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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1178話 友の懇願

「ッ……!! お前は――」

「――黙りませんッ!!」


 余計なことを口走られてはたまらない。

 危機感を抱いたテミスが即座に口を開くが、その制止すらも振り切ってシズクはひと際大きな声で叫びを上げた。

 だが、握り締めた拳や強張った脚はぶるぶると小刻みに震えているし、目尻には既に涙さえも浮かんでいる。

 その姿は誰が見ても、身に余る場だと理解しながらも、胸を焦がす激情に任せて飛び出してきたと解る程で。

 そんなシズクへ、ルギウスはただ静かに視線を向けただけで、何も言葉を発する事は無かった。


「先程から聞いていれば……まるでテミスさんが悪いかのような物言いッ!! 到底看過する事などできませんッ!!」

「チィッ……!! 馬鹿がッ……!! 落ち着けッ!! いいからお前は黙っていろ!」

「嫌ですッ!! だってテミスさんはッ!! テミスさんは今まで私達とッ――」

「――ッ!!!」

「姉様ッ!!」


 まるで子供が駄々をこねるかのように、シズクは憎しみすら籠った視線でルギウスを睨み付けて喚き立てる。

 テミスは、はじめこそ前に出たシズクを自らの背へと引き戻し、怒鳴り付ける事で制止を試みていたが、必死の形相で抗弁するシズクから不味い言葉(・・・・・)が零れそうになった刹那、首を掴んで喉を潰し、力付くで声を奪った。


「ガッ……!? カッ……!!」

「弁えろ。自分が何者か、相対している者が何者なのかを。その怒りが私を想ってのものだというのならば、今は呑み込み、黙って見ていろ」

「ッ……!!! アンタねぇッ!!」

「お前もだ」


 シズクの首を掴んだテミスは、そのまま表情を憤怒のそれへと変えると、ギラリとシズクを睨み付けて唸るように告げる。

 その後、シズクを捉えた事で背後のカガリが気炎を上げていたが、テミスは自らへ向けて突進してくるカガリにシズク掴んだシズクを投げつけて迎撃すると、睨み殺さんばかりの鋭い視線と共に一言を付け加えた。


「ふふ……いい子たちを仲間に……いや、新たな友としたみたいだね?」

「……すまない。ルギウス殿。御前での不敬、謝罪させて貰う」


 だが、テミス達の問答が終わったタイミングで、それまで黙って様子を眺めていたルギウスが穏やかな微笑みと声を掛ける。

 その言葉に、テミスは背筋を正してルギウスへと向き直ると、深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にした。


「っ……!!」

「構わないよ。僕と君の仲だ。それに……確かめる為とはいえ、少し虐めすぎてしまった僕にも非がある。テミスの為に怒った君も……ごめんね?」


 頭を下げたテミスに、ルギウスは穏やかな微笑みを浮かべたまま頷き、テミスの背後でカガリに身体を支えられながら涙を流すシズクへと小さく頭を下げる。

 そして、ルギウスは己が前に設えられた机の引き出しを無造作に開けると、中から一枚の羊皮紙を取り出して、パサリと机の上に広げて言葉を続けた。


「僕個人としては、テミスがそんな命令をする訳が無いと信じていたんだけれど……僕も命令でね」

「魔王軍の指令書か。私にとっては懐かしい物だが、あまり人目に晒す物でも無いだろう」

「せめてもの贖罪さ。君が何をしていたのかは知らないけれど、奴等と繋がっていないと信ずる理由も見れた。でもね、テミス。僕自身も、君の為に起こってくれたあの子と同じなんだ」

「なに……?」


 穏やかに。しかし悲し気に。

 言葉を紡ぎ続けるルギウスは、一度言葉を切ってから息を吐くと、椅子から立ち上がって真剣なまなざしでテミスを見つめる。

 同時に、その腰に提げられている剣を鞘ごと剣帯から抜いて手に携え、覚悟を定めるかのように大きく息を吸い込んだ。


「この子がテミスの友である僕を信用できなかったように、僕も君ほど(・・・)フリーディア君を信用している訳では無い」

「ルギウスッ!!」

「事実だッ!! ッ……、今のファントに住む者が略奪を働いている事は間違いない。君がファントを空けていたのなら、彼女を疑わざるを得ないッ!!」

「チッ……!!」


 ずだん。と。

 一時は凄まじい踏み込みの音すら立てて、ルギウスへと掴みかかりかけたテミスであったが、ルギウスの胸元へと向けられた手が寸前の所で止められていた。

 そのまま、ルギウスが声を張り上げて言葉を続けると、テミスは歯が軋む音が聞こえてくる程に強く歯を食いしばると、素早く身を翻してルギウスへと背を向ける。


「……私の役目だ。これ以上手間はかけさせん」

「手間だなんて思っていないさ。けれど、今君が正面からファントへ向かうのは止した方が良い。まずはマグヌス殿たちに報せるから、一度秘密裏に町の中へ……ッ!!」

「…………」


 それでも尚。テミスの背に向かって、ルギウスは変わらず親愛の微笑みと共に語り掛けるが、言葉すら無く再びルギウスを振り返ったテミスの目に気圧されて口を噤む。

 テミスの顔には、最早怒りの感情は浮かんでなど居なかった。

 かわりに在ったのは、一目見ただけで決して揺るがぬと解る程に固められた覚悟と、その裏に溢れ返っているであろう深い悲しみで。


「……わかった。この件に関して、僕達は君に協力はするけれど口出しは控えよう。だからこれは、友としての頼みだ。せめて、一晩はこのラズールで体を休めてから行って欲しい」

「…………」


 その、あまりにも苦し気で儚い表情を見た途端、ルギウスは打ちのめされたかの如く悲しげな表情を浮かべた後、押し殺したような声でそう告げるのが精一杯だった。

 そんなルギウスの懇願に、テミスは肩越しに振り返ったまま、ただ小さく頷いたのだった。

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