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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1181話 刃なき絶叫

 彼等は戦場で、幾度となくその姿を見てきた筈だった。

 振り回す事ができるのかさえも疑わしい、己が身の丈程もある巨きな大剣を軽々と構え、如何なる強大な相手であっても威風堂々と相対する雄々しき勇姿。

 その姿は、時に窮地に在った彼等の心を奮い立たせ、時に傷付き膝を付いた彼等の心に安堵を届けた。

 だが、彼等がいつも目にしていたのはその恐ろしくも頼もしい背中ばかりで。

 その身から迸る殺気と、嵐の如く吹き荒れる風が噴き出しているかのような圧倒的な威圧感を前に、兵士達は深い後悔と絶望をその胸に刻み込んでいた。


「ぅ……ぁ……」


 大剣を構えたテミスを前に、兵士達は皆石像と化してしまったかのように身を固くすると、今にも叫び出してしまいそうな恐怖に必死で抗っていた。

 実際にこの目で見て、この身が救われたからこそ、その強さを骨の髄から理解してしまっている。

 戦いを始めてしまえば、自分達は確実に死ぬだろう。

 本能的にそう理解しているからこそ、兵士達は武器を構えこそしたものの、誰一人としてテミスに向かって行く者は居なかった。

 だが。


「どうした? 突っ立っているだけか?」

「っ……!!!」


 ゆらり。と。

 一向に動きを見せない兵士たちの前で、テミスは悪魔のような壮絶極まる歪んだ笑みを浮かべると、高々と大剣を振り上げた独特の構えを取る。

 それはテミス率いる黒銀騎団、もしくはフリーディア率いる白翼騎士団に属している者ならば誰でも知る構えで。


「月光斬ッ……!!!」

「そんな事を私は教えたか? それともマグヌスか? あのフリーディアとて、敵を前にただ突っ立って見ていろなどと教えはしまい」


 高々と漆黒に輝く大剣を構えたまま、テミスが皮肉気にそう告げる前で、恐怖と焦燥に駆られた兵士たちが一斉に動き始めた。

 ある者は放たれるであろう斬撃の射線から逃れるべく線列を崩し、ある者は涙を流して絶叫しながら、斬撃が放たれるのを止めるべく突撃を敢行する。

 だが。


「馬鹿が」


 テミスへと突撃した兵が肉薄する前に。月光斬の射線から逃れるべく駆け出した兵の足が求めた地の土を踏む前に。

 吐き捨てるような呟きと共に、振り上げられた大剣が兵士達へ向けて無慈悲に振り下ろされた。

 直後に響いたのは、絶望の悲鳴と苦痛を堪える絶叫で。

 放たれた見えざる一撃はテミスの眼前の兵達を捉えると、その身に着込んだ甲冑を割り砕き、鍛え上げた重厚な肉体を吹き飛ばした。


「……新月斬」

「うぎゃああああああッッ!! 腕がッ!! あああああああッ!!」

「ご……ぁ……ッ!! 勝てる……訳が……ねぇッ……!!」


 大剣を振り切った格好のまま、テミスが好敵手に付けられた技の名を呟く前で、放たれた衝撃波に打ちのめされた兵士たちは、叫びや呻き声をあげながら倒れ伏していた。

 その惨状は、テミスの前に立ちはだかった兵達の前方三割ほどに広がっており、運よく射線の外に居た左右の兵達の間から、恐怖に息を呑む声が聞こえてくる。


「折角育て上げた兵士達だ。ファントを護る命を受けてこの場に立っている彼等を、皆殺しにしてしまったのでは勿体無い」


 テミスは振り下ろした大剣を身体の前で構え直すと、まるで誰かに言い訳でもするかのように、必殺の一閃である月光斬ではなく、不殺の一撃である新月斬を放った理由を呟いた。

 しかし、新月斬の直撃を受けた阿鼻叫喚の地獄の中には、地面に倒れ伏したままピクリとすら動かない兵の姿もある。


「だが……一人も殺す事無くこの場を切り抜けるのは無理か……」


 その存在を目にしたテミスは、何かを堪えるかのように苦し気な声で零すと、大剣を地面とは水平に構えて兵達に鋭い眼差しを向けた。

 相手は鍛え上げた精鋭の兵だ。殺したくないからといって生半可な威力の技を撃てば、逆にこちらがやられるだろう。

 ならば、まとめて片付けるのではなく、一人一人この剣で打ち倒すのみッ!!


「戦う気が無いのなら素直に道を空けろッ!! 道を空けぬというのなら……死にたい奴からかかって来いッ!!」


 テミスは大きく息を吸い込んでからそう叫ぶと、構えた大剣の腹に掌を当てて能力を流し込んで刃を落とす。

 これでも、剣の形をしている以上は打ち所が悪ければ死ぬし、腕の一本や二本であれば簡単に千切り飛ばすだろう。

 しかし、命令とはいえ己が意思で戦場に立った以上、これ(刃引き)以上の手心は加えない。

 目の前に立ち塞がるのは純然たる敵。その事実に変わりは無いのだから。


「退くか死ぬかさっさと選べッ!! 邪魔だァッッ!!」


 そう覚悟を決めると、テミスは残った兵達の群れの中に真正面から突っ込むと、横薙ぎに大剣を振り回して兵達を叩き伏せながら咆哮をあげたのだった。



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