。

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