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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1172話 不芳なる訪問者

 翌日。

 日の出と共に野営を撤収したテミス達は、今日もファントへ向けて疾駆していた。

 そんな連日の強行軍の甲斐もあって、馬車の外を流れる景色は既に町同士を結ぶ大きな街道へと変わっており、時折商人の物と思われる荷馬車も行き交っている。


「この調子でしたら、夕暮れ前にはファントヘ到着できそうですね」

「そうだな……」


 馬車の中では、昨夜に見張りの任に付いていたカガリとアヤが穏やかな寝息を立てており、テミスとシズクは彼女たちを起こさないように声を潜めて言葉を交わしていた。

 今はヴァイセが周囲の索敵を担当し、シズクの部下である兎人族の少女・ハクトが御者役として手綱を握っている。

 シズク曰く、ハクトの索敵能力は折り紙付きで、彼女としては自らの部下であるハクトを索敵役に据えたかったようだが、ことファント均衡に差し掛かったこの辺りでは、土地に親しんだヴァイセに一日の長があるだろう。


「それにしても、予想していたより順調でしたね。野盗に遭う事もありませんでしたし、行きとは大違いでした」

「あぁ……コスケの話では、ファントも表面上は何事もなく平和のようだし、このまま何事もなく到着したいものだ」

「できますよ! きっと! そしたら、またあの素敵な町を見て回りたいです!」

「ククッ……随分と機嫌が良いじゃないか」

「悪くなるはずがありません! だって……私は今まで、あんなに素敵な町は見たことが無かったですから。こんなに早く再訪できるなんて嬉しくて堪りません!」

「フッ……紛いなりにも私の護る町だ。手放しに褒められて悪い気はしないな」


 ファントが近付くにつれ、どんどんと上機嫌に興奮していくシズクと言葉を交わしながら、テミスは満足気に息を漏らした。

 元より、ファントの町は私のような流れ者でも温かく受け入れてくれる度量の広い町だった。

 私はただ、元より在った優れた基盤を整え、並み居る外敵から守ってきただけだ。

 しかし、自らが愛し、根を下ろした町の一員として、シズクの言葉を喜ぶのは少しばかり烏滸がましいだろうか。

 

「…………。いや……」


 あの町の者達ならばきっと、この話を聞けば大喜びして祝杯を挙げるのだろう。

 マーサの宿屋のホールにでも集って、わいわいと大騒ぎする皆の中でシズクがもみくちゃに持て囃され、私とアリーシャが笑いながら給仕に勤しみ、それをカウンターの向こう側からマーサさんが優しく見守っていて……。


「クス……」


 そんな、今にも目の前に浮かんできそうな光景を思い浮かべながら、テミスは窓の外へと顔を向けて柔らかな微笑みを零す。

 だがあのヴァイセが、ギルファーに居る私の元まで顔色を変えて飛んでくる程なのだ。実際にこの光景を目にするのは、しばらくお預けなのだろう。

 けれど、いつの日か必ず……。


「ああ……ヤタロウの奴を混ぜてやっても面白いかもな……」


 脳内に広がる幸せな光景をさらに加速させ、テミスがポツリと呟きを漏らした時だった。


「テミス様」


 コンコン。と軽い音と共に馬車の戸が叩かれ、テミスが視線を漂わせていた窓の外に、屋根の上から覗き込んだのであろう逆さまのヴァイセの顔が姿を現した。

 気を緩めている隙に突如として姿を現したヴァイセに、テミスは小さくビクリと肩を跳ねさせたが、即座に気を持ち直して静かに視線を向ける。


「このような格好で失礼します」

「何だ……? もう到着したのか?」

「いえ……」

「ハァ……冗談だ。ったく……ついさっき、この順調な旅路をシズクと喜んでいたというのに」


 屋根からぶら下がったであろう格好のまま報告を続けるヴァイセに、テミスは酷く気怠そうに深くため息を吐くと、ゆっくりと立ち上がって御者台へと移動すべく扉を開けた。


「テミスさん……?」

「気にするな。お前は馬車で寝坊助どもの御守をしていてくれ」


 前触れなく行動を開始したテミスに、傍らのシズクが指示を求めるようにその名を呼ぶが、テミスは小さく微笑んで言い残すと馬車の外へと這い出していく。


「よっ……と……。少し邪魔するぞ」

「わっ……!? テミス様っ!?」

「畏まらなくていい。幸いなことに二頭立てだ。御者台(ここ)ならばさほど不自然ではあるまい。ヴァイセ、どいつだ?」

「後方。左右に三人づつです。冒険者のような風体を装ってはいますが、任地に向かう訳でも無く、一定の距離を保って追いかけてきます」


 そのまま、テミスは慌てるハクトの横へと腰を落ち着けると、頭上のヴァイセへ向けって問いを投げかけた。

 すると、頭上から即座に返答があったが、ヴァイセもまた背後の追跡者たちに意識を向けているらしく、その声は僅かに小さかった。

 この馬車の全速力を出せば振り切る事は容易いのだろうが、街道に人が多いこの状況では、これ以上速度を上げて振り切るのは危険が伴う。

 ならば一度、敵の姿でも拝んでやるか……。と。

 テミスが馬車の横から背後を振り返った時だった。


「ン……? あいつら何を……ッ……!! テミス様ッ!!」

「――ッ!! 左翼半周防御ッ!」


 ヴァイセが緊張感に塗れた叫びを上げると同時に、テミスの鋭い指示が空気を切り裂いた。

 直後。

 パパパパァンッ!! と。

 複数の乾いた破裂音が、長閑な街道に木霊したのだった。

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