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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1192話 明日への遁走

「新手かッ……!? クソッ……!!」


 再び奪われた視界の中で、テミスはもうもうと立ち込める煙幕を斬り払うべく大剣を構え直した。

 致命傷たる深手を負わせたマモルが再び武器を振るい、私に向かって突進してきたミュルクが結果的に私を救ったのは間違いない。

 だが、奴が私とマモルのどちらを救おうとしていたわからないし、フリーディアに心酔する忠犬であるミュルクの性格を鑑みれば、どちらの側であるかなど容易に想像が付く。

 どちらにしても、一刻も早くこの煙幕を払い、マモルを討たねばならない。

 揺るぐ事の無い強固な意思でそう判断したテミスが、構えた大剣に力を籠めかけた時だった。


「テミス様。お待ちください」

「ッ……!? サキュド……か……?」

「はい。遅参誠に申し訳なく。諸々は後程。まずは退きましょう」

「なに……? 馬鹿を言うなッ!! 却下だ。元凶は間違いなく奴だッ!! ここで討つッ!!」


 テミスでさえ見通す事のできない白煙の中。力を込めて握り締めた柄にひたりと小さく冷たい手が添えられ、聞き違う筈もない副官の囁くような声が耳元で聞こえてくる。

 しかし、その進言は到底許容できるものなどではなく。

 声を潜めながらも苛立ちを露わにしたテミスは、憎々し気な口調でサキュドへと言葉を返す。


「恐らくは不可能です。まずは、情報の共有を。お連れの客人は別動隊が案内に向かっています」

「っ……!! だが……ミュルクとフリーディアはどうするッ!?」

「ミュルクは問題ありません。手はず通りなら既に脱出しているかと。あの女の事も心配ないでしょう」

「何を根拠にッ――!!」

「――兎も角。今は脱出が先決。こちらへ」


 それでも尚、断じて食い下がるサキュドの声にテミスは僅かに冷静を取り戻すと、飛び込んで来たサキュドへ疑問をぶつけた。

 先程横合いから飛び込んできたミュルクは大した傷ではないかもしれないが、フリーディアはそうではない。

 あのまま放置すれば十分と保たずに死ぬのは間違いないだろう。それに、サキュドは元来フリーディアとは馬が合っているとは言い難かった。ならば、即時撤退を強行進言する程に逼迫した状況下において、彼女は容赦なくフリーディアを見棄てる判断を下すだろう。

 だが、その答えに反論を返す間も無く。

 サキュドはテミスの手の上に這わせた自らの手を絡ませると、まるで彼女の視界は晴れているかの如く、立ち込める煙幕の中を手を引いて迷いなく突き進んでいった。


「逃がすと思うか?」

「……ッ!? ぐぁッ……!!」

「テミス様ッ!?」


 しかし、その僅かな問答が命取りとなったのか、それとも未だにマモルという敵を前に退く事に納得できていないテミスの足が重かった所為なのか。

 立ち込めていた煙幕僅かに薄らいだ途端に静かな声が響くと、テミスの背に鋭い痛みと共に一振りの剣が突き立った。

 それは紛れもなく、先程の戦いの中でマモルが振るっていた一双の剣と同じもので。


「クソッ……!! テミス様。ヤツは私が足止めします。このまま走ってくださいッ!!」


 前を走るサキュドはそれを見咎めるや否や、忌々し気に吐き捨てて身を翻すと、何処からともなく取り出した紅の槍を手に叫びを上げる。

 薄くなり始めた煙幕の中ですれ違ったその小さな背には、並々ならぬ覚悟が背負われており、テミスは再び頬を殴り飛ばされたかのような衝撃を受けると、呆然と目を見開いて足を止めた。


「…………」


 どうやら、一番の間抜けは私だったらしい。

 ファント愛しさに一心不乱に駆け戻った挙句、現地の情報をロクに収集する事も無く真正面から突撃する。

 これではまるで、考え無しの猪武者ではないか。

 そんな無茶な突撃を敢行して尚、こうして駆け付けてくれたのだ。私には勿体ない程に優秀な部下を持ったと言えるだろう。

 そう考えた途端、テミスはこれまで自らを突き動かしてきた胸の中の焦りが消え去っていくのを感じると、背に突き立った剣を無造作に抜いて傍らへと投げ捨てた。


「テミス様ッ!? 何故――!!」

「逃げれば良いんだな? 隙は私が作る。どっちだ?」

「……!! このまま……真っ直ぐです!」

「了解だ」


 一方で、決死の覚悟を以てテミスを逃すべく奮い立ったサキュドは、足を止めたテミスに焦りを浮かべるが、即座に続けられた言葉に息を呑むと、手に握り締めていた槍を霧散させて問いに答える。

 その顔には何処か安心したような、しかしとても嬉し気な表情が浮かんでいて。


「……三つ数えたら仕掛ける。一気に駆け出すぞ」

「はいッ!!」

「いち……に……サンッ!!!」


 テミスは不敵な笑みを浮かべて照れくささを誤魔化すと、大剣を横向きに構えて静かに囁いた。

 そして、合図と共に立ち込める煙幕を真一文字に切り裂くように月光斬を放つと、サキュドと共に見慣れた街並みの中を脱兎の如く駆け出したのだった。

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