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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1193話 潜みし盟友

 ファントの町の外縁部。

 マモルとの戦闘から遁走したテミス達が向かったのは、重厚にそびえ立つ防壁の足元に並ぶ家屋の一つだった。

 その家屋は軒を連ねる他の家々と比べて、さして異なる点などは無く、一見しただけではただの空き家としか映らないだろう。

 しかしその玄関を潜った途端、目に飛び込んできたのは血に濡れた武器や壊れた防具の数々で。

 それを見ただけで、テミスはこの場所が如何なる目的で利用されているのかを想像するのは難くなかった。


「やれやれ……廃墟暮らしは卒業したはずだったんだがな……。全く、好き放題するのは構わんが、移り住んでくる者が居るかもしれんのだ。妙な曰くは付けてくれるなよ?」

「勿論です。一時とはいえ我々が拠点としたのです。誉れが積み上がる事はあっても、曰くなど付くはずがないでしょう」

「……同じ事だ」


 溜息と共にテミスが感想を漏らすと、この場所までの案内を務めたサキュドは不思議そうに首をかしげて言葉を返した。

 勘弁してくれ。と。

 欠片たりとも悪意の無い視線を向けてくるサキュドに、テミスは心の中でうんざりと呻き声を上げながら小さくため息を漏らす。

 つい先日まで過ごしていた建物は、少しの間だけ間借りするつもりであった廃墟を本格的に拠点へと作り替えた結果、白銀の館などという名を付けられてしまったのだ。

 そんな前科(トラウマ)の所為か、誉れなどと言われてしまうと、サキュド達が一時的に身を寄せているであろうこの拠点すらも、何かしらの名と共に残されることになってしまう気がしてならない。


「ささ……テミス様どうぞ奥へ。私達も拠点としては使っていますが、なにぶん普段は町中に身を隠していますので……どうしても倉庫みたいになってしまうんですよね……」

「拠点などそんなものだろう。宿舎こそあるものの、本質を語れば我々の詰所だって似たようなものだ」


 先を行くサキュドに促されて後に続きながら、テミスはクスリと笑みを浮かべて物憂げに零すサキュドにそう応えた。

 尤も、あちらは町の中心からは少し外れた位置にあるものの利便性はここよりも遥かに良いし、装備を保管する以外にも様々な役割があるのだが。


「そうですか? アタシとしては、早くあっちに帰りたいです。ここではマグヌスのコーヒーも出てきませんし」

「あぁ……確かに……。それは残念だ」

「でしょう? おっと……追手に気を付けていたせいか、アタシ達が最後みたいです」

「フム……?」


 他愛のない話にテミスが適当な相槌を打つと、一足先に部屋の中を覗き込んだサキュドが急に話題を変える。

 そんなサキュドの言葉に相槌を重ね、テミスがそのまま部屋の中へと入っていったサキュドの後に続くと、少し広めに作られたリビングのような部屋の中には、彼女の言葉の通り見知った顔が真剣な面持ちで面を突き合わせていた。

 その中でただ一人、この場に居る筈の無いフィーンだけが場にそぐわぬにこやかな笑みを浮かべている。


「ッ……!? お前ッ……!?」

「おっ! テミスさん! お久しぶりですッ!! やはは……いやぁ~先程は危なかったですねぇ」

「なに……?」

「ありゃ? お気づきではない? 煙玉投げたの、アレ私ですよ?」

「そうではない……お前はロンヴァルディアの人間の筈だ。いや……フリーディアに心酔するお前の事だ、ファントに居るのはこの際目を瞑るとしても、ここに居るのはおかしいだろう」

「んふっ……それがそうでもないんですよ。あの日地下牢で交わした約束、お忘れですか?」

「…………。いや……」


 部屋の中に充満する重苦しい雰囲気などものともせず、フィーンは軽い足取りでテミスの前までやってくると、明るい口調で言葉を紡ぐ。

 その傍らでは、テミスをここまで案内してきたサキュドが、何かを堪えるように肩を震わせていたが、結局口を開くことなく壁際に座っていたマグヌスの横へと腰を落ち着ける。


「あ~!! 忘れていますね? 忘れているでしょうッ!! 酷いですッ!! 言ったじゃないですか!! ペンの力無くして倒せない悪が出てきた時は、お声掛けくださいって!!」

「あぁ……! ……そんな事もあったな」

「うぅッ……!! 本当に忘れられていた……ッ!? ファントの窮地に駆け付けた盟友にそれはあんまりですよ!!」

「ったく……相変わらず賑やかな奴だ。お前が私と共にくるのは精神的にではなかったのか?」

「……!! 覚えていてくれたんですねッ!! 嬉しいですッ!!」


 テミスは振り切れたテンションで詰め寄ってくるフィーンを軽くあしらうと、どこからそんな活力が沸いて来るのか、芝居がかった口調で小さく飛び跳ねる彼女を尻目に部屋の中へと視線を向けた。

 この部屋の中の温度感とは、まるで水と油の如く分離した雰囲気を纏うフィーンの存在はやはり浮いているようだったが、誰もが堪えるように身を固くしたまま、異を唱える事はしない。


「あ、お友達(・・・)の皆さんには、ミュルクさんと一緒に別室で休んでもらっていますのでご安心くださいッ! テミスさんの協力者のようですが、何処までお話しするかは現状を把握されてからの方が良いと思いまして」

「…………。ん……?」

「ではでは早速ですが、情報の共有といっちゃいますかッ!!」

「待て待て」

「え~? どしたんですか? 何かご質問ですか?」


 だが、フィーンはテミスの覚えた違和感すら吹き飛ばしてしまいそうな程の疾走感で話を進めようとするが、その巨大な違和感を消し去る事などできようはずもなく。

 人差し指をピンと立てて本題に突き進もうとするフィーンの肩を掴むと、テミスは強引に話を留めて口を挟んだ。


「何故。お前が。この場を仕切っているッ!?」

「……? だってこの拠点(アジト)を提供してるの、私ですし。こうみえて私、一応皆さんを匿っている家主さんですよ?」


 そして、途切れ途切れになりながらも、巨大すぎる疑問をぶつけたテミスに、フィーンは不思議そうに首を傾げながら、けろりと平然な顔をして言い放ったのだった。

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