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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1177話 不穏の足音

 魔王領・ラズールの町。

 かつて、ファントと同じく魔王領の最前に位置するこの町は、ロンヴァルディアと魔王軍との激しい戦渦に見舞われていた。

 一度は、ロンヴァルディア軍にフリーディア率いる白翼騎士団までもが加わり壊滅寸前まで追い込まれたこの町も、今では密かに人魔共存を目指していたルギウスの手腕もあってか、目覚ましい復興を遂げていた。


「戻ったよ。シャル」

「ルギウス様……良かった。ご無事で……って……!?」

「邪魔をするぞ。おぉ……久しいなシャーロット。いつ以来だ?」


 そんなラズール町の中心部から程近い場所に悠然と佇んでいる、第五軍団の詰所の心臓部。軍団長たるルギウスの詰める執務室に、驚愕の悲鳴が木霊した。

 それも、旗下の兵の報告を受け、顔色を変えて飛び出して行ったルギウスの傍らに、かつてはルギウスと同じいち軍団長の身でありながら、融和都市ファントを謳い魔王軍を離れたテミスの姿があったのだから無理もない話だろう。


「テッ……テ……テテ……ッ!!」

「驚くのは理解できるが……すまない。再会の挨拶は後にしてくれ。ルギウス、早速説明をして貰えるか?」

「勿論さ。シャル、悪いのだけれどテミス達にお茶をお願いするよ」

「えっ……? ですが……。っ……!! は、はいッ!!」

「…………」


 ルギウスの後に続いて続々の執務室の中へと足を踏み入れるテミス達に、シャーロットは更に驚きを重ねたように目を見開いた後、ルギウスの命令にペコリと頭を下げて部屋の外へと下がっていった。

 その献身的かつ思慮深い言動に、テミスは口こそ開かなかったものの、内心では舌を巻いて感心していた。

 ほんの一瞬。堪え切れずに具申こそ零れかけたものの、即座にルギウスの意図を察して呑み込み、行動に移した手腕は素晴らしいものだ。

 同じ副官であるというのに、ウチの有能だが寡黙な堅物と、天真爛漫で放蕩な癖に変な所では聡明な狂犬との差は何なのだろうか。


「フフ……部下は主の背を見て育つというからね……。真面目な癖に破天荒な君には、ぴったりな副官だと思うよ?」

「うるさい。勝手に表情から思考を読むな。お前が外ではできない話があるというから、わざわざこうして場所を移したんだ。話があるなら早くしろ」


 最奥に設えられた自らの席へと腰を掛けながら、にこやかに笑みを浮かべたルギウスがそう告げると、テミスは不機嫌そうにピシャリと軽口をたたき伏せる。

 執務室に通されて尚、悠然とした態度を取り続けるテミスの背後では、シズク達が非常に居心地が悪そうに背を丸めていた。

 しかし、ルギウスはそんなシズク達を静かに一瞥しただけで、浮かべていた微笑みを消して真面目な表情を浮かべると、小さく息を吸い込んでから口を開く。


「そうだね。君好みに行こう。今、ファントへ帰るのなら気を付けた方が良い」

「根拠は?」

「最近、ラズールに居を構える商人が襲われる事が多くてね。君も知っての通り、ラズールはファントと違って日用品や素材の取り扱いが主だ。故に、ファントとも盛んに交易している」

「薄い理由だな。それに何か? その口ぶりでは、ファントの連中がラズールの民を襲っているように聞こえるが?」

そう(・・)言って(・・・)いるんだ(・・・・)。ついこの間、漸く尻尾を掴んだからね」


 ルギウスがそう言葉を続けた瞬間。

 穏やかだった執務室の空気が一転し、ただならぬ緊張感を帯び始めた。

 友人同士の交友の場であったこの部屋は今、再び戦渦を巻き起こしかねない問題の、弾劾の場へと姿を変えたのだから。


「確か……なのか……?」

「あぁ。報告を聞いた時は僕も耳を疑ったよ。けれど、商人と協力して罠を張り、何度も調べ上げた結論さ」

「ッ……!!!」


 重々しく発せられるルギウスの言葉に、テミスは掠れた声で問いを返すと、驚愕を露わにして黙り込んだ。

 ファントの住人が略奪を働いたなど、とてもはいそうですかと信じられるような事ではなかった。

 けれど、他でも無いルギウスがこのような下らない嘘をでっちあげる理由は無い。

 やるならばもっと狡猾に、綿密に仕掛けてくるだろうし、何よりこうして私を呼び込んで問い質すなど、嵌めようとしている者がする筈がないだろう。

 だが……それはつまり、事もあろうにファントの住人が略奪に手を染めたという何よりの証左だった。


「ま……待って下さい!! コスケさんは……ギルファー(ウチ)の商人はファントに変わりは無いとッ!! 商人への略奪なんて見逃す筈がありません!!」


 テミスが、あまりの事態に言葉を失って黙り込んだ時。

 鉛のように重苦しくなった空気を見かねたのか、背後で黙していたシズクが意を決したように進み出ると、真っ直ぐにルギウスを見据えて、微かに震える声で話へと割り込んだのだった。

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