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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第19章

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1128話 手折れた片翼

「――ッガ……!!! ギィ……ァァァァァアアアアアッッッッ!!!」


 絶叫と共に、むんずとテミスの背に生える純白の羽を掴んだヤトガミの剛腕によって、肉の裂ける音を響かせながら毟り取られる。

 否。肉の裂ける音だけではない。

 ブチブチと腱は引き千切れ、力ずくで掴み取られた骨は折れていた。

 まさに肢体の一部。テミスの身体と一体になっていた羽は、その傷口から夥しい血を噴き出しながら捥がれ、まずは片翼……無傷であった左手で掴まれていた右の翼がテミスの体から離れると、ボトリと音を立てて床へと落ちる。


「ブプッ……ゴ……ァ……ッ!! フッ……獣とは良く言ったものだ。罠に嵌まった獣は己が足が千切れるまで暴れ続ける……今の貴様のようにな」


 ヤトガミは己が手に捕らわれた腕の中で、激痛に暴れ狂うテミスにそう呟きながら、勝利の確信と共に口角を吊り上げた。

 手に負った傷のせいでひとまずは片翼しか毟り取る事はできなかったが、一度体から離れた翼が再び生える事は無かった。

 つまるところ、天の御使いを模したこの姿における力の源こそ、背に生えた純白の翼に他ならないという事だ。

 ならば、いくら素早かろうと、力が強かろうと、捕らえて毟れば決着は付く。

 現に、テミスの手刀は未だにヤトガミの腹に吞み込まれており、鍛え上げられた筋肉によって封じ込められている。

 残るは片翼。

 傷付いた右手をテミスの肩へと移し、全力を込めることのできる左手でテミスの左翼を掴んだ時だった。


「ァァ……ア……? グゥッ……!? な……何……が……?」

「……ッ!!」


 徐々に小さくなっていった叫びが途絶えると、唐突に白目を剥いていたテミスの瞳に理性が戻り、痛みに顔を顰めながら混乱したかのように視線を周囲へと走らせる。

 同時に、ヤトガミの視界の隅では、翼を背中の肉ごと毟り取ったはずの傷が、両翼が揃っていた時とは比較にならない程に遅いが、みるみるうちに治癒していっていた。


「フッ……意識が戻ったか。だが、一歩遅かったな。既に決着だ。貴様が死ぬという運命に変わりはない」


 しかし、それも無意味。

 たとえ傷が治癒しようとも、力の根源たる両翼を捥がれれば紛い物の力は失われ、抗い得る強さも消失するだろう。

 故に、ヤトガミは勝ち誇った笑みを浮かべて宣言をすると、残ったテミスの左翼を引き千切るべく渾身の力を籠め始めた。

 だが。


「ククッ……なに、まだ幾らでもやりようはあるさ」

「ッ……!?」


 テミスはヤトガミの腹に囚われた腕を静かに緩めると、そのままヤトガミの胸の中心へ寄り添うように身体を預け、左手でぺたりと左胸に当てた。

 そして、その僅かな動きに警戒の色を強めたヤトガミが、更なる力を腕へと込める前に、テミスはそのまま体当たりをするかの如くヤトガミの身体に力を籠める。

 その瞬間。


「グゥァッッ……!?」


 バヂィッ!! と。

 一瞬だけテミスの身体が光を発し、ヤトガミの全身をすさまじい衝撃が貫いた。

 結果。そのあまりの衝撃に耐え切れず、ヤトガミはテミスの片翼を掴んでいた左手を離して後方へと吹き飛ばされる。

 それを冷たい視線で眺めながら、テミスはヤトガミに掴まれたが故に少し歪に曲がった片翼を僅かに揺らしてはためかせた。


「……フム。話には聞いていたが、なるほど」

「オッ……ゴハッ……ウグゥゥッ……!!」

「何とも皮肉な姿だな。ともあれ、実に痛快な目覚めだった。半身を毟り取られるが如き激痛とは、ああいったものを言うのだろうな。危うく気が狂うかと思ったぞ」


 吹き飛ばされたヤトガミは、その巨体からブスブスと細い黒煙を上げながら悶絶していたが、テミスは構わずに涼しい顔のまま語り掛ける。

 同時に、部屋の片隅に転がっていた漆黒の大剣に目を止めると、ヤトガミから視線を逸らして歩み寄り、無造作に拾い上げた。


「電撃と浸透勁の合わせ技だ。普段ならば私の身体が持たんが、なかなかどうして無茶を押し通す事ができるらしい」


 テミスはクスリと不敵な笑みと共に大剣を担ぎ上げると、朗々とした口調で語りながらヤトガミの前へと踵を返す。その肩に担がれた漆黒の大剣は、隣で揺れている白翼が在るが故に、まるで引きちぎられた片翼の替わりのようだった。


「さて……奇しくもこうして立ち上がれたのだ。ここは一つ、再戦といこうじゃないか」

「貴……様……ッ……!!!」

「立てヤトガミ。まさか、王が武器を持たぬとは言うまい? 武器を出す間くらいは待ってやる。強さが全てなのだろう? ククッ……ならば化け物同士、仲良く喰らい合おうじゃないか」


 バサリ……と。

 テミスは皮肉気な笑みを浮かべると、残った片翼を大きくはためかせて、ヤトガミを見下ろしながらそう告げたのだった。

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