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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1189話 初めての相棒

「存外……素直なのだな。噂とは大違いだ。その優しさは彼女の為か?」


 テミスがフリーディアの身体を地面へと寝かせて立ち上がると、男は空になった手を腕組みしてテミスへと語り掛けた。

 しかし、その戦いを放棄した格好とは裏腹に、放たれる感情の籠らない言葉やテミスを見据える探るようなまなざしは、テミスに戦いがまだ続いている事を雄弁に物語っていた。


「答える義務は無い」

「そうだね。だけど俺は、君と刃を交え、その在り方をこの目で見て認識を改めた。話の一つくらいは聞いてくれないかい?」

「…………」

「心配しなくていい。彼女が失血死する間もなくすぐに終わる話だ。言っただろう? 彼女に死なれては困る……と」


 男の問いに、テミスは冷ややかに言葉を返すが、男はフードを目深に被ったフードから僅かに覗く口元で笑顔を見せる。

 そして、フリーディアの血で濡れた大剣を油断なく構えるテミスの前でゆっくりと手を持ち上げると、パサリとフードを外しながら言葉を続けた。


「王族にしてこの融和を謳う町を仕切る片割れ。平和の旗印とするにはこれ以上ない程の逸材だ」

「ッ……!!? お前……は……!!」

「だから生きていて貰わないと困る。こちらの理由はこれで理解できただろう?」


 だが、無造作に男が晒したその素顔を見たテミスは、目を見開いて驚愕を露わにしていて。彼の語る言葉など、欠片たりともその耳に届いてはいなかった。

 何故なら……まるで表情筋が凍り付いてしまったのではないかと思う程に、口角だけを吊り上げて微笑む男の顔には、嫌というほどに見覚えがあったから。

 それも、この世界ではなく、かつて見限ったあの世界で。


「ッ……!!!」


 驚愕と衝撃で打ちひしがれるテミスにとって、あまりの出来事に喉の肉が痙攣し、言葉が出て来なかったのは幸運だっただろう。

 半ば強制的に絶句を強いられていなければ、今にもその名を叫んでしまっていただろうから。

 あり得る筈がない。他人の空似だ。

 混乱する思考の中で、テミスは冷静さを取り戻すべく必死にそう自らに言い聞かせる。

 しかし、男は硬直したテミスへその空虚な視線を向けると、何かを察したように一つ頷いて再び口を開いた。


「ああ、自己紹介がまだだったね。俺は影宮守。こちらに合わせて言うのなら、マモル・カゲミヤと名乗る所だが……君なら分かるはずだ」

「アンタ……」

「本当なら、こうして喋る時にはコーヒーの一つでも奢ってあげたいものだけれど、生憎こっちには自販機なんて便利なものは無くてね。困った事に煙草も高級品……あちら側を知る我々にとっては辛い話だ」


 その疲れ果てたかのような口調で語られる名は、眼前の事実を必死で否定するテミスの努力を嘲笑うかのように打ち砕き、彼がテミスの知るマモル本人であると証明する。

 そうだ。忘れる筈もない。

 新人警察官として配属されたかつての『俺』の教育係にして初めての相棒(バディ)

 それが影宮守という男の筈だ。断じて、このような世界で剣を振るっているような人間ではなかったはずなのにッ……!!


「おっと、いけない。君の雰囲気が知り合いによく似ているものだから、つい余計な事を話し過ぎてしまった。不思議な話だ……彼は君のような可愛らしい女の子とは似ても似つかない男だったはずなのに……。フフ……すまない。こちらの話さ……早速本題に入ろうか」


 マモルは静かに目を細め、まるで過去にでも浸るようにゆっくりと言葉を紡いだ後、未だ衝撃の覚めやらぬテミスに向き直った。

 間違い無い。その話し方も、くたびれた笑みも、すぐに話を脱線させる悪癖も、紛れもなくかつてカゲさんと呼び慕った男そのものだ。

 テミスはそう確信すると、携えた大剣の柄を固く握り締め、乱れ切った心を努めて平静へと引き戻す。

 忘れるな……私は既にかつての私ではない。元魔王軍の軍団長にして、黒銀騎団を率いるテミスなのだ。


「簡単な話だ。俺と手を組まないかい? 俺はこの世界の平和を願い、その為にこの力を振るっている。目指す所は同じの筈だ。ただ……俺のやり方は君達のやりかたよりもずっと現実的なだけさ」

「あぁ……そうか……。そういう事か……」

「理解が早くて助かるよ。どうやら君は、大きな力を得てその使い方を間違えているだけらしい。この世界は未熟だ。だからこそ、力を持つ俺達にしか出来ないやり方がある」

「クスッ……」


 変わらないものだ……と。

 冷めた口調で熱弁を振るうマモルを前に、テミスは密かに微笑みを漏らした。

 アンタは他人に物を教える時は昔っからそうだった。婉曲に、少しづつヒントを与えていって、まるで自分がそう考え出したかのように思考を導いていく。

 新人()の頃は愚直にその背を追い求めていたからこそ、優秀な指導者と映ったものだが……。


「そうだな。確かに、力を持つ者だからこそできるやり方もある……」


 言葉と共に、テミスは笑顔を浮かべて大剣を肩に担ぎあげると、ゆっくりとした歩調でマモルへと歩み寄ったのだった。

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