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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1188話 見えぬ真意

 決着だ。

 振り下ろした刃の先で、驚いたように自らを見つめるフリーディアを見てテミスは確信する。

 今更防いだところで、この斬撃を受ける事はできない。加えて、あの崩れ切った体勢では躱す事など尚不可能だろう。

 ……さらばだ。フリーディア。

 テミスは己が剣が戦友を引き裂くまでの刹那の間に胸の中でそう呟くと、その身体を両断すべく渾身の力を込めた。

 だが。


「……ッ! テミスッ!!」

「ッ……!? グゥッ――!?」

「あ……ぐッ……!!」


 自らの身に死が迫る刹那の間に、フリーディアは驚いたように目を見開くと、鋭くテミスの名呼んで体当たりをするように前へと進み出る。

 直後。

 テミス背を一対の燃えるような痛みが駆け抜けていった。

 しかし、懐へと飛び込んだところでフリーディアの運命が変わる事は無く、テミスが己が背を斬られたと認識すると同時に、振り下ろされた大剣がフリーディアの肩口へと深く食らい込んだ。


「なっ……!?」

「……ふふ」


 突然の乱入者に驚愕するテミスの間近で、漆黒の大剣の一撃をその身に受けたフリーディアが、不敵にクスリと小さな笑みを浮かべると、テミスの身体へもたれ掛かるようにして崩れ落ちる。

 その暖かな血潮を浴びながら、テミスは意識を失ったフリーディアを受け止めて背後を振り返った。

 そこには、魔術師のような漆黒のローブを身に纏った怪し気な男が、赤と黒の片手剣を手に悠然と佇んでいた。

 ポタリ、ポタリと刀身から血の滴るその双刀は、背後からテミスを斬ったのがこの男だという何よりの証で。


「貴様……何も――のッ!?」

「…………」

「クッ……!? ッ……!!」


 男の正体を探るべく、テミスは警戒を露わにしながら問いかけるが、返答とばかりに返って来たのは鋭い斬撃だった。

 一撃、二撃と。

 テミスは、口を噤んだままフリーディアにも勝る迅さで繰り出される男の斬撃を躱すと、体勢を立て直すべく己が受け止めたフリーディアを抱き寄せたまま大きく後ろへと跳び下がる。

 その軌跡を、フリーディアとテミス……二人の身体から溢れ出た血が、まるで肩を並べて歩いたかの如く、点々と並んで石畳に彩りを加えた。


「フン……喋る気は無い……か……」

「いや、そうでもない。ただ、仕留める事ができそうだったものだからつい……ね」

「この大嘘吐きめ。それ程まで殺気を迸らせながら剣を構えておいて良く言う」


 距離にして数歩。互いの剣が丁度届かぬ程の間を空けて睨み合いながら、テミスは不敵な笑みを浮かべて、ようやく口を開いた男と言葉を交わす。

 この男が何者かは知らないが、かなりの手練れであることは間違いないだろう。

 先程の追撃も狙いは急所ばかりを的確に狙った鋭いものだったし、不意を付かれた最初の一撃も、フリーディアが突っ込んでこなければ抗う間もなくやられていたかもしれない。

 それはつまり、フリーディアに窮地を救われたという事で。


「クソッ……! よりにもよってコイツにッ!」

「その気持ちはよくよく理解できる。君が抱いているその女が邪魔をしなければ、あの一撃で君を殺せていたというのに。実に忌々しい」

「おかしな話だな? 私とフリーディアは剣を交えていたはずだ。そこへ背後から斬りかかってきたという事は、お前はさしずめコイツの仲間といった所か?」

「フフッ……。仲間……ね……。それは少し違う。俺はただの助言役(アドバイザー)だ」

「……なるほど」


 少し見えてきた。と。

 テミスはニヤリと意味深に笑みを深めると、胸の中で密かに呟きを漏らす。

 今の話とヴァイセから聞いた話を合わせれば、恐らくこの男が私がギルファーへ発ってから現れたというマモルという男だろう。

 ならば、これ程の強さを秘めていたとしても不思議ではないし、自らの狙いの為にフリーディアを囮にするという策も理解できる。


「……ひとまず、彼女を横にしてやったらどうだ? 君も俺も、このまま彼女が死んでしまうのは不本意だろう?」

「ハッ……吐かせ。コイツがどうなろうと知った事か」


 しかし、男はチラリとテミス達の足元に広がっていく血だまりに目を向けると、大袈裟に肩を竦めて問いを口にした。

 その言葉に、テミスはフリーディアの身体に食い込んだ自らの剣へと視線を移すと、確かに今も尚、漆黒の刀身を伝って彼女の血がだくだくと流れ出ている。

 このままでは、数分と経たずにフリーディアは絶命するだろう。だが、眼前で相当を構える男の目深にかぶったローブから辛うじて覗く口元は、怪し気に歪められていて。

 それを知るが故にテミスは、努めて口角を吊り上げて言葉を返した。


「……やれやれ、噂通りの用心深さだ。わかった。これでどうだ? 何なら、君の仲間を呼んで手当てをしてくれても構わない」

「…………」


 問いを突っぱねたテミスに、男は小さなため息を吐くと、言葉を重ねながら両手に携えていた剣を手放して石畳の上へと捨てる。

 そんな男に、テミスは全神経を張り巡らせて警戒を向けながら、フリーディアの身体に食い込んだ大剣をゆっくりと抜くと、その身体を静かに足元へ横たえさせたのだった。

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