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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1166話 友好の証

「言ったはずだよ。何があろうと悪いようにはしないと」


 そう前置きをすると、ヤタロウは静かに立ち上がって戸口で振り返っているテミスへと近付くと、その肩へ柔らかく手を置いて言葉を続けた。


「話を聞く限り、敵は厄介極まりないらしい。恐らく、君が帰還してくることも含めて準備を整えているだろうね」

「だからなんだ。留守を狙われて黙っているほど私は間抜けではないぞ?」

「君の事だ。そのくらい解っているさ。けれど……どうするつもりだい? 相手は君の町を既に掌握していると見るべきだ。仲間を相手取っても、剣一本振り回しながら斬り込んでいくつもりかい?」

「っ……!!」


 ヤタロウの理路整然とした静かな言葉に核心を突かれ、テミスは言葉を返す事ができずに息を呑む。

 事実。今のテミスの頭の中には策など無い。ただあるのは、アリーシャ達の無事を確かめ、この下らない策謀を巡らせた奴を叩きのめすという激情のみ。

 このまま大急ぎでファントに戻ったとして、もしも黒銀騎団や白翼騎士団の連中が立ちはだかるというのなら……ヤタロウの言葉通り、斬り捨てて進むしかないだろう。


「そんな事をしても敵を喜ばせるだけだ。傷付いているのは君の……ファントの兵なんだからね」

「だったら……どうしろと?」


 柔らかな口調ながらも、きっぱりとそう断言したヤタロウに、テミスは唸るような声で問い返した。

 ファントの内情を探るにしても、容姿の知れ渡っているテミスは極めて不向きだろう。

 だが、ヴァイセとてファントで暮らす兵の一人。情報収集の面で見れば、テミスよりはまだ自由に動けるだろうが、危険であることに変わりはない。


「本当は、もう少し落ち着いてからにしようと思っていたんだけれどね。そういう事なら話が別だ。テミス……一つ頼みを聞いてくれないかい?」

「頼みだと……? 正気か? 今の私の状況を理解しているのか?」

「フフ……勿論さ。だからこそ、君も気に入ってくれると思うけれどね?」


 意味深な笑みを浮かべてそう告げるヤタロウに、テミスは訝し気に眉を顰めて問いを返した。

 しかし、ヤタロウは相も変わらず意味深に……そして何処か得意気に笑みを深めると、ピンと人差し指を立てて言葉を続ける。


「ファントに一つ、館を頂きたい。いうなれば、ギルファーでいう白銀の館みたいな滞在施設だ」

「っ……!!」

「いつか私がファントへ行った時、いつでも滞在できるように寝床を確保したくてね。普段は……そうだね、連絡要員でも置いて交流を深めるというのはどうだろうか?」

「それって……ゥッ……!?」

「……ッ! なるほど。悪く無い案だ。こちらからも白銀の館に人員を置きたいと考えてはいた。だがそれもこれも、ひとまずはファントを奪還せねば話にならん」


 ヤタロウの提案に、テミスの背後に付き従っていたヴァイセが声を上げかけるが、テミスは素早くその腹に肘を叩き込んで黙らせると、クスリと笑みを浮かべて言葉を返した。

 ヴァイセもまた、この世界とは異なる世界の記憶を持つ者。ヤタロウの言葉から大使館のシステムを連想するのは無理も無い。

 だが、不用意にその名を用いる事となっては、こちらの正体を声高に宣伝しているようなもので、不利益にしか繋がらないだろう。

 そんなテミスの思惑をどう受け取ったのか、ヤタロウは再び意味深にクスリと笑うと、小さく頷いてから口を開いた。


「そうだね。だから……シズク。君には一個小隊を率いて、テミスと共に連絡要員としてファントへ向かってほしいんだ」

「えっ……!?」

「なっ……!!」

「人選は隊長の君に任せるよ。我々はファントから学ぶ事は沢山あるはず……だから君達には、統治の仕方から外の噂話に至るまで、情報の収集を任せる予定だ。そしてテミス、有事の際は彼女たちの指揮権を君に預ける。自分の部下だと思って使ってあげて」

「っ……!! …………。ハッ……よくも私の前で、堂々と間者を紛れ込ませる宣言をしたものだと思ったが……考えたな。ヤタロウ」


 その口から語られた命令は、ただ状況を黙って見ている事しかできなかったシズクとカガリを驚愕させるには十分過ぎるほどで。

 しかし、ヤタロウは驚きに絶句するシズクに任務の詳細を告げた後、口角を歪めて笑みを浮かべ続けるテミスに向けて条件を語り切った。

 この提案は手勢の乏しいテミスにとって、垂涎する程のものではあった。だがテミスは同時に、これがヤタロウの策であることも理解していた。


「ククッ……たかだか友軍一個小隊を随分と高値で売り付けられたものだ。だが……それでも、今はその提案に乗るしかあるまいッ!!」

「売り付けるだなんてとんでもない。大丈夫、君が危惧しているような事にはきっとならないさ。私はこれからも、この友好が続くと信じているからね」

「チッ……相変わらず食えない奴め。まぁいい。出発は明朝だ。遅れるなよ」

「あぁ、身支度だけで構わないよ。旅支度はこちらで手配しよう」


 舌打ちと共にヤタロウの提案を承諾したテミスは、そう言い残して部屋を後にすべく扉を開ける。

 その背に向かって、ヤタロウは柔らかな微笑みを浮かべながら言葉を投げかけたのだった。

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