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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1182話 醜悪な囁き

 雷鳴のような怒声が響く度、幾度の激戦を潜り抜けてきた猛者たちが紙屑のように吹き飛ばされていく。

 蹂躙。まさしくその言葉が内包する意味を体現するかの如く、テミスは戦場の中心で大剣を振るい続けた。

 一つ薙げば、同じ釜の飯を食らったかつての同胞たちをまとめて吹き飛ばし、一つ振り下ろせば共に笑い合った戦友たちの渾身の防御すら、薄氷の如く割り砕いて打ちのめす。


「ウ……ゥォォォォォオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」

「ッ……!!! ひ、怯むなッ!! 一斉にかかれッ!!」

「俺達が託された……俺達がこの町を護るんだッ!!」


 だがそれでも、兵士達は必死の形相で叫びを上げ、戦意を失う事無く戦場を突き進むテミスへと向かっていく。

 幸か不幸か。それは紛れもなく、彼等が優秀で精強な兵士であるという何よりの証であった。

 皮肉にも、優秀で精強な兵士である彼等の切っ先は、今彼等自身を鍛え上げ、打ち直したテミス自身へと向けられているのだが……。


「ッ……!!!」


 圧倒的なテミスの猛攻を受け、磨耗し、瓦解しながらも応戦を続ける兵士達。しかしテミスの勢いが止まる事は無く、漆黒の大剣は兵士達を易々と噛み砕き、既にたったの一騎で七割ほどの兵を打ち破りつつあった。

 そんな絶望的ともいえる戦況を、ファントを囲う防壁の上では一人の男を傍らに連れたフリーディアが、何かを堪えるように歯を食いしばって見下ろしていた。


「……限界ですね。そろそろ」


 しかし、表情を歪めるフリーディアとは対照的に、傍らに佇む男は無感情に戦場を見下ろして呟きを漏らした。

 男の表情からは一切の感情が読み取れず、ともすればこれだけの惨状を前にしても、何も感じてすらいないのではないかという程で。


「私が出るわッ……!!」


 遂に耐え兼ねたフリーディアが鋭くそう宣言をすると、腰に提げた剣に手をかけて素早くその身を翻す。

 だが。駆け出そうとした脚が二歩目を踏み抜く事は無かった。

 何故なら。駆け出そうと振りかぶったその腕を、何の前触れもなく動いた男の腕が力強く掴んで留めていて。


「ッ……!!! 何故ッ!! どうして止めるのッ!!」

「貴女は指揮官だ。全体を見渡す事のできる場で、しっかりと指示を出すべきだ」


 自らをその場に留めた男をフリーディアは目を剥いて怒鳴り付けるが、男は揺るがぬ静かな声でただ粛々と言葉を返した。


「現在、避難の完了した住人たちは七割ほど。残りの者達も、しっかりとした避難の誘導があれば間に合うはず」

「でもッ……!!! それでは今下で戦っている皆がッ!!!」

「冷静になるんだ。相手はあの(・・)テミスだ……このまま避難も無しに市街戦にもつれ込んだら、どれ程の犠牲が出るか分からない」

「そんなのッ!! テミスだって弁えているはずよッ!! たとえ敵となっていたとしても、戦う力の無い町の人たちを巻き込む事なんて絶対にしないッ!!」

「そう……かつての彼女ならばそうであったのかもしれない。けれど、今の彼女は迎えに行った私の部下を殺すような外道へと成り果ててしまった。それが事実だ」

「ッ……!!!」


 ぎしり。と。

 胸を引き裂かれるような思いに身を焦がしながら、フリーディアは血が滲むほどに固く己が拳を握り締める。

 確かに覚えている。

 昨日、胸を貫かれて血塗れになった仲間を抱えて、泣き叫びながら帰還した彼の部下の姿を。

 既に事切れた遺体に縋り泣く慟哭は、今も尚耳の奥にこびり付いて離れない。


「何故ッ……!! 何故あなたがそんなに酷い事をッ!!」

「……今は、ただ彼等に感謝すべきだ。己が身を……命を盾に、この町の人々の命を救ってくれた兵達に。彼等の犠牲で……皆が明日を生きられるッ!!」

「う……うッ……あ……ッ~~!!」

「泣かないで。君は指揮官として正しい判断をしたんだ。これが最善の道だった。君の判断のお陰で、一番多くの人間が救われるんだ」


 眼前の残酷な現実に押し潰されるように、フリーディアがその場に泣き崩れるが、即座に男はその肩を支えると、静かに口角を緩めて柔らかに語り掛ける。

 しかし。その瞳はフリーディアなど見てはおらず、ただ冷徹に眼下で繰り広げられ続ける激戦へと向けられていた。


「グスッ……ウッ……ごめんなさい。もう大丈夫よ」

「君の悲しみはよく理解できる。けれど、それはテミスと相対した時まで取っておくんだ。君の怒りを……悲しみをぶつける為に」

「えぇ……私だけ泣いてなんかいられない。皆の思いに報いる為に頑張らなきゃッ……!」

「……尤も、彼女のお仲間が余計な事さえしなければ、犠牲はもっと減らす事ができたはずだったんだけれどね」


 男の励ましを聞いて、フリーディアは目を真っ赤に泣き腫らし、全身を震わせながらも気丈に立ち上がってみせる。

 そんなフリーディアの真横で、男は銃身の拉げ曲がったトーチカをチラリと横目で示しながら、声を潜める事無く嘯いてみせたのだった。

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