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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第20章

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1165話 故郷は今

「っ……!!」


 そこに籠っていたのは覚悟だった。

 悲しみ、信頼、心配……。真っ直ぐと向けられたヤタロウの視線には幾多の感情が渦巻いていたものの、彼の覚悟はそれらをまとめ上げ、燦然とした輝きを放っていた。


「……そうか。ヴァイセ。構わないからここで話せ。お前は何故ここへ来た?」

「テミス様ッ……!? ですが……」

「構わないと言った。話して尚、私が聞かせるべきでは無かったと判断したら、この手で口を封じれば済む」

「っ……!!」


 ピシリ。と。

 テミスがまるで何でもない事かのようにそう言葉を返すと、ヴァイセを含めたその場に居る者達の間に緊張が走る。

 それもそのはずだ。仮にもヤタロウはギルファーを統べる王なのだ。そんな人物を前に口封じをするなどと口走れば、緊張が迸るのも無理は無い。

 だが。ここで引いてしまえばヤタロウの見せた覚悟が無駄になる。

 そう理解しているからこそ、テミスは皮肉気に頬を歪めたまま言葉を続けた。


「そうだろう? ヤタロウ。コイツがどんな情報を携えてやって来たかなど私とて解らんのだ。それがファントにとって致命傷となるのなら、相応の処置だと思うが?」

「貴様ッ……!! 何を言っているのか――」

「――勿論さ。それで良いよ。君は部屋の外で人払いをしていてくれるかな? 私は君がそうしないと信じているからね」

「ですがッ……!!」

「大丈夫さ。それとも君は、王命に逆らうのかい?」

「ッ……!!!」


 テミスのあまりにも常識を欠いた物言いに、扉の傍らで控えていた兵が気炎を上げるが、ヤタロウは緩やかな笑顔でそれを制して兵を退かせた。


「クク……酷い王様だ。忠義を無碍にするとは」

「まさか。私は死地から身を挺して部下を救う優しい王のつもりなのだけれどね」

「フン……それで? お前達はどうする?」

「わ……私も!! テミスさんを信じていますから!!」

「姉様が残るのなら私も。でも、姉様は斬らせない」


 しかし、テミスは口惜し気に歯噛みをしながら部屋を後にする兵を一瞥しただけで、不敵に喉を鳴らして笑いながらヤタロウと言葉を交わした後、傍らで同席して居たシズクとカガリへと視線を向ける。

 すると、シズクもカガリもまるでそれを予測していたかのように即座に返答を返し、ヤタロウと同じく覚悟の籠った瞳でテミスを見返していた。


「フン……。だ、そうだ。ヴァイセ。報告を聞こう」

「は……はいっ……!!」


 これ以上の問答は無意味。そう判断したテミスがそう指示を出すと、ヴァイセはピシリと機敏な動きで立ち上がり、一同の視線を集めてから語り始める。


「はじまりは。アイツが……フリーディアの姉さんがあいつを招き入れてからおかしくなってったんです」

「フリーディアが招き入れた……?」

「はい。ある日突然、マモルって男を特別顧問に迎えるって通達があったんです」

「マモル……」

「思えばあの時点で、異変に気付くべきでした。でも奴の指示は的確で……あいつの言う通りに動けば、その結果皆が幸せになれた」

「皆……ね……」

「…………」


 語り始めたヴァイセが一息を吐くと、ヤタロウの呟きが静かな部屋の中に木霊して消える。

 その木霊を聞きながら、テミスは唇を固く結んだまま聞き出した情報を己の中で整理していた。

 まず、名前からしてその謎の男は転生者とみて間違いないだろう。

 ならばその能力は恐らく洗脳系。あのフリーディアが、私の不在を狙って事を起こすとは考え難い。

 故に。何らかの手によってマモルとかいう男の手に堕ちたフリーディアによって、ファントの実権を奪われたと考えるべきだが……。


「今、ファントはフリーディアの姉さんを筆頭にする人間派と、オヴィム様とサキュド様率いる魔族派で大きく二つに分かれています」

「それって、ギルファー(ウチ)みたいに? だとすると、変化がないなんて事にはならないと思いますが……」

「分かれている……といっても内々の話です。税や売り物の金額が違う程度。奴等の言い分としては、争わない為の区別……棲み分けだと言っていました」

「…………」

「勿論!! 反対の声も出ましたし、マーサさんの宿とかイズルの店とか従わない人達だって居ました。ですが……従えば店は儲かりますし、仕事は楽になる。そうやって次第に住人達も受け入れていったんです」

「えっ……!?」

「ッ……!!」


 マーサの宿の名前が出た瞬間。シズクが鋭く息を呑み、テミスの肩がピクリと跳ねた。

 無論。ファントに住むヴァイセがその重要性(・・・)を知らない筈もなく、ガクガクと恐怖に膝を震わせながらも、気丈に報告を続けていく。


「勿論、今も従っていない人はいます。ですが割を食っているのは主に、魔族たちや俺達みたいな歯向かう元冒険者将校ですから。皆、歯を食いしばってテミスさんが帰ってくるのを待っているんです!!」

「解った」


 ヴァイセがそう報告を締めくくると、テミスはただ一言だけ言葉を返して即座に立ち上がった。

 これは明らかに侵略行為だ。武力を以て攻めるのではなく、じわじわと毒のように内側から腐らせていく。

 企んだのが何処のどいつにしても、ひとまずファントを脅かす脅威は排除する必要があるだろう。


「そういう事だ。攻め込まれている訳では無いらしいが火急のようだ。すまないが私は急ぎファントへ戻る。ヤタロウ、シズク、カガリ、いずれまた会おう。ヴァイセ。行くぞ」

「……!! はい!」

「待つんだ」

「……?」


 そう判断したテミスが身を翻し、別れの挨拶もそこそこに、部屋を後にすべく一歩を踏み出した時。

 ヤタロウの静かな声が、テミスの背を呼び止めたのだった。

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