幕間 最強を救え
テミスとシズクと別れた後、コスケは壁に設えられた蝋燭の薄い明りが照らし出す通路を、足早に駆け抜けていく。
ここはギルファー王城の中層に位置する区画。その入り組んだ構造は、この城に勤めるものですら時折迷ってしまう程で。
しかし、薄闇の中をかけるコスケの歩みに迷いは無く、口元に薄い笑みすら浮かべていた。
「テミスサン……。滴サンが出会ったのがアナタで本当に良かった。アナタと共に進む事で、滴サンはきっともっと大きく成長できる……」
曲がり角に辿り着くと、コスケは壁へと背を預けて慎重に先を覗きながら、己が抱いた不安を押し殺すように呟きを漏らした。
これまで種族を問わず、多くの者達と出会ってきたが、彼女は恐らくその中でも最強と言える存在だろう。
そんな人間が、ああも好ましい性根を持ち合わせていたのだ。己が妹のような存在であるシズクを預けるならば、これ以上の人選は無いだろう。
「ふふ……アタシとしては、一緒にご両親を助けに向かっても良かったんですケドねぇ……」
先の安全を確かめた後、コスケはヒラリと身を翻して再び駆け出しながら、口元に笑みを深めて独り言を続ける。
テミスという強者が共に居るとはいえ、どちらがシズクの身が安全であるかで判ずるならば、先へ進ませるなど論外だろう。
しかし、コスケはシズクが長い間、己の弱さに悩み続けている事を知っていた。そしてその悩みに答えを出すためには、可能な限り安全に視線を潜り抜ける事のできるこの戦いを逃せば、これを上回る絶好の機会など存在しないだろう。
「その為なら……アタシは鬼にでも何にでもなりましょう。たとえ……己が分を超えた役目であろう……とッ!!」
笑顔のまま覚悟を定めるように呟くと、コスケは一つの扉に相対して立ち止まった。
そして、戸に設えられた小さな鍵を無視して身を寄せると、力を込めて強引に扉をこじ開ける。
「ッ……グッ……!! ウッ……!! 良かった……情報通りですね」
その先には、槍や刀など多種多様な武具が所狭しと並べられており、扉を破ったコスケは強かに打ち付けた腰を擦って立ち上がると、並べられた刀を次々と見繕っていく。
時間が無いとはいえ、これから助け出すのはこのギルファーでも最強と名高い二人なのだ。
万事屋の名にかけて、鈍らな武器等用意できるはずもない。
「っ……!! よし、こんな所でしょう」
キン……。と。
小さな音と共に、コスケは刃を確かめる為に僅かに鞘から抜いた刀を戻すと、一息を吐きながら改めて周囲へと目を向けた。
全てを見聞できたわけではないが、この数振りの刀ならば、これから挑む決戦に十分耐えうる業物だろう。
「おっと……一応、アタシも持っておきますか」
武器庫の出口へと踵を返す途中で、コスケはふと思いついたように声を上げると、手近な所に収められていた刀を一振り拾い上げて、無造作に腰へと挿した。
その後。両腕に刀を抱えたコスケは、一度たりとも振り返ることなく押し入った扉へと踵を返すと、己が役目を果たすべく不敵な笑みを携えて武器庫を後にしたのだった。




