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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1170話 無貌の大地

 ギルファーを出発してから二日。

 あれ程まで雪深かった銀世界は既に無く、テミス達は少し肌寒い程度の冷涼な空気がただよう平原の中を疾駆していた。


「全く……恐れ入るな。この馬車には」


 そんな馬車の屋根の上で、テミスは悠然と周囲を見渡しながら、長い銀髪をたなびかせて呟きを漏らした。

 記憶が正しければ、この一帯は大した水場や体を休める村落も無く、故に旅人にとっての難所の一つとなっているはずだ。

 だが、圧倒的な機動力を誇る馬車を駆るテミス達にとっては、多少の空白地帯など恐るるに足らず、ファントへ向けての旅の足を止める事は無かった。


「背の高い木は碌に生えておらず、周囲を警戒をするには容易い平原ではあるが……」


 既に傾き始めている陽を背に、テミスは僅かに考え込みながら思考を漏らす。

 こちらが周囲を警戒しやすいという事は即ち、襲撃を企む側にとっても獲物を見付けるのが容易い地であるという事で。

 このまま御者役を変えて夜通し走り続ければ、疲労による速度の低下を考慮したとしても、明日の夕方頃には次の町まで辿り着けるはずだ。


「フム……」

「……? テミスさん? どうしました?」

「いや……な……。……そうか。シズク、この平原で夜を明かすか否か……お前はどう思う?」


 休息を取るか否か。悩むテミスの唸り声を聞きつけたのか、御者台に座っていたシズクが風を切る音に負けぬように、声を張り上げて問いかけた。

 その問いに、テミスは始めは生返事を返していたものの、何か思い直したように一度頷くと、屋根の上から御者台へと降りながら問いを返す。


「へ……? 私はてっきり、そろそろ野営の準備を始めるものだとばかり思っていましたが……」

「なに……? シズク、視界の開けたこの平原で野営を構える危険性を理解していないのか?」

「確かに……野営をする時は野盗対策で街道を避けて天幕を張るのは基本ですが、これだけ見通しのいい場所ですからテミスさん達も居る事ですし、無理をして進む必要は無いと思います」


 すると、シズクは不思議そうに小首をかしげると、目をパチパチと瞬かせながらテミスへと問い返す。

 その問いには、テミス達へ向けられた純粋で無垢な信頼が込められており、輝かんばかりのその感情を向けられたテミスは毒気を抜かれ、目を見開いてシズクを見返す事しかできなかった。


「だって、テミスさんが居るだけでも襲ってきた人達が可哀そうなくらいなんですよ? なのにヴァイセさんや私たちも控えていますし」

「あ……あぁ……」

「あれ……? えっと……私、何かおかしなこと言っていますか?」

「いや……」


 事実。今の面子であれば、俄か盗賊など何人で襲ってきたところでいくらでも相手に出来るだろう。

 故に。テミスは何も言い返す事はできず、自らが悩んでいた事すら馬鹿馬鹿しくなって苦笑いを零す。


「クス……それもそうか」

「はい! では、そろそろ日も暮れますし、この辺りで野営を張りましょう!」

「解った。下の連中にもそう伝えよう」


 そう言い残して、テミスは御者台から馬車の中へと身を滑り込ませ、中で和やかに談笑をしていたヴァイセ達へと声を掛ける。


「会話が弾んでいるのは何よりだが、そろそろ野営の準備をする。シズクが場所を見繕い次第停車して野営陣を張る」

「ッ……! 了解しました」

「はい! でしたら、私は食事の準備をしますね!! テミスさん直伝のこの腕を存分に振るってみせますよ!!」

「なにっ……!? まさか……本当に……!?」


 テミスの指示を聞いたアヤが、胸を張って高らかにそう宣言すると、驚きを露わにしたヴァイセが目を剥いてアヤへと視線を向けた後、そのまま信じられないものでも見るかのような目でテミスへと視線を移した。

 察するに、イヅルの出しているラーメンや寿司のような、あちらの世界特有の手の込んだ料理でも教え込んだと思っているのだろうが、テミスとて彼のように極めて料理が得意だという訳でも無く、白銀の館で彼女たちに仕込んだのは基礎的な料理ばかりだ。


「……勘違いするな。こいつ等が大言壮語する程大した料理は教えていない。ほんの家庭料理程度のものだ」

「そんな事はありません!! あんなに美味しいご飯を作る事ができるのでしたら、間違い無く酒場か食事処を営んでいますよ!!」

「……なんて言ってますけど?」

「ハァ……。心配せずとも、味は保証するさ。腕は確かだ。だが、イヅルの店のような品は期待するなよ」


 ヴァイセの眼差しにテミスは余分な事を喋らぬよう、一応の保険を兼ねて釘を刺すが、傍らのアヤは声高にそれさえも否定してみせる。

 そんなアヤとヴァイセに、テミスは疲れ果てたかのように溜息を吐くと、肩を竦めて早々に説得を諦めたのだった。

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